第3話構成員か、幹部か
「私たちが幹部に…… ? 」
半ば信じられない発言をしたニゲラに場は白ける。この静寂を断ち切るようにヤマブキが口を開く。
「待て待て。幹部ってのは相当強いぞ ? 俺らはただの構成員。E・Pと戦う戦闘員でもないんだぞ?何でも幹部は人間の到底出来ない特殊な技を使うって話もある ! 俺たちにゃ無理よ」
一口に幹部と言っても、構成員とは比べ物にならない程の高い戦闘力と権力を持つ。イビルートの柱と言っても過言では無い。
「―――でももし、もしだよ ? 私たちが幹部になれれば……」
サクラが自信なさげに口を開く。そこに被せるようにツツジが言う。
「今の労働環境から脱出できる。でしょ ? 」
「そ、そう。」
「とは言いましても、どうやってその幹部たちを見つけるんですの ? 私たちには到底無理かと……」
エリカはヤマブキと同意見だった。
ここで春香は、「幹部になる」派と「このまま構成員で居続ける」派に二分した。
前者にはサクラ、ツツジ、ニゲラ。
後者にはヤマブキ、エリカ。
構成員派のヤマブキが幹部派に尋ねる。
「じゃあ、エリカも言ってたがどうやって幹部とコンタクトを取る ? 並の現場には滅多に姿を現さないぞ」
ツツジが答える。
「それはこちらからその並じゃない現場に向かえばいい。構成員の中にも幹部と会ったことのある人は聞いたことがある」
「でも会ったところで何も変わらないだろ。何だ ? 幹部に席譲ってくださいって言うってか ? 譲るわけないだろ」
「だから、ニゲラが言ったように殺すんだよ」
「つ、ツツジさん、ニゲラさんの言ったことは冗談で…本当に殺す訳では無いのでは…… それに、殺しただけで幹部の座を奪えるとは思えませんわ」
たまらずエリカが口を挟む。
「……悪の組織に力以外の序列があるか。それに俺たちも悪の組織の一員。殺すことに何の抵抗も無い。殺された側もそれを見ていた者も、何も口出しできないだろ」
ニゲラがエリカを諭すように言う。
「おいニゲラ ! いくらなんでもそこは越えちゃいけねぇラインだろ ! 」
「……俺たちがここにいる時点で手遅れだ」
「んだと…… ! ? 」
ニゲラたちから醸し出される「悪」のオーラが増す。ヤマブキたちにはニゲラが本物の「悪」に見えた。
遂にヤマブキが暴行に走った。ニゲラの胸ぐらを掴んで至近距離で睨みつける。
このままヤマブキがニゲラを殴れば春香の関係は崩壊する。
まるで冷戦をしているようだった。構成員派と幹部派の間に壁が築かれていく感覚だった。
この緊迫した状況に耐えかねたサクラは咄嗟に口を開いた。
「―――私はっ、私たちがいつか幹部になる為に、強くいようって、言いたかった」
「……… !」
サクラの発言に、ヤマブキははっとした。掴んでいた胸ぐらがするりと抜け落ちる。
「別に、構成員のままでも幹部になっても、今の労働環境が変わればそれでいいと思ってた。でも、その代償に春香のみんながバラバラになるんなら、私はそのままでいい。幹部なんかなりたくない」
サクラの目に、今にも溢れそうな涙が溜まっていた。
「サクラ……」
ツツジもニゲラも、サクラの思いも知らずに好き勝手言ったことを反省する。
エリカがサクラの背中を撫でて言った。
「私も、みんながバラバラになるのは嫌ですわ。それにサクラさんは、『私たちが幹部になる』と言ってましたわよね。ですから、今のような春香では幹部になっても仕方がない、と」
サクラは小さく頷く。そしてみんなに訴えかけるように言った。
「でも私は幹部になるのを諦めた訳じゃない。もし私が幹部になるきっかけを手に入れたら、みんなを幹部にしてあげる。そしてまた、こんな風に同期会をひらいて笑うんだ」
サクラの目は覚悟が決まっていた。
その目を見たヤマブキは、ふっ、と笑うとサクラの肩を持つ。
「何が幹部にしてあげるだ。幹部になるために一人で行動する気かよ?俺たちゃチームだ。頑張ってるサクラを裏目に何もせずに待ってるってな事はしねぇよ」
「……え ? 」
「俺たちの負けだよ。そんな目をされちゃあホントに夢が叶っちまうって思うだろ ? 」
「ヤマブキ……」
「そうですわ。やってもしてみないことを無理だって諦めるのは野暮、ですわよね」
「エリカ……」
構成員派は、ここに幹部派に降伏した。
「みんな、意見が揃ったってことでいい ? 」
ツツジがみんなに向けて尋ねると、一同は頷いた。
「じゃあ、これから私たちは組織を裏切ることになる。幹部を倒すってことはつまりそういう事だよ」
覚悟はできている。みんなそんな表情だった。
「まずは幹部を倒せるようになるための力をつけるところから始めるぞ。俺特製の筋トレメニューを……」
「力だけで何とかなる問題ではありませんわ。その前に幹部に接触するためのコネを作りませんと……」
「それも大事だけど、今は宴の時間でしょ ? さ、仕切り直して ! ビール持って ! 」
ツツジが手拍子しながら催促する。こういうのが得意なのが、ツツジの良い所である。
「よーし ! みんな、幹部を倒して、このクソみたいな労働環境からおさらばするぞー! !」
「「「「おー! !」」」」
―――ドッゴォォーン!!
全員が拳を突き上げた中で、ヤマブキの拳が爆発した。天井を焼き焦がし、周囲には黒煙が広がった。
ヤマブキ自身も何が起きているか理解ができていない。
「―――へ?」
ブラック⇄ブラック お汁粉サイダー @dummy_palace
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