#6 幼少期
俺は貴族である、
ようやく、自分の足で立ち、歩き始め、そして舌足らずながら言葉を話せるようになったころ、体から漲る力があふれ出しているのに気づいた。
(これがもしかして……天使の力か?)
体内に眠る莫大なエネルギー。
この力を放出するには、きっと正しい使い方があるかもしれない。
まだ制御はできないが、確かにそこにあるものとして、天使様から授かったお守りのように抱え込んでいる。
これから始まる人生で、自分は何を成し遂げられるのか。どんな運命が待ち受けているのか。
そして、この力をどう使うべきなのか分からない。
*
「ラディクス、今日から剣の稽古を始めるぞ」
タリニオの声に、俺は目を輝かせた。やっとこの時が来たのだ。
「はい、父上」
五歳の年頃を迎えたころ、父親であるタリニオ=ベレンスカは、俺に初めて稽古をつけてくれた。
前世では触れたことすら無い木製の長剣を握ると、子どもの手には思ったよりもずっと重たくて、体勢を整えるので精いっぱいだった。
「はは。木剣とはいえ、はじめての得物だからな。コツがいるんだ。まず左手で柄の端を握ったら、右手は添えるように持つだけだ」
タリニオの言うようにして剣を握り直してみると、長年愛用してきた道具みたいに馴染んできた。
「これは……なかなか。初めてにしては、だいぶ堂に入っているではないか」
タリニオは目を丸くして驚いていたが、内心は嬉しさが溢れているようで、笑顔で大きく何度もうなずいている。
「それじゃあ早速、基本の構えと振り方を教えよう――」
一週間も経たないうちに、俺の剣技はみるみるうちに向上し、この頃には父の直属である騎士団長を凌ぐほどになっていた。
(これが、天使様が言っていた返還された才能なのか……しかし、これはやりすぎでは)
雨季に入ったある休息日に、家族で出かけるわけにもいかず領主邸に籠ることになった。
このとき俺は、ある本と出会った。
邸宅を歩き回って冒険ごっこがてら、たどり着いた蔵書室の奥に行くと、埃が被っていたり、読み込まれてボロになっていたような本が多いなか、古ぼけた装丁にもかかわらず綺麗目な背表紙が目に入った。
何の気なしに、その本を手に取って分かったが、それは魔術書だった。
次の目覚めは辺境伯領で。 〜辺境伯爵嫡男は破滅の未来から生き延びたい 五月野メイ @satsukino_may
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。次の目覚めは辺境伯領で。 〜辺境伯爵嫡男は破滅の未来から生き延びたいの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます