第6話 路面電車
「えー何でよ?」
蓮は拓也の答えに納得がいかない様子だった。
「本名を名乗れば無戸籍者である可能性がばれる。なぜならこの時代に兼村未来や知花蓮と言った人物の戸籍は無いからな。そこは偽名で使用して戸籍を作成して那覇の役所に提出しよう」
「えー戸籍まで作るの?」
「だよね。随分手が込んでいるね。おじさん、そこまでしないと駄目なの?」
「駄目だ。まず、未来ーは俺と同じ伊舎堂姓を名乗れ」
「わかった名前は何にしようなか?あの時代の沖縄って言ったら、やっぱりカマドゥ―だよね。じゃあ伊舎堂カマドにしよう」
未来はすぐにこの時代で名乗る偽名を決めた。
「えーすぐ決めていいばー蓮、どうしようかな?あんまり可愛くない名前は嫌なんだよね・・・苗字は翼―の苗字と波平の出身だから『波平』で・・・・名前はどうしようかな?」
蓮が名前が決まらず、迷っていると・・・
「ツルとか良くないですか?」
「えー未来ーそれはださくない?」
「でも、漢字で書いたらかっこいいですよ。それにあの時代の沖縄ならチルーですし」
「なんかそば屋みたいで嫌だな。わかった。波平ツルでいいよ。波平ツルで。でもさ、未来―なら県立高等女学校に生徒として行けるけど、流石に蓮は無理だよね・・20だし」
「まぁ師範の方ならぎりぎり20ぐらいの人が在学している人はいるかもしれないけど・・・それでもこれじゃ・・東京帰りの沖縄出身の教員の方がリアルかもしれないね」
沙夜に言われると、「やっぱり・・・」
「私も出しているんだけど、こっちの蓮さんの経歴は読谷村波平出身。途中から東京の学校に行っていて私は恩師。そして最終学歴はお茶の水。私が卒業した大学だけどね」
「お茶の水!全部
「そう言うしかないの。証明書はパソコン書いてコピーしたからそれを持っていくだけでいい」
沙夜が言うと、蓮が「全部めちゃくちゃやっしぇ」とあきれた表情でスマホを触った。
「じゃあ沙夜さんはどんな経歴で出したんですか?」
「櫻崎学園から赴任して来た先生?まぁ未来さんが通っていた学校は戦前からあるみたいなので」
「えーそうなんだ」
蓮が白けた顔になった。
「みんな決めたか?」
拓也が未来と蓮に尋ねると、2人は「うん」と答えた。
「よし、戸籍を作成してコピーする。未来や蓮には戸籍謄本が必要だからな。そして戸籍はΨや東京にいる人型ロボットにデータを送信させ、コピーした書類を役所に提出させる。Ψ、頼んだぞ」
「はい。かしこまりました」
Ψは袴姿になると、さっと松尾山を降りた。
「Ψさん以外にもロボットがいるんだ」
蓮はΨ以外にも過去の時代にいるヒトガタロボットがいるとは思わなかった。
「いるぞそんなもん。それに未来が戸籍謄本が必要な理由は高等女学校で編入試験をうけるからだ」
「えー編入試験、試験とか好きじゃないんだけど」
未来が「試験」と聞いてテンション低めになった。
「大丈夫だろ。ダメもとで受ければいい。よし、これから県立高等女学校に行く。潜伏地は誰かに入られないように施錠する。女学校行きの路面電車に乗るぞ」全員、赤瓦の家の外に出た。拓也は全員が外に出るのを確認すると、スマホで隠れ家の家を施錠し、松尾山を出た。が、その途中、拓也はある建物を見た。それは沖縄警備隊区司令部の官舎だ。この時代はなんと松尾山にあるらしい。
(ここが官舎か・・やはり帝国機関の人間がいそうだな・・)
拓也は官舎を見つめながら他の3人と共に松尾山を去った。
「えー!この時代の沖縄って那覇でも読谷と変わらないじゃん」
蓮は那覇の街並みを見て車やバイクが通らない静かな雰囲気に驚いていた。未来も当時の那覇を想像すらしたことが無かったので、思わず辺りを見渡した。
(なんか沖縄ぽくないな)
未来は人力車がある当時の那覇に違和感を感じていたが、貴重な街並みなのでこっそりスマホで撮影していた。
「声がでかい。この時代の那覇は那覇区と呼ばれている。間違えても那覇市と言わないように。那覇市になるのは1921年からだ」
拓也が当時の那覇の呼び方について注意すると未来と連が「はい」と返事した。
「お前なんか本当に間違えるなよ」
拓也が心配そうにしていると未来は線路の跡を発見した。
「おじさんもしかしてこれ、路面電車?」
路面電車の線路を見た未来は線路に指をさした。
しかも、線路の近くには路面電車の停留所があり、「裁判所前」と書かれた表札があった。
「そうだ。かつての沖縄には1914年から1933年まで路面電車が20年近く存在していた。今から俺達はその路面電車に乗って裁判所前から女学校前まで向かう」
「えー沖縄って路面電車あったんですか?」
蓮はかつての沖縄に路面電車があった事を知らなかった。
「知らなかったのか?」
「はい。昔、沖縄に
「まあ、軽便鉄道に比べればマイナーだしな。でも、かつての沖縄には路面電車もあったんだ」
「じゃあその路面電車も軽敏鉄道と同じように戦争で廃線になったんですか?」
蓮は拓也に路面電車の事を聞いた。
「いや、さっき言ったように戦争前の1933年に廃線になったようだ。理由はバスとの競争に敗れたみたいだ」
「そんな事が・・・未来、これって本当なの?」縁は未来に聞いた。
「本当だよ。沖縄の路面電車は戦争で廃線になっていないよ」
「そうなんだ!あっ拓也さん、路面電車に乗るって事はあの時代の通貨を持っているの?」
蓮は路面電車に乗るのはいいが、路面電車に乗るには電車代がどうしても必要になる。その電車代を拓也が持っているのかどうか気になっていた。
「大丈夫だ。ちゃんとこの時代の通貨を持っている。4人分のお金だ」
拓也はお金を4人分渡した。
「後、未来ーはお金の計算ができないと思うから当時のお金の値段を今に相当すると何円になるかという早見表をあげる。カードみたいな形になっているけどな」
「ありがとうおじさん。」
未来が拓也にお礼を言っている間に茶色の車体にレトロな雰囲気を持つ路面電車が到着し、4人は電車に乗った。
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