希望を見つけ出せたなら

汐風 咲

希望を見つけ出せたなら

いくら努力したって、いくらもがいたって、追いつけるわけがなかった。どんなに手を伸ばしったて、どんなに頑張っても評価されないのは、自己中心な考えがあるからだろうか。近づきたくても、近づけない。矛盾だらけの性格に嫌味を覚え始めていた。だから私は、「死にたい」という思いが、こぼれ落ちていく。こんな気持ちになり始めたきっかけはなんだろうか、私が子供の頃はスポーティーで明るくて、誰にも分け隔てなく接していた子だった。でも今はその面影は一つもなくなっていた。大好きだった運動。大好きだった友達。そして、大好きだった私の母。でも今は、そんな自分を想像できない。「いつか」なんてこない。「信じる」なんて待てるわけがない。今を生きていくことに私は必死だ。だからもう、いっそこのまま––––––––––



その瞬間、眩しい光が私を包み込み、そのまま光の方へ連れ去れらてしまう感覚だった––––––––––––––––––––



第一章「過去の記憶たち」



「行ってきまーす!お母さん!」「行ってらっしゃい!4時には帰ってくるんだよ」「わかってるって〜」今日からは待ちに待った夏休み、小学校4年生である私は、友達と遊ぶ約束をしていた。女の子なのだけど、いつも鬼ごっことか、かくれんぼとか、いわゆる男の子らしい遊びをしていた。そういう性格もあってか、友達はみんな男の子が多かった。それでも少しでも自分のことは女の子だと思っていたので、女の子になるためにも色々なことをした。人形遊びをしたり、かわいいものを集めたり、色々工夫してみせた。「お待たせ!今日は何して遊ぶの?」「そうだな、今日は鬼ごっこして、トランプとかでもするか?もうちょいしたら2人くらい追加でくると思うわ。」「わかった!」私たちは毎日のように鬼ごっこをしたり、トランプをしていた。飽きを知らなかったんだろう。「明日は、プールでもいくか?」「うん!久しぶりに行きたい!」毎日が同じ内容でも、「おっ、やっときたかぁお前たち、だいぶ待ったんだぜぇー」毎日が平凡でも「まぁまぁ、そこまで言わない言わないのっ。ね?」それでもやっぱり毎日が新しいようで、毎日が大冒険のようで、毎日が楽しかった。「じゃあな!また明日な!「葵」!」「うん!また明日ね!」あっという間に時間は過ぎてゆき、長いようで短いようなひと時だった。「ただいまぁ!」はじけるような明るい声でそう言った。「おかえり。葵」母も私と同じようなはじける明るい声だったが、どこか大人びた落ち着いた声で言い返してみせた。「今日はね!みんなでね鬼ごっことか、トランプしたんだ!」毎日、同じ事を言っているけどお母さんは何一つ嫌な顔をしなかった。「そうなんだ!楽しかった?」「うん!楽しかった!」そう言って私は、意気揚々と自分の部屋へと戻って行った。夕飯まで、まだ二時間ほどある。今のうちに宿題を進めておこう。コツコツと、鉛筆の響きがいい音が部屋中に鳴り響いた。宿題はたった20分しかできなかった。でもそんなことは構わない。まだまだ夏休みは長いという優越感に浸っていた。宿題を忘れて、私は絵を描いていた。唯一私が女の子らしいと言える趣味だろう。幼い頃から絵を描くことだけは好きだった。絵に没頭している一階から「あおいー!ご飯できたわよー!」お母さんの声が響いて聞こえた。すかさず私は「はぁい!」ドタドタと大きな音を立てて、一階へと降りていく。今日は、私の好きなオムライスだった。「わぁあ!オムライスじゃん!」目を輝かせて、オムライスを口に放り込んだ。母の作るオムライスは、卵の焼き加減が良く、トロッとしていて美味しい。「ごちそうさまでした!」あっという間に完食し、少し両親と会話をして、2階へと上がっていった。自室に帰ってからは、夕飯前の絵を黙々と描いていた。小学校にも入る前のこと。私は、早くして姉を亡くした。どんな顔だったかも、写真ももうほとんど残っていない。でも一枚だけ、姉と私が写っている写真がある。この写真だけだけど。普段描いてる絵は、姉と一緒に行って見たい景色の絵が多い。もう行けないけど、想像して書くのは楽しい。

