先輩ってかんじ

すきま

第1話

世間の認識でたぬき顔は魔性の女で、女の敵と言う人がいる。

間違いない。

彼女らたぬき顔の持ち主は、持ち前の可愛らしさを武器にあまたの男を誘惑する。まさに、魔性いや、魔女だ。


バイト先にちょうど、たぬき顔の先輩がいて、男の懐に入るのが上手く隙あれば誰かの隣で会話を楽しんでいる。

しかし僕には直感的な物なのだが、それに寒気らしいものを感じる。

笑っているように見えて心のどこかでは笑っていないのではないだろうか、ただ目を細めて口角を上げ、声を出しているだけなのではないか。

不気味だった。

だから表面上では親しくするが、心の底ではこの女には気を許してはいけない、この演技が見破られてはならないとビクビク怯えながら接していた。


そんなある日、彼女と2人で締めの作業をする機会があった。彼女は相変わらず甲高い声で笑い、今日は何をしただとか、週末はどこに行っただとか永遠に話せるのではないかと思えるほどひとり話を続ける。

さすがの限界を感じ、少しでも会話のキャッチボールができる内容がないかとは悩ませる。

ふと、彼女の彼氏について尋ねみた。

「落ち着くし、いい人だよ」とまるで告白を断る時のセリフのように答える。

あぁ、この人はあまり彼氏のことを好きじゃないのだろう。

数分の沈黙。初めての沈黙だ。今までどんなに退屈な話でも続けれた彼女が初めて話を続けなかった。


何分経っただろうか。少しして彼女はいつもとは違う低めの声で、いや気のせいかもしれないが話を始めた。

ほんの1週間前に中学生の頃の友人にあったらしい。彼女曰く男は端正な顔立ちに身長の高く、それはもう見違えていたという。

男との話は面白く、刺激的なものばかりで秒針が進むのが早かっただとか。

そして、今度遊びに行く約束がある。もちろん彼には内緒で。

先輩の彼氏とは少しだか面識がある。僕より三つ年上で既に社会に出ている。それなりの収入もあり、結婚なんかしたら女の方は働かなくても生きていけるだろう。


彼女は人生の岐路に立っていた。このまま今の彼と結婚すれば安泰だろう。不自由なく暮らし子供を作り円満な家庭を築けるはすだ。

しかし、彼女の心は既に男の方に傾いていた。

「まだ若いですよ」とどうせなら失敗する方でどんな終わりを迎えるのか見てみたいと思い口にする。


「バカ」初めて本心を聞けた気がした。

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先輩ってかんじ すきま @gamonaira

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