第2話同期会

 ツツジの住むアパートに到着した。うきうきしながら呼び鈴を鳴らす。


「お、来たねサクラ。他の皆はもう集まってるから、入って入って」


ツツジがサクラを歓迎し家の中へと招き入れた。


中に入ると、真ん中のテーブルを他の同期3人が囲んでいた。テーブルの上にあるのは、缶ビールとたこ焼き器。既に美味しそうな匂いが立ち込めている。

ツツジは元々座っていた右奥の方に座った。


「おー、サクラ! 待ってたぞ! 」


左手前側の男性が手を挙げ歓迎した。


「私の隣にどうぞ。サクラさん? 」


右手前側のおしとやかな女性が空いている隣の座布団を軽く叩く。サクラの為に空けておいた席だろう、紙皿とビールが既に用意されている。


左奥側の男性はサクラの方を見たが、何も言葉を発さなかった。


サクラは女性の隣に座ると、荷物を自分の片側に置いた。


「みんな、おつかれ。もう始まってる感じ? 」


「いや、もう焼き始めてはいるけど誰も食べてないし飲んでないよ。サクラが来てから始めようって」


「ありがと。そういえば―――」


宴の前に、サクラは手土産をみんなに配った。


「これは? 」


「あー、これ栄養ドリンク。みんな疲れてるかもなって…」


「へぇ、いいね。じゃ乾杯はこのドリンクにしよっか! 」


ツツジの提案にみんなは首を縦に振る。


「じゃあみんな、はじめよっか! ドリンク持って! 長い夜に―――」


「「「「かんぱーい! 」」」」


全員でドリンクをぶつけ合うと、一斉に栓を開けて勢いよく飲み干した。

日頃の疲れを吹き飛ばすが如く、全員の顔が一気に若返った。


 同期のメンバーはこの5人。

右奥側に座るのはツツジ。ウェーブのかかった髪に眼鏡をかけている。

同期一の陽気者で、こういった催し物を進んで開催するコミュニケーションお化け。同期の中で最年長でもある。



左奥側に座るのはニゲラ。青髪の高身長イケメン。すらっとした外見が好印象を与える。

寡黙な性格で、話しかけても一言で会話が終了してしまう。でも決して会話が楽しくない訳ではないらしい。高校時代は女子15人から告白された経験がある。

ちなみに、ニゲラはお酒に弱い為今回は麦茶を飲んでいる。



左手前側に座るのはヤマブキ。その名の通りの山吹色のトゲトゲした髪。それと素晴らしい筋肉を持つ青年。

漢らしさが溢れていて、いざと言う時に頼りになる存在。他の同期の話によると、私服は黒いタンクトップ以外着てるのを見たことがないらしい。



サクラを挟んで右手前側に座るのはエリカ。腰まで届くほど伸ばした金髪ストレートヘアがトレードマーク。

誰に対しても優しく、おしとやかなお嬢様。

身長が低く、その話をすると嫌われるので注意。


 この5人は勤務中いつも一緒にいる。イビルートは構成員たちをこのようにグループ分けするからだ。ちなみに、この5人組は「春香はるか」と名乗っている。


「―――んぐっ ! ? 」


「あ、サクラが引いた! ビー玉入りたこ焼き! 」


「ちょっとツツジ ! 何てもの入れてるんですの ! ? サクラさん、大丈夫ですの?さ、口から出して ! 」


「相変わらずツツジはすげー事思いつくぜ、なぁニゲラ? 」


「………」


このように、春香は和気あいあいとしている。他のメンバーたちにはない絆が生まれている。

故に、春香のみんなには次のようなこんな話もできた。


「みんなはよぉ、今のイビルートの仕事、どう思うよ? 」


 酔いが回り始めた頃、ヤマブキが唐突に質問を投げかけた。それにツツジが答える。


「何言ってんの。最っ低よ最低 ! 何よ3週間働いて休み一日って ! 」


「月収15万円ってのも納得いかない ! 」


サクラも混ざり始めた。エリカとニゲラも加わる。


「そうですわよね。どうしてこんなに福利厚生がなってないのか分かりませんわ……」


「………」


好き勝手言い出したみんなを見て質問したヤマブキ自身も喋り出す。


「へっ、みんな思ってること同じで良かったぜ。ここらで一つ、イビルートの愚痴大会を開こうや」


顔が火照っているツツジは勢いよく立ち上がった。


「さんせーい ! 今から止まらないぞー ! 」


ツツジから愚痴が始まった。


「なんですか ! あの衣装 ! ダッッサイんだよ ! 」


「分かる ! 全身黒タイツに白ベルト白ブーツ、そのうえ胸の辺りにでっかく『E』って ! ダサい ! 今令和だって ! ロ○ット団かよ ! 」


思わずサクラが突っ込んだ。そしてそのままサクラの愚痴へと移る。


「あと普通に犯罪させんのやめて貰えませんかね ! ? うちらは元々善良な日本国民なんですけど ! ? 仕事とはいえ恨まれんのやだ ! 」


「しかも、『E・P《イビルート・ポリス》』の皆さんに見つかったらひとたまりもありませんわ。私たちは幹部の皆さんや戦闘員のようには戦えませんもの」


サクラの愚痴に口出ししたエリカが今度は愚痴る。


「幹部と言えば…… 私たちに明確な昇進制度はあるのかも不明ですわね。幹部の人の暮らしは裕福らしいのですが…… 私たちとの間にどれだけ支払っている金額の差があるのでしょうか ? 」


「俺からも一つ。これでもかって程パワハラ多いよな ! 」


ヤマブキからも不満が。


「最近上級構成員の一人に強盗の見張りを頼まれたんだがよ、そいつがどんくせぇから窓ブチ破んのに手こずってたんだよ。だから俺が壊してやったんだ」


「ふむふむ。それで ? 」


「そしたら勝手に行動するなって言って後の強盗しごと全部押し付けて帰りやがった ! そのうえ上司に報告もされて散々だったぜ……」


「ひぇー。大変だったねー」


 

 ここて、今まで黙っていたニゲラから言葉が飛び出した。


「幹部も上司もみんな死ね。てか殺す。殺して俺たちが幹部になればいい」


急に言葉を発したかと思うと、だいぶ狂気的な発言。ニゲラが飲んでいるのは麦茶。酒になど酔っていない。

急に場が白けてしまった。


「私たちが、幹部に…… ? 」





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