––––––––––––一時間ほどたった頃、トイレに行くために私は一階へ降りて行った。リビングからは、両親の声が聞こえた。「あの子、ずっと男の子らしいことばっかしてるの。困っちゃうわねぇ」「まぁまぁそんなこと言うなって。葵は葵らしくいさせてあげればどうだ?」「それでもあの子は女の子だから、少しでも女の子らしい–––––」ドキリとした。考えたこともなかった。母が悲しむ姿を初めて見たような気がした。「女の子らしい」「男の子らしい」何が違うのか。なぜ違わないといけないのか。その頃の私は、わからなかった。でも母の悲しむ姿を見て、胸が痛くなった。と言うことだけは覚えている。「女の子らしい、生き方…か……」ボソッと私は呟き、トイレに行ったあと二階へと上がっていった。

––––––––––––中学校に入っても、私は変わらなかった。いつものメンバーで、鬼ごっこ…はしなかったけど、それでもオンラインで話したり、ゲームをしたり、学校でも話の輪に入っていた。そこからだろうか、自分が女子であるという自覚が薄れ、少し女子を嫌っていた、いや苦手になり始めたのは…。

そんな楽しかった中学校生活もあっという間に過ぎ去っていき、いつの間にか高校生になろうとしていた。「みんな。高校になっても、一緒にいてくれる?」「あぁ、どうだろうな。お前といるのは楽しかったけど、いつかはもう遊べなくなる日が来るのかな」「そっかぁ。でも楽しみにしてるね」「おう。じゃあまた明日な」それからと言うもの中学の友達とは少しずつ疎遠になっていった。それでも、たまに一緒にオンラインで会話をしていた。だけれど、中学校の頃は三時間も、四時間も何時でもできる気がした。でも今は違う、長くても一時間。30分くらいの時が多かった。いつもは何気ない会話だってできた。でも話を切り出すのはいつも私から。必死に誘っているのは私だけ。バカみたい。私が私利私欲で周りを巻き込んでいるんだとひしひしと感じた。相手にとって「迷惑」だし、私は成長と共に心もあの頃よりは成長し少しずつ落ち着いたような考えが持てるようになった。どちらかというと、ネガティブな思考に偏ってしまったような気がする。いつものように2階に足を踏み入れる。「自分ってなんだろう。」小学校の頃に言われた「男の子らしい」この言葉だけがずっと引っかかっていた。「なんでっ。私は女の子として生きなきゃいけないのっ」疎遠になってしまったあいつらのことを思うと「嫌われたのかな。自分ばっかり勝手なことをしてしまった。」と色々なことが込み上げて、いつも胸が締め付けられていた。母は何を私に求めているの。色々な期待がいつの間にかそれは圧力に変わっていた。「そんな私ならいっそのこと…」引き出しをガサゴソと探す。「あ、あった。」心臓が大きく高鳴る。目を閉じて、覚悟を私は決めた。



