最終話

自分が好きになれなかった。

だから、自分を認めてもらうために他の人の顔色伺って、自分の存在を感じて。

気付いたら、自分の感情を圧し殺して毎日を過ごしていた気がする。

私は何のために生きているんだろうと、生きてきた理由を見つけられなかった。


「舞ちゃんはもっと自分を大事にしてええんよ。」

そうあなたが言ってくれたから。


泣く声が聞こえ、私は泣いている元に近づき、抱き上げた。

「どうしたのかなー。ママはここに居るよー。今日も将はかわいいね。」

そう私が言うとその子は微笑みだした。

その後ドタドタと階段を駆け降りてくる音が聞こえた。

「将、舞ちゃん大丈夫か!」

「大丈夫だよ、裕太くん。」


匠吾と離婚した一年後、私は裕太と再婚した。

匠吾には月に1回、将と面会を設けている。

一緒に暮らしていた時よりも匠吾は穏やかな顔になり、将の事も大切にしてくれている。


「良かったわー!寝ていたら声が聞こえたから飛び起きたわ。」

「ごめんね、昨日も徹夜で原稿書いていたんでしょ。」

「舞ちゃん!謝らないでええって言ってるやろ?俺は将の二人目のパパなんやから!」

「そうだね。」

「ほら、将!ママ休ませたって。俺が抱っこしたるから。」

そう言うと将を私から交代で抱き上げ、高い高いをした。

嬉しそうに将が笑っている。


私、幸せになっていいんだよね。

これが幸せなんだよね。

ふと、匠吾の事や裕太の事を考えると私はここで笑っていいのかと思ってしまいそうになる。

自分は幸せになっていいのか。

明るい、幸せだと感じる世界にいてもいいのか。

「舞ちゃん!」

そう悶々と考えていると将の両手を私の両頬を包み込んだ。

「ママがまた暗い顔しとるで、将!笑顔作戦や!」

そう言うと将が宝石みたいな笑みを浮かべて私に笑いかけてくれた。

「ほら、将の笑顔がママにとっては一番の薬やね!」


そうよね。

明るい世界を見ないようにしていたのは私だった。

それを教えてくれたのは、この生まれてきてくれたこの子と。


「ありがとう。裕太。」

「ん?なにか言ったか?」

「ううん、なんでもない。」

「ええ、気になるやんけー!」


その抜けに明るく、何よりこんな私を見捨てずに見つけ上げてくれた裕太が居てくれれば、きっと。


明るい世界を私は向かって歩いていける。

そんな気がするのだ。


明るい世界 完 




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明るい場所 舞季 @iruma0703

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