ブラック⇄ブラック

お汁粉サイダー

第1話悪の組織のサクラさん

 時は2024年。場所は日本。多様性が少しづつ認められ、国民の生活水準の高いこの良き時代に…


一つの悪の組織が現れた!


その名は「イビルート」。「evil」と「root」からきており、悪の根を張り巡らせてこの世を支配してやる!という意気込みが込められているらしい。

彼らは一般市民を襲ったり、建物の破壊を試みるなど、国民に恐怖を与える行動を主にしている。

その勢力は凄まじく、ついにはイビルートを警戒するための国家機関、「E・P《イビルート・ポリス》」ができるまでになった。


国民たちに恐れられ、国家も問題視してきている現在、イビルートは順風満帆に事がすすめられている。このまま行けば国家転覆も夢では無い。


ただ、一つだけ問題があった。それは―――!



構成員社員への福利厚生が終わっていること!!



***




 「―――給料低ぅぅぅーーーっ! ! 」


街中の銀行で、一人の女性が給与明細を手に空まで響く程の嘆きを上げた。

周囲の人々は騒然とし、視線が彼女の方へ向く。

その大衆の視線を浴び正気に戻ったのか、

「あ」、と呟き赤面しながらそそくさと銀行から出ていった。


 給料が低かった事と恥ずかしい思いをした事に落ち込み、街中をとぼとぼと歩く。途中で思わずため息をつく。


「はぁ…… 今月もこれだけ…… なんでこんな仕事選んだんだろ」


彼女の名はサクラ。短い茶髪に平均的な身長。どこにでもいる平凡な人の容姿をしている。

が、こう見えて彼女はイビルートの構成員である。


大学卒業後、本来はイラストレーターの仕事に就くはずだったのだが、他の才能に挫折し諦めてしまった。

夢のついえた後は何にもやる気を見いだせずに就活はボロ負け。

結局、最後に適当に受けたイビルートの採用試験に合格してしまい、今ここに至る。


彼女も何回かイビルートとして悪事を働いたことがある。スリや傷害、不法侵入など…

危険な仕事をしているのに、月収は15万円。とんだブラック企業である。

しかし、彼女の生活がかかっている。最低限でもお金を貰うためにここまで頑張ってきているのだ。



 突然、サクラの鞄の中のスマホから着信が。

立ち止まり中を探って取り出すと、それに応答する。


「もしもし? 」


「サクラ? 私。ツツジだよ」


「ツツジ? 一体何の用? 」


「やだなー忘れちゃった? 今日私の家で同期会やろうって言ったじゃん! 」


「あー、そういえばそうだった…… 給料確認して絶望してたから忘れてた……」


電話越しに聞こえた声の主はツツジという、5人いるサクラの同期のうちの一人の女性。休みの今日、ツツジ宅で同期会を開くという。

前々から約束はしていたが、日頃の多忙と給料の少なさに忘れさせられていた。


「とにかく、今16時くらいでしょ? 3時間後くらいに来てよ! 皆にも伝えとくからさ。3週間ぶりの休みなんだし、パーッと楽しも! 」


「ありがと、ツツジ。私は一旦家に帰って準備してから行くよ。手ぶらでも申し訳無いからね。ん、それじゃ、また」


電話を切った頃にはサクラの頬が緩む。そしてそのまま、3時間後を待ちわびながら帰路に着いた。




***




「―――ただいまー」


自宅のアパートのドアを開け、誰もいない部屋に帰ってきた。

部屋は綺麗で、服はしっかりタンスにしまい、家に帰ってすぐ見えてくる水周りも整理整頓されていた。

ただ、机の上は昔のままで、高価な液晶タブレットとその周りには付箋がびっしり貼られた参考書が置いてあった。それらはうっすら埃をかぶっていた。


靴を脱ぐと、風呂場へ直行し身を清め、身だしなみを整えた。

その後、ふと思い出した。


「―――手ぶらで行っても悪いって言ったはいいものの…… 何を持ってけばいいかな? 」


サクラは家の中の食べ物を漁ってみたが、どれも封の空いた物ばかり。流石にこれを持っていくのは貧乏くさすぎる。


すると突然、呼び鈴か鳴った。


「? 誰だ? ―――はーい」


ドアを開けると、宅急便の男が立っていた。


「こんにちは。大和急便です。こちらお荷物と、サインだけお願いします」


荷物を受け取り、言われるがままにサインをした。その後、宅急便は去っていった。


「何かポチッたっけ……? 」


受け取った平たく横長なダンボールを見つめて頭に疑問符を浮かべる。


取り敢えず開けてみる。すると、中から純白の箱が。微かに中で瓶がぶつかる音がした。

その白い箱を取り出し開けてみると、中には液体が入った茶色い瓶が5本。


「これは…… 栄養ドリンク? ―――あー、もしかして前銀行強盗した日の夜に疲れきって謎テンションで買ったっけ。いらねー」


通販あるある、「買ったはいいものの、いざ届くと結局要らなくなる現象」を体験した。

しかし、サクラは思いついた。


「これ、お土産にしちゃうか! 」


丁度5本入りで切りもいい。そうと決まればこれをそのまま紙袋へと詰めた。

時間もいい感じ。このままツツジ宅へ向かった頃には19時になるだろう。


サクラは栄養ドリンクを提げてツツジ宅へと向かった。

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