第二章「光の行方はどこに」



「……てくだ…さい」うん?微かに声が聞こえた。「起きてください」「っはっ」誰かに呼び起こされた。目を擦って声のする方をみると、私の知らない人だった。「だ、誰?君は」「私は『ルナ』」「私は『葵』ってそんなことよりここってどこ?」「ここって言われても。なんて説明したらいいんだろう。うーんとここには、街があったり、広場があったり、ここみたいな草原があったり。色々なものがある場所…?説明って言われてもわかんないや」何それ、私たちが住んでる地球と同じじゃないか。でもなんだろう。地球と違った雰囲気を感じる。初めにここに来た時、地球のどこか。と言う感じではない異様な空間。空気。景色。「それで、葵ちゃんはどこに住んでるの?」「わ、私は」どうしよう。よくわからない光に連れ去られて、ここに来たから、家とかないよ。なんて答えようか…「わ、私、最近ここら辺に旅しに来てさ、泊まるところがなくてここにいるって感じ」どうだろう。こんな嘘バレちゃうかな。伺いながら、ルナの顔を見る。「そうなんですか⁉︎それは大変じゃないですか⁉︎ちょっと待っててくださいね!」慌てふためきながら、ルナは言う。ルナは、ポケットから、スマートフォンを取り出しどこかに連絡しているようだ。「本当に私たちの住むところと同じじゃないか…」ボソッと私はつぶやいた。ルナは気づいていないようだ。ルナがスマートフォンに齧り付く間に、辺りを見渡した。だだっ広い、草原が前には広がっており、草木が程よく生えていた。後ろを振り返るとおしゃれな、街が広がっており夢で見るような景色が私を包み込んでいた。本当にここどこなんだろう。ただぼーっと一面を見ている。ルナが私の肩をぽんぽんと叩いた。「葵ちゃん。本当に寝泊まりする場所ないんだよね?」こくりと頷き「うん。」と呟いた。「ならさ、うちで泊まって行かない?ここにどれくらい居るのか、わからないけど、ここに居る間はうちで生活していいよって!」「本当に⁉︎ありがとうルナ!」知らない土地にいて心細さを感じないまま、もう住むところまで解決して、色々と運が良いように感じた。それでもやっぱここに居る実感と、ルナにここまで優しくしてもらったことは謎のままである。「ルナ。そういえばルナはなんでここにいるの?」「うーん。なんというか気分転換?ずっと、お家にいるのもあんまりよくないのかなぁって思ってさ。」すごい。私なんか、気分転換に外に出る。なんておしゃれなことはできない。「そうなんだ。じゃあたまたま気分転換しに来てくれたお陰で、助けてもらって。ありがとうね。」「もちろんさ。でも最初は倒れていてびっくりしたよ、なかなか呼んでも気が付いていなかったしさ。」にこっと笑みを浮かばせながら、ルナは言った。「そうだったんだ…全然覚えてないや。ここに来るまでのことも。」そう、言ったが今考えれば、私ここに来る前何してたんだっけ。思い出せない。思い出そうとすると頭がズキズキ痛むような感覚に襲われた。「大丈夫ですか?」顔に出てたんだろう。ルナに気づかれてしまった。「うん。ちょっと頭痛がしてね。でもそんな大したことないから大丈夫だよ。」「そうなんですか…なんか色々大変みたいですね。これから私はお家の方に帰ろうと思うんですが、葵ちゃんもついてきますか?」「もちろん!というかそうじゃないといけないじゃん…」私はクスッと笑いながらそういった。「それもそうですねっ」ルナも笑みを浮かべて、2人並んでルナの家へと向かった。その道中でさまざまな家や建物を見た。案外草原からルナの家は遠いようで、少しずつ私の体力が消耗していった。「あ、案外遠いね…」「そうかもしれないですね。葵ちゃんは旅もあって疲れが溜まってるのかもしれないですね。私はしょっちゅう歩いたりするので、体力だけはついてきてますね!」体力がありすぎてすごいな…それにしてもあたりの建物は小洒落たものが多くてすごい。まるで洋風の世界にいるみたいだ。そんなことを考えて足を動かしていると、いつの間にかルナの家に着いていたらしい。「お疲れ様でした!ここがルナのお家ですっ!」やっぱりルナの家もおしゃれで、レンガ造りなのが洒落ている。「お邪魔しまーす」玄関に入ると、家の見た目ともマッチする、落ち着いたダークな感じの内装になっていた。「そんなにジロジロ見られると恥ずかしいですね…」「あっ、ごめん。立派な家でつい…」「まぁ、そんなことは置いといて、葵ちゃんの部屋はこっちだよ!」るんるんで部屋に行くルナの後ろ姿はなんとも可愛かった。「う、うん!」ルナについて行ってたどり着いた私の部屋。「わぁ、綺麗」きちんと整った部屋で、洋間の個室だった。難しそうな本がずらっと並ぶ本棚があり、頭から足まで伸ばせるくらい大きなソファ。ぬいぐるみなどが入っているガラスケースなどが入っていた。「ここ、使ってない部屋だから、使って!ただ…お掃除が間に合ってなくてちょっと埃っぽいかもしれないけどね…」ルナは「あはは」と苦笑いして見せた。確かに。少し埃っぽくて、綺麗な家には似つかなかった。「適当に掃除しといていい?」「そっちの方が助かる!私は、奥の部屋にいるから、何か困ったことがあったら言ってね。」「ありがとう。」そう言ってルナは私の部屋の扉をガチャリと閉め、自室に帰っていった。「さて、掃除でもしますかぁ」黙々とこの部屋を綺麗にしていった。「ふぅ」やっと終わった。30分くらいしかかからなかったので、案外楽だった。私は、ベットにごろんと寝転がり、ぼんやり今までのことを思い返してみる。……だめだ。どうしても草原からの前のことが思い返せない。思い出そうとすると頭の奥がズキズキと痛い。一旦このことは考えないでおこう。そうして目を閉じていると私はいつの間にか眠っていた–––––––––––



