#6 幼少期

 俺は貴族である、マーグレイブ辺境伯=タリニオ=ベレンスカという大層な名前の父から、ラディクス=ベレンスカという負けず劣らずな大層な名前を与えられ、新たな人生を歩み始めた。


 ようやく、自分の足で立ち、歩き始め、そして舌足らずながら言葉を話せるようになったころ、体から漲る力があふれ出しているのに気づいた。

(これがもしかして……天使の力か?)


 体内に眠る莫大なエネルギー。

 この力を放出するには、きっと正しい使い方があるかもしれない。

 まだ制御はできないが、確かにそこにあるものとして、天使様から授かったお守りのように抱え込んでいる。


 これから始まる人生で、自分は何を成し遂げられるのか。どんな運命が待ち受けているのか。


 そして、この力をどう使うべきなのか分からない。



「ラディクス、今日から剣の稽古を始めるぞ」

 タリニオの声に、俺は目を輝かせた。やっとこの時が来たのだ。

「はい、父上」

 五歳の年頃を迎えたころ、父親であるタリニオ=ベレンスカは、俺に初めて稽古をつけてくれた。

 前世では触れたことすら無い木製の長剣を握ると、子どもの手には思ったよりもずっと重たくて、体勢を整えるので精いっぱいだった。


「はは。木剣とはいえ、はじめての得物だからな。コツがいるんだ。まず左手で柄の端を握ったら、右手は添えるように持つだけだ」


 タリニオの言うようにして剣を握り直してみると、長年愛用してきた道具みたいに馴染んできた。

「これは……なかなか。初めてにしては、だいぶ堂に入っているではないか」


 タリニオは目を丸くして驚いていたが、内心は嬉しさが溢れているようで、笑顔で大きく何度もうなずいている。

「それじゃあ早速、基本の構えと振り方を教えよう――」


 一週間も経たないうちに、俺の剣技はみるみるうちに向上し、この頃には父の直属である騎士団長を凌ぐほどになっていた。

(これが、天使様が言っていた返還された才能なのか……しかし、これはやりすぎでは)


 雨季に入ったある休息日に、家族で出かけるわけにもいかず領主邸に籠ることになった。

 このとき俺は、ある本と出会った。

 邸宅を歩き回って冒険ごっこがてら、たどり着いた蔵書室の奥に行くと、埃が被っていたり、読み込まれてボロになっていたような本が多いなか、古ぼけた装丁にもかかわらず綺麗目な背表紙が目に入った。

 何の気なしに、その本を手に取って分かったが、それは魔術書だった。

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次の目覚めは辺境伯領で。 〜辺境伯爵嫡男は破滅の未来から生き延びたい 五月野メイ @satsukino_may

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