#3 才能返還と「詫び加護」
天使様は言葉を続けた。
「何故神が殺されてしまったのか……今も知る由さえありません。私が今に至るまでここに座り続けたのは、貴方に償いをするためです」
「償いって言っても、別に