第三章「ぼんやりと見えてくる、あの頃を」



朝日がさんさんと降り注ぐ光で私は起きた。部屋から出るとルナの姿があって、ちょっとした支度をしているようだった。顔を洗って拭こうとしている時に私に気付いたようで軽く会釈しながら顔を拭いていた。「おはよぉ」私はルナに言った。「おはよ!葵ちゃん」おぉ。すごい朝から元気だ…まだ完全に眠気が取れていない私とは対照的だな…。「今日は、お買い物に行くから一緒に行かない?」「うん、いいよ。ちなみに何買いに行くの?」と返してみた。「うーん。お洋服とか、アクセサリーとかそういうのをみにいきたいな。あ、あとは普通にパンとか明日のご飯のものとかかなぁ」「なるほどね!」そんな小さな会話を終えて、お出かけの準備をしていた。

「いってきまーす!」支度を終え、私たちは大きなショッピングモールを目指してモノレールに乗っていた。隣町ではそう遠くなく20分もしないで着いた。初めてのるモノレールだったので、もうちょっと長く居たかったけどしょうがない。

「ねね、このお洋服どうですか⁉︎」っと言いながらルナがすごい勢いで私の元へ来た。 すごいな勢いが…。見てみると、かわいい花柄のワンピースで私好みなものだった。でも小柄な背丈のルナには少し大きいようには見えた。「ちょっと大きいかな?」というと「…そうだよね、でもさぁこのワンピースこのサイズしか売ってないんだけど」少し怒りっぽくルナは言っていた。「それは残念だね。また別のお店にも似合うのあると思うから、行ってみよ!」「うん!」

「これはどう?」「いやルナだったらこの服の方が…」「あぁ!これもかわいいね!」「あとはこれとか…」「なるほどそれも…」なんて会話をしていたらあっという間に時間が過ぎていた。「そろそろ、帰ろっか!」「うん!」家に帰ったあと、私たちは、買った服を着てファッションショーごっこをして遊んで、一日が終わった。

次の日も、その次の日も私たちは、家でのんびりゲームをしていたり、遊園地とか水族館とか色々な所を巡って行った。ここにくる前のことなんてとうに忘れ、充実していた。


––––––––––––「おはよぉー」今日も眠い目を擦り、私はそう呟いた、「葵ちゃんおはよ!」やっぱり、ルナは元気はつらつだ。「ねぇ、今日は何するの?」「今日は、どうしようかなぁ。そうだ!今日ねこの街で、花火大会があるの!よかったら一緒に行かない?」花火大会。想像しただけでワクワクしてきた。「うん!行きたい!」花火大会かぁ。私もよく行ったことがあったな。初めて花火を見た時。大きな音と共に広がる眩しい光が苦手で、よく家の中で耳を塞いで、薄い掛け布団を体に纏わせて、隠れて、怯えてたっけ。でも今となったら、夏の終わりをどこか感じさせて、とても風情のあるものだと感じている。涙腺が脆くなったのか、感受性が豊かになったのかわからないけど、花火はなぜか泣けてきてしまう。




––––––––––––あれ?私、いつの間にここに来る前のこと思い出せるようになったんだ?でもだめだ。これ以外のことは思い出せない。思い出そうとすると、また頭の奥がズキズキと痛む。「それじゃあ!お祭りは4時くらいから始まるので、それまではくつろいでてくださ〜い!」「うん。ありがとう。」そう言って、私はまた自分の部屋へと帰っていった。どうして、思い出せたんだろう。どうして他のことは思い出せないんだろう。二つの疑問が頭の中を駆け回る。なんでだろう。なんでだろう。私ずっとここにいて良いのかな………




