#4 断頭台への道

 ラディクスは重い足取りで階段を一歩ずつ上がっていく。

 周囲からは怒号と罵声が飛び交い、彼の耳を刺す。平民派の革命によって、王党派最後の生き残りとなってしまった彼は、今まさに断頭台へと向かっていた。


 石畳の階段は、まるで彼の人生そのもののようだった。一段一段、上がるたびに過去の記憶が蘇る。幼少期、父タリニオに剣を教わった日々。母カタリシアの優しい笑顔。そして、親友ベネリウスとの出会い。


 あのとき、どうすればこんな結末は迎えずに済んだのか。


(どこで間違えてしまったんだ)


 ラディクスは心の中でつぶやいた。


 革命の嵐が吹き荒れ、王党派は次々と倒れていった。

 友人たち、同志たち、そして最愛の家族さえも、この革命の渦に飲み込まれていった。

 そして今、最後の生き残りである彼もまた、その運命を辿ろうとしている。


 階段を上がる足取りが重くなる。

 単に疲労からではない。

 これまでの人生の重みが、彼の全身にのしかかっているかのようだった。


 輝かしい未来が約束されていた王国の若き貴族。

 その彼が今、民衆の憎悪の対象となり、処刑される運命にある。


 一歩、また一歩。階段を上がるたびに、過去の選択が走馬灯のように駆け巡る。

「俺はどこで、どう立ち回ればよかったのか」


 後悔の念が押し寄せる。あの時、民衆の声にもっと耳を傾けていれば。あの政策を強行しなければ。あの戦をもっと早く終結させていれば。様々な「もし」が彼の心を締め付ける。


 ラディクスは階段の中腹で一瞬立ち止まり、振り返った。そこには憎悪に満ちた民衆の海。

 かつては彼を慕い、信頼していた人々だ。彼らの目に映る自分は、いったいどんな姿なのだろうか。

 暴君? 圧制者? それとも単なる無能な統治者?


 ラディクスは深く息を吐き、再び前を向いた。

 断頭台はもう目と鼻の先。処刑人の姿も見える。

 黒づくめの服に身を包み、大きな斧を手に持っている。

 あそこに佇む死神が、俺の人生を終わらせるのだ。


 最後の数段を上がりながら、ラディクスは改めて自分の人生を振り返った。

 確かに間違いも多かっただろう。

 しかし、彼なりに精一杯、王国のために尽くしてきたつもりだ。

 それでも、結果としてこのような事態を招いてしまった。その責任は、確かに自分にある。


 断頭台の前にたどり着く。

 群衆の喧噪が遠くなり、今、この足で立つ地面から浮いている心地がする。

 恐怖で脚が震えているからだと気がついたのは、断頭台に跪いたときだった。


 処刑人がしっかりとした足取りで近づき、重々しい斧をしっかりと握り直す。


 ラディクスは目を閉じ、最後の祈りを捧げた。

 

 生まれ変わる国の平和と繁栄を。


 残された者たちの幸せを。


 自分の魂の安らぎを。


 処刑人の斧が高く掲げられ、光る。


「これで終わりか……」

 ラディクスは、最後の瞬間を待った。


 今際の際、脳裏に浮かんだのは、幼き日の穏やかな風景だった。

 青い空、緑の草原、そして愛する者たちの笑顔。


 斧が空を切る音と共に、それらすべてが闇に包まれた。

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