第40話


夢には時として自分の深層心理や胸の奥で抱いている願望が反映されるという。


だとしたらこれは、俺の願望が見せている光景なのだろうか。


俺の望みは、あの日に戻って告白をやり直すことなのだろうか。


『私のこと嫌い?付き合いたくない?』


『そ、それは…』


『私は本気だよ。本気で加賀美くんのことが好き』


『…その手には乗らないぞ』


『素直になってよ。それとも私じゃ加賀美くんの隣にいる女にふさわしくない?』


『…色仕掛けだ。そうに決まってる』


『私じゃ加賀美くんの彼女になれないかな?』


『…誰も巻き込むわけには行かない。俺には使命がある』


『私、巻き込まれても別にいいよ』


『…!?』


『加賀美くんがどんな使命を帯びていて、どんな危険に足を踏み入れていても、私は構わないよ』


『ダメだ…巻き込むわけには…』


『加賀美くんの言っていることが本当かどうかはわからないけど。でも私は本当に加賀美くんのために死んでもいいと思ってる。それでもダメ?』


『…っ』


『加賀美くん。教えて。本当の気持ち。私と付き合ってよ』


『…っ』


『私のこと、どう思ってる?』


『星宮…俺は…』


これが夢なのはわかっている。


星宮から告白された過去は、もうとっくの昔に過ぎ去っていて、やり直しができないことなどわかっている。


それでも…俺は自分の気持ちに素直になりたいと思った。


本当は告白されて嬉しかったことを今こそ星宮に伝えようと思った。


『だったら言うぞ星宮。俺はお前が好きだ』


『…っ!?』


『結構前からお前のことが好きだった。クラスで浮いている俺に臆することなく話しかけてきてくれたお前のことが』


『加賀美、くん…?』


『本当は寂しかったのかもしれない。だからこそ余計に、俺は自分の作り上げた設定を演じていた。自分の世界に入り込んでいた。けど、その世界の中にお前が入り込んできた』


『…』


『正直嬉しかった。なんで俺なんかに、とも思った。そして…さっき好きだと言われてめちゃくちゃ嬉しかった』


『…っ』


『星宮、俺はお前が好きだ。出来ることなら付き合いたいと思っている。お前はどうなんだ?』


『嬉しい』


『…!』


『私たち、両思いだったんだね』


星宮が笑顔を浮かべる。


俺はそんな星宮の顔を見て満足感に包まれた。


ようやく自分に正直になれた気がした。


これが夢なのはわかっている。


だけど、星宮に気持ちを伝えることができてよかった。


過去は変えることはできない。


だけど自分の中で決着をつけることができる。


いつも見ていた繰り返しの夢。


きっと俺の胸の奥の願望、そして後悔が見せていた夢。


それに、やっと正面から向かい合うことができた。



「兄貴!ちょっと!大丈夫!?」


声が聞こえる。


俺の体を誰かが揺さぶっている。


意識が夢のなかからゆっくりと組み上げられる。



「兄貴?あ、起きた」


「さ、くら…?」


目の前に桜の顔があった。


俺は目をあけ、視線を巡らせる。


俺は部屋のベッドで寝かされていて、その傍らに星宮と桜がいる。


自分が風邪をひいて寝込んでいたことを思い出した。



「兄貴、なんかすっごいうなされてたみたいだけど、大丈夫なの?」


「うなされてた?」


「うん、寝言とか言ってたみたい」


「寝言…?」


「星宮先輩、何か言ってましたよね?私は部屋の外からだったんで何を言ってたかまでは聞けなかったけど」


「ふぇ!?そ、そうかなぁ!?」


「あれ…?星宮先輩、なんかめっちゃ顔赤くないですか。大丈夫です?」


桜が星宮にそんなことを言う。


見れば星宮は本当に、顔を耳まで真っ赤にしていた。


「星宮先輩…もしかして兄貴の風邪が移ったんじゃないですか!?」


「ふぇ!?」


「わっ、おでこすっごい熱いですよ!これ熱ありません!?」


桜が星宮の額を手で触り、そんなことを言う。


星宮の顔はますます真っ赤になる。


「看病はもう私がやりますから!星宮先輩はもう帰って休んだ方がいいかもしれないです!兄貴の風邪をもらって芸能活動に支障が出たら、私申し訳ないです!」


「だ、大丈夫だよ…こ、これはその…風邪ではないと思うから…」


「絶対に帰った方がいいです!これ以上兄貴といたら悪化しますよ!家に帰って休んでください!」


「わ、わかったよ…確かにお邪魔しすぎたか

もね…」


桜に押されるようにして星宮が退室する。


数分後、ガチャンと玄関のドアを閉める音が聞こえてきた。


どうやら星宮は帰ったようだ。


「星宮…大丈夫だろうか…」


俺なんかのためにプリントを届け、看病までしてくてた星宮に風邪を移してしまったのだとしたら申し訳ない。


相当顔が赤くなっていたので、もしかしたらすでに熱もあるかもしれない。


「風邪が移ってなけりゃいいんだがな…とり

あえず熱でも測るか…」


俺は星宮のおかげでだいぶ体が軽くなっていることを自覚しながら、熱を測るために起き上がり、よろよろと部屋を出るのだった。

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厨二病の俺が国民的人気アイドルに告白されるはずがない taki @taki210

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