––––––––––––夕暮れ時––––––––––––



「行きましょう!葵ちゃん!」「うん!」コツコツと下駄のいい音が響く。水色の鮮やかな浴衣姿でルナはとても似合っている。対して私は白のシャツに長ズボン。なかなか対照的で、横にいてお互い変に目立たないだろうか………とか考えてたらいつの間にか会場に着いていたらしい。「さぁ葵ちゃん!どこから回っていきますかっ!」目をキラキラさせてルナは言う。「焼きそば、かき氷、ベビーカステラ…うーんどれもいいな」長いこと考えているとルナがこっちをぱちぱちと覗いていることに気づいた。「ど、どうしたの?」「い、いやぁ葵ちゃんと出会ってから、いっつもクールですぐ何か決めてるイメージだったけど。初めてこんな悩んでるところ見たなぁって思ってさ」「なぁにそれっ。私かっていろいろ悩むんだよっー」そんなじゃれあいをしながら、屋台の方へと向かっていった。「まずは、私の好きなところから行っていい?私、かき氷だけは絶対お祭り来ると食べるんだよね」「そうなんですか⁉︎私も一緒で、お祭りに行くと絶対行きますね!」と言いながらかき氷の屋台の前に来てお互い頼んでいると「味も一緒じゃん!」と私は大きな声で言った。私もルナもどっちもブルーハワイ。すごい親近感があるなぁと感じた。他にも焼きそばや、唐揚げとか買って、花火が見える広場に来て腰を下ろしていると。急にドーンっと大きな音があたりを轟かした。「うわっ」ルナも私もとてもびっくりした。「やっぱり初めはびっくりしちゃうね!でも綺麗だな…」ルナも「そうですね…」よっぽど感銘を受けていたのか、口数もオーラもいつもより違っていた。ふと横に視線をやると…ルナが涙を流していた。イメージが付かなかった。艶やかな頬を伝っていく涙と煌びやかな花火が私たちを彩ってあっという間にフィナーレだった。

「楽しかったね!ルナ」「うん」この後も喋りながら家へ向かっていたけど少しルナは疲れている…?ような感じでいつもと違った。

ルナの様子が急変したのは翌朝のことだった。

いつものように、眠い目を擦りながら部屋から出る。でも今日はルナの姿が見えない。「あれ?」と思いながら身支度していても出てこない。おかしいと思ってルナの部屋をノックする。「…ルナ?いる?」数秒後にルナの声が返ってきた。「うん…起きてるよ…」いつもの元気は無くなっていて全くの別人のようだった。「る、ルナ?大丈夫?」恐る恐る聞いてみると「…大丈夫ですよ。でも少し一人にさせてください。」と無愛想だけが返ってきた。「そっかお大事にね」そう言ってルナの部屋から離れて行った。



–––––––––––ルナを助けないと–––––––––––


ただその一つだけで私の心は満たされていた。



第四章「私が見たのは」



ルナが自分の部屋に引きこもってもう4時間は経とうとしている。

でも私が不思議に思っていることがある。


––––––––––––ルナって私と似てる?というか、今までの私を見ているようだった。

謎の光に連れ去られてから長いことこの世界にいて、ルナと一緒にいるからそんなことを思うようになった。ただ単純に私に似ているじゃなくて、好きな食べ物も、好きな洋服も、心までとても似ているようだった。昔の私のような冒険心を持ってたり、今のような少し落ち着いたところとかも全部、私そっくりな–––––––––––

