第3話 戦略の立て方
翌日の放課後。
私は制服のまま、千葉県千葉市にある、千葉ユニコーンズの球団事務所を訪れた。
もちろん、事前にアポは取っていた。
相手は、球団のオーナーだという。つまり、一番権力を持つ「所有者」だ。
プロ野球の球団と言っても、所詮は「民間企業」であり、利益を最大限に追求しないと、いずれは解体か身売りになる。
つまり、そこが「公務員」とは明らかに違うところだ。
収益を考え、損益分岐点を計算しないと、あっという間に赤字になる。そのくらいのことはもちろん私にもわかっている。
行ってみると、実に簡素な2階建ての事務所で、とても年間100万人を越える来場者数を抱えるプロ野球球団の事務所とは思えなかった。
受付で、名前を告げ、私は部屋に通される。
やがて、現れたのは60代くらいの恰幅のいい、中年男性だった。
「は、はじめまして。神宮寺美優です」
名刺すら持っていない私は、緊張しながら立ち上がって挨拶を交わす。
その男は、やはりと言うべきか、予想以上に不機嫌だった。
「ああ、聞いてるよ。しかし、神宮寺の奴は死んで、とんでもない置き土産を残して行ったなあ」
初めから歓迎されていないことを私は予期していたが、あからさまに否定から入るような発言と態度を見せられるのは、いい気分ではない。
「遺言だから、仕方ないから様子を見るが、ダメだった時は、わかってるな?」
「はい」
当然、オーナーとしては、こんな小娘に任せたくはないだろう。
世間的には、まだ働いたこともない、社会人としての経験値ゼロの小娘だ。恐らく数か月様子を見て、あっさり交代か、来々季の、次のGMをもう計算している可能性すらある。
会見は終始不機嫌なオーナーにより、一応最低限度の年俸(それでも1年契約1000万円、ただし未成年につき、保護者である母が管理という条件付き)が示され、後は球団事務所や、本拠地球場の説明があって、解散となる。
なお、千葉ユニコーンズは、いわゆる「太平洋リーグ」に組み込まれている。
そこには6球団があり、他に北から順番に、札幌カムイウィングス、仙台シャークス、埼玉ジャッカルズ、大阪ドリームス、福岡パイレーツがある。
そのリーグで年間143試合を戦って、上位3位以内に入り、プレーオフのファイナルシリーズで優勝すると、毎年、ジャパンシリーズで「中央リーグ」優勝チームと決戦を行い、それに勝つと「日本一」の球団となる。
それが、この日本プロ野球界のルールだった。
千葉ユニコーンズの今年度の成績は71勝69敗3分。首位とのゲーム差が15.0ゲームも離れていた。つまりギリギリ3位ではあるが、「強くはない」状態。勝率が5割前後というところだった。
優勝チームは、ダントツで福岡パイレーツであり、この球団は「
一方、千葉ユニコーンズは、4位の埼玉ジャッカルズとわずか1.0ゲーム差でギリギリ3位に滑り込んで、ファイナルシリーズに行けたに過ぎなかった。
私は、オーナーから示された本拠地球場に行ってみた。
千葉幕張スタジアム。
千葉県千葉市の海沿い、幕張エリアにある円形の綺麗なスタジアムだが、いかんせん老朽化が目立つ。
それもそのはずで、このスタジアムは建てられてからすでに30年が経過。しかも海沿いにあることから、鉄の腐食が目立つ。ありていに言えば、あらゆるところが「錆びて」いるのだ。その分、老朽化も早い。
その球場内にある、「オーナー室」と書いてあるのが、GM専用の部屋だった。
ちなみに、メジャーリーグでは、GMを採用している球団が多いが、日本ではまだGMを専属で置くチームが少ないから、オーナーや監督が兼任していることころもある。つまり、ここも「オーナー」がたまに来る時しか使われないので、代わりにGMが使っていいと言うことになっているらしい。
その小さな部屋の回転椅子だけは、やたらと立派な社長椅子のような、黒光りしたふかふかの椅子だったが、そこに座って、私は父への感傷に浸る間もなく、真っ先に考えた。
(優秀な頭脳が必要だ)
と。
自分一人では、父の理論があるとはいえ、さすがに無謀な挑戦だと、私はわかっていた。
つまり、「ブレーン」となる優秀な頭脳を持つ人物が、参謀役として必要になる。私が真っ先に手をつけたのがそこで、そのためには資金を惜しまない予定だった。
同時にその頭脳の持ち主は「野球」と関係なくてもいいとすら思っていた。
頭が良くて、有能な人物が傍にいれば、それだけで「勝算」が少しは上がるはずだと考えたのだ。
女子高生GMの、本格的な挑戦が始まる。
次の更新予定
JKのプロ野球GM奮闘記 秋山如雪 @josetsu
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