第2話 赤瓦の家


 潜伏地である赤瓦の家の中に入ると、内部は伝統的な沖縄の家を残しつつ、現代的な家具・家電が搭載された家だった。


 未来と蓮は家の居間で足を延ばして休んだ。蓮はスマホを開くと、不思議な事にこちらでは電波が繋がっていた。


「ここは俺達『アルバース財団』が寝食をする隠れ家だ。だからここにはWi-Fiワイファイも繋がっているし、IHキッチンや冷蔵庫、洗濯機もある」


拓也が家の内部を紹介すると、蓮や未来は「アルバース財団」という聞いた事も無い組織の名前に「?」という表情を浮かべた。


アルバース財団、聞いた事も無い組織の名前だ。蓮と未来はスマホで財団の事を調べるが、情報は一切無かった。


「拓也さん、その・・アルバース財団って何ですか?」


蓮の困惑した質問に拓也は丁寧に財団について説明した。


「あっ、『アルバース財団』っていうのは正式名称はアルターネイトユニバース財団で、アルバースは略称だ。主に歴史改変やタイムパラドックス、といった時空犯罪を取り締まるタイムパトロール的な役割を持った巨大な組織だ。世界中に様々な支部があり、学校なんかも作っている。関西や沖縄にあるサガリバナ学園もその1つだ」


拓也が「サガリバナ学園」の名前を言うと、蓮は「えっ?」という顔をした。というのも彼女が現在、通っている大学だからだ。


「おじさん、私が通っている櫻崎学園さくらざきがくえんもそうだよね」


 未来が拓也に質問した。


「そうだ。でも、あっちは財団が買い取ったけどな。で、俺の仕事は過去の人のをふりをして潜入捜査をする。俺の隣にいるこの人は研究員だが、タイムマシンの操縦を担当している宗像沙夜むなかたさやだ」


 拓也は宗像沙夜と呼ばれる女性を紹介した。


「宗像です。夫が沖縄出身なので、戸籍上は辺土名ですが、仕事では旧姓を使っています。研究員ですが、タイムマシンの操縦免許を持っています」


 沙夜と呼ばれる女性がお辞儀をした。蓮や未来は「え?この人結婚していたの?」と思っていたが、確かによく見ると、結婚指輪をしていた。


 未来はそんな拓也を見て「ふーんじゃあこれが裏の仕事なんだ」と呟くと、拓也は気まずそうな表情で「そっ、そうだ。『アルバース財団』は秘密結社だから表向きフロント企業で勤務してなきゃダメなんだよ」と苦笑いをしていた。


 秘密結社にフロント企業?どうりで検索しても見つからなかったし、アルバース財団って胡散臭いヤのつく組織かなにかじゃないのか?と蓮はイマイチその組織が信用できなかった。


「あの、それって本当に信用していい組織なんですか?変なカルト団体じゃないんですよね?」


 蓮に指摘されると、拓也は「違う・・変なカルト団体なんかじゃない」と答えた。


「え?そうなんですか?なんか怪しい団体に見えるけど・・まぁでも・・ここは福州園じゃないですよね?」


 蓮はアルバース財団という組織を疑っていたが、ここが自分が恋人とデートで行った福州園では無い事だけはわかっていた。


「違う・・ここは那覇の久米と若狭の間にある丘、松尾山まちゅーやまと言って今の那覇商業や福州園がある場所だ」


 拓也が答えると、蓮が「え?さっき外で1916年の沖縄にいると言っていましたが、本当ですか?テレビの撮影とかじゃないんですか?」と拓也に質問した。


「信じられないかもしれないが、本当だ。テレビの撮影なんかじゃない。この時代は第一次大戦とも重なっているが、日本本土では大正デモクラシーと言って今の民主主義的な考えが芽生え出した時代だ。その動きは本土のみならず、沖縄でもそういう動きがあったんだ」



「へぇーこの時代って授業でもあまり習わないからわからないんですよねぇー」


「未来―もあまり好きな時代じゃない」


「でも未来―この時代だったら知っている人はいるだろ」


 拓也が未来に言うと、未来はリュックの中から2冊の本を出した。それらの本はかなりの年代物であり、それぞれ「古琉球」と「琉球人種論」と書かれていた。


「うん。確か伊波普猷いはふゆうが生きていたよね。だってあの人、1876年生まれだからさ」


 その様子を見た蓮は(伊波普猷って誰よ?ってかこんな古い本持っているってマニアックだな)と思っていた。


「生きているも何もその頃は現役で県立図書館の館長しているぞ」


「へぇーでも、若くないでしょ?」


「うん。俺の1個上だから40歳だ」


「そっかーでも、会ってみたいな」


 未来はニコニコしながら拓也を見ていたが、「未来―あまりニコニコするな。隣が引いているぞ」と拓也に注意された。


「はぁい」


 未来は拓也に注意されると、「古琉球」という本を読んだ。


「名前を聞くの忘れていたけど、本を読んでいるのが未来さんで、あなたが蓮さんよね?」


 沙夜が蓮に名前を聞いた。


「そうですけど・・・知花蓮って言います。出身は読谷です」


「蓮・・男の子みたいな名前だね」


「よく言われます」


「蓮さん、自分の事を名前で言うんだね」


 本土出身の沙夜にとって一人称が名前なのは心底びっくりなようだ。


「一人称は名前です。沖縄はみんなそうです」


 蓮は沙夜から目をそらしながらスマホをいじり、恋人と連絡を取っていた。


「まだ信用していないようだね・・・・」


 沙夜はノートにメモを取りながら蓮を見ていた。


「仕方ないだろー突然、タイムスリップして『アルバース財団』なんて聞いた事も無い組織に助けられたら、俺でも疑うよー怪しい団体じゃないかって。あー後、お前達は財団の規定で間違えて過去にタイムスリップして来た遭難者だから俺達が元の時代に返さないといけない。一応、この家もタイムマシンだから沙夜ーが操縦すれば元の時代に戻れるよー」


 拓也が言うと、蓮と未来は「え?本当に!」と目をキラキラさせていた。


「うん。2人とも、操縦室にいけ!」


 拓也と沙夜が立ち上がると、未来と蓮は2人について行き、キッチンの奥に進んだ脱衣所から右の方向にある操縦室に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る