第3話 崩壊と孤独
黒木俊一のリーダーシップは、もはや限界に達していた。彼が強引に進めたプロジェクトは完全に失敗し、現場の混乱は収拾がつかないほどに広がっていた。それでも、黒木は自分が正しいと信じて疑わなかった。
「私はリーダーだ。私の指示に従わないから、こうなったんだ。すべては現場の無能さが原因だ!」
そう豪語する黒木の言葉は、もはや誰の心にも響かなかった。彼の言動が無軸であることは誰の目にも明らかであり、彼がリーダーとしての資質を欠いていることも、もはや隠しようがなかった。だが、黒木自身だけはそれに気づくことなく、リーダーという地位にしがみつき続けていた。
ある日、黒木はまたも大規模な会議を開いた。自信満々にプロジェクトの失敗を分析し、次なる方針を打ち出すつもりだった。しかし、会議室に集まったメンバーの顔には疲れと苛立ちがにじんでいた。
黒木が会議を進めようとしたその時、ついに一人の社員が立ち上がった。それは佐藤だった。彼は以前、黒木に異を唱えたことでプロジェクトから外された人物だった。
「黒木さん、もうこれ以上は無理です。あなたのリーダーシップは、誰も信頼していません。私たちは、あなたがリーダーの座から降りることを望んでいます。」
会議室は静寂に包まれた。誰もがその言葉を待っていたかのように、沈黙が続いた。黒木は驚き、怒りに満ちた顔で佐藤を睨みつけた。
「何を言っているんだ!私はリーダーだ!私はこの組織を導くためにここにいる!誰もが私を頼りにしているんだ!」
しかし、その言葉に対して、会議室にいる誰一人として同調しなかった。むしろ、佐藤に続いて他のメンバーも次々と立ち上がり、黒木のリーダーシップに対する不満を口にし始めた。
「あなたの言うことは、常にその場しのぎです。私たちはもう、あなたにはついていけません。」
「プロジェクトは失敗続きです。現場の声を聞かずに、独断で進めた結果です。」
「もう限界です。私たちは、あなたのリーダーシップを信じることができません。」
次々と上がる不満の声に、黒木は反論しようとしたが、その勢いに飲まれ、言葉を失ってしまった。自分が孤立していることに、ようやく気づいたのだ。
その夜、黒木は一人でオフィスに残っていた。誰も彼に話しかけることはなく、誰も彼を必要としていなかった。これまで彼が築いてきたものはすべて崩れ去り、残されたのは「リーダー」という空虚な肩書きだけだった。
「なぜ、こうなってしまったのか…」
黒木は自問自答したが、答えは見つからなかった。彼は自分がリーダーとして選ばれた理由を理解しておらず、ただその地位にしがみついていただけだった。そして、そのしがみつきが自分を孤立させ、組織全体を崩壊させたことにも気づけなかった。
数日後、黒木はリーダーの座を降りることになった。しかし、その決定は周囲からの圧力によるものであり、彼自身が自らの非を認めたわけではなかった。彼は最後まで、自分が正しいと信じ続けていた。
黒木が去った後、組織は徐々に再建され、新たなリーダーの下で少しずつ立ち直っていった。彼の存在は、まるでなかったかのように消え去り、誰も彼のことを語ることはなかった。
黒木俊一は、自分をリーダーだと信じて疑わなかった。しかし、彼が残したのは、崩壊したプロジェクトと失われた信頼、そして自らの孤独だけだった。
無茶苦茶な困ったリーダー 白鷺(楓賢) @bosanezaki92
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