#5 誕生

 そして再び、光が差し込んでくる。


 俺は、まぶたの裏に感じる柔らかな光に目覚めた。周りの音や匂い、感触が少しずつ意識に上ってくる。目を開けると――


「おめでとう、ラディクス。よく生まれてきたねぇ」


 優しい声が耳に届く。目の前には、疲れた表情ながらも慈愛に満ちた笑顔を浮かべる女性がいる。


(この人は、俺の母親……か)


 俺は驚いた。

 生まれたばかりの赤ん坊のはずなのに、周囲の状況を把握できているし、言葉の意味も理解できている。

 そして何より、自分が何者なのかを明確に認識しているからだ。


(これが……転生したあとの世界)


 前世の記憶が鮮明によみがえるし、あの謎の「悪夢」もフラッシュバックする。

 ラディクスという貴族が処刑された、映画のようなワンシーン。


 それに、母親が俺に語り掛けた「ラディクス」という名前……もしかして、このままいくと俺は処刑されてしまうってことか!?


「タリニオ、見てごらんなさい。私たちの息子よ」


 母は、俺の傍らに立つ大柄な男性に語りかけた。

 視線を向けると、威厳のある顔立ちで鋭い眼光を持つ男がじっと俺を見つめている。

 この人がきっと、俺の父親なんだろう。


「ああ、カタリシア。立派な男の子だ」


 父親らしき男は、満足げに頷いた。

(何というか、すごい武人というか、脳筋というか、いかにも戦争に強そうな貴族の雰囲気を感じる)


 俺がじっと、タリニオと呼ばれた父をしっかりした目つきで見つめていると、その視線に彼が気づいた。

「ほう。生まれたばかりでよく目が見えないというのに、俺の気配を読み取れるのか? ……こいつは大物になるな」


 呵呵かかと笑う父の声は、未来の俺の成長を期待する高笑いなのか、それともただの親馬鹿なのか分からない。

 だが、少なくともこの威風堂々とした出で立ちは、身内に敵を作らないような器の大きさを感じさせてくれた。


 俺はふっと湧いた疲労感に身を任せて、静かに目を閉じる。

 前世では味わえなかった両親からの愛情。

 そして、これから始まる新たな人生への期待と、先々の不安が胸に湧き上がってきたのだった。

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