「痛っ」また、ズキズキと頭が痛い。私が元いた所を考えるとやっぱり頭痛がする。「何か忘れているのかな…」胸が高鳴っている。そして冷や汗も出てきた。



「なんだ…」胸が締め付けられて苦しい。でも思い出せない。

「なんだ…」息がうまくできないくらい考えたって。思い出せない。



       「なんなの…」




考えたって答えなんてちっともわからない。

もともと答えなんてなかったのかもしれない。




「これが最後でいい。」そう思って、部屋にノックをかけた。

ノックの音が鳴って、数秒間、無音が当たりを包んだ。

「やっぱりダメだったかな…」そう思うと、扉の方からひどく疲れ切ったような声が返ってきた。

「葵ちゃんですか…?」びっくりした。

「う、うん!そうだよ。体調?はだいじょ–––––」

「………葵ちゃんはしつこいですね」

「え?」

まさか、ルナがそんな言葉を使うとは…。いつも優しくて、なんというかほがらかな空気に包まれていたのに…


「いいんですよ。私のことなんて。」

「そんな。そんなこと言わないでよ…」心配より、悲しさが勝つ。

「いいんですよ。気にしなくても–––––」

「気にするよっ…気にするに決まってるじゃんっ…」涙声で、私は言った

ルナも驚いたのか、少し黙っていた。

重い空気の中、ルナは「私ね、ほんとは早くこの世界から消えてしまいたいの…

何やっても、うまくいかない。思い通りに動けなくて、いつもあの草原にいて、気持ちを落ち着かせているの。–––––––––「そんなこと」って思った?でも、私からすると、それが辛いの。理想の自分と現実の自分が違う。違いすぎる。だから……。だから…いっそのこと…死んじゃおう…って…。」

「そんなのおかしいっ!」行動より、頭の中の整理もできないまま、口だけが先に動いていた。「そう簡単に死ぬなんて、言わないでよ!」「私は、ルナのいいところたっくさん気づいてるよ!いつも笑顔で私と接してくれた。いつも、優しい口調で話してくれて、いつも私を助けてくれて。いつも、いつも、いつもっ…………そばにいてくれたじゃん…。」

「私も、死にたいって思ったことあるよ。というか今でも思ってるよ。でも、それでも『生きなきゃ。』希望の光なんていつかくる。なんてことない。助けてくれる、運命の人なんて現れるわけがない。でも、でも、でも…そう、信じないと。それすらも自分で否定しちゃうと。希望を見る前に、何もできないままに…終わっちゃうじゃん…。」「だから。『生きてよ…』ルナ。」「自分で勝手に終わらせちゃもったいないって…」息が切れていた…。呼吸も感情もぐちゃぐちゃで、立っていることすらしんどい。


––––––––––––「……ありがとう。葵ちゃん」そう言って、扉からルナは出てきた。




「生きる希望を見つけ直してくれてありがとう。」


そう言われて。私は光に包まれた–––––––––––





–––––––––––やっと思い出せたね。–––––––––––




第五章「最後の夏」



「っはっ」眩しい光にまた、連れ去られて、私は病院のベットで横たわっていた。うまく体を動かせない。首だけ横に向けると、そこには私の母が居た。

「やっと…目を覚ましたのね…。葵が生きてて。本当に良かった…」

正直何が何だかでよくわからなかった。さっきまでルナといたのに、今はもういない。「なんで、私、病院にいるの?」恐る恐る聞くと「あなたねっ、首をカッターで切ろうとしてたのよ。血管のギリギリだったから良かったけど。もう少し深かったら。葵、絶対死んでたわよ。」「そう…だったんだ…」そういえば、ルナがいない。「ルナは…?」聞いても誰も知らない。ということは、『あぁ、帰ってきたんだ。元の世界に。』


一ヶ月後、無事に私は退院することができた。私が自殺をしようとしていたことに改まって、両親も私も色々素直にいい明かすことができるようになった。




–––––––––––これからも私も、頑張って生きてみせるよ。

今でも草原というなの小さな草が茂っているところを見ると思い出す。

ルナを助けていたはずなのに。なんだか助けられたみたいだ。


          


      「ありがとう。ルナ。」






第六章「ルナの希望」



あの日、葵ちゃんが私の世界に入ってきた。まだ15歳だというのに。


「マスター様。一つお願いがあるのですが聞いてもらってもいいですか。」


「今、こちらの世界に来ている、『あおい』という子なのですが、向こうの世界に送り返すことはできないですか?まだ、あの子15歳で、本当に死んだわけじゃないんです。もう一度チャンスを作ってくれませんか?」


「分かった。でも、その生きる希望は、『ルナ』お前が作れ。」


「ありがとうございます!」


そう言って、私はあの草原に向かった。ここは死後の世界。現世で死んだら、ここで暮らすことになり。私はその案内役と言ったものだ。

いつもは死人に口無し。をモットーにしているのだが、



『葵というのは、私の妹なのだから。』

だからこそ長く生きて欲しかった。




–––––明日も頑張るんだよ。葵ちゃん–––––––





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

希望を見つけ出せたなら 汐風 咲 @rin743

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る