第15話 さよならを言う頃には‥‥
「お兄ちゃんとしのお姉ちゃん、もう帰っちゃうの‥‥?」
「なんかごめんね。お母さん、普段は大人しいんだけど‥‥私が男の子と一緒に下校するなんて初めてだったから、かなりテンション上がっちゃったみたい」
白咲家の玄関で、俺と柴乃を見送りに来た桜はへにゃりと眉を下げ、申し訳なさそうな顔で謝ってくる。
「確かに、あんなにテンションの高い朱美さんはあまり見たことがありませんでした‥‥私は結構楽しかったですけど」
「柴乃の言うとおりだよ。初対面の人と話すのは苦手なんだけど、朱美さんのおかげで緊張はほぐれたし、楽しい時間だったよ。‥‥まぁかなり揶揄われたのは事実だけど」
柴乃の言葉に続いて、俺も桜をフォローするように口を開く。といっても、楽しい時間を過ごすことができたことは間違いないし、朱美さんの揶揄いも、反応に困ることはあれど、朱美さんなりの気遣いだという風に解釈しておく。そうでもしないと、俺の中で朱美さんがかなり危ない人になってしまいそうだ‥‥。
「そ、そう? ならよかったぁ‥‥」
俺と柴乃の言葉を聞いて、桜はほっと胸をなでおろした様子を見せる。そんな桜の様子を見て、俺と柴乃は目を合わせお互いふっと微笑む。桜が必要以上に落ち込まずに済んで、一安心だ。
「お兄ちゃん、またきてくれる?」
「そうだね。また会いに来るよ」
上目遣いで見上げてくる陽向くんの前で、俺は膝を曲げよしよしと頭を撫でてやる。俺の答えと撫でられることに満足したのか、陽向くんは幸せそうに「えへへ」と笑っている。かわいい。
「陽向もすっかり灰斗くんに懐いちゃってるね。元々あんまり人見知りはしないタイプだけど、それでも1日でこんなに懐くことはないから‥‥それだけ灰斗くんが魅力的な人ってことだね」
「そうかな? ただ陽向くんが人懐っこいだけだと思うけど‥‥」
「私たちが選んだ人ですから。灰斗さんは、私たちを助けてくれましたし、その恩を売ろうともしない素晴らしい方です。陽向くんにもそれがなんとなく分かっているのでしょう」
桜と柴乃の2人にべた褒めされて、俺は照れ臭くなってしまい少し顔を逸らす。
陽向くんには「お兄ちゃん顔あか~い」なんて言われるし、それを聞いた桜と柴乃にはクスクスと笑われる。穴があったら入りたい‥‥。
「けっこう話し込んじゃったね。あんまり遅くなったら灰斗くんに申し訳ないし、そろそろ解散しよっか」
「そうですね。私は隣なので問題ないですけど、灰斗さんのご両親も心配されるでしょうし‥‥近いうちにお伺いもさせていただかないと‥‥」
柴乃の最後のつぶやきはスルーし、スマホで時間を確認すれば19時を指そうとしている。日はほとんど地平線の向こうへ沈んでしまったようで、辺りは街灯や家から漏れ出る光が目立つようになっていた。
「2人の言うとおりだね。だいぶ暗くなってきてるし、俺はそろそろ帰ることにするよ。今日はありがとね」
「こちらこそです」
「楽しかったよ! またこうして遊べたら嬉しいな」
「お兄ちゃん、また遊んでね!」
別れの挨拶を済ませ、俺は少し名残惜しさを感じながら自分の家の方へと歩き出す。終わってみればあっという間で、今朝の憂鬱感などはなくなり、俺の心は満足感で満たされていた。
ただまぁ、聖女たちと学校で関わるっていうのは、これからもできるだけ避けていかないと大変なことになりそうだし、最低限の関わりで済ませたいところではある。あの2人相手に、そんな希望がまかり通るかは別として‥‥。
白聖女と黒聖女の間に挟まりたくはない! 海野 流 @kai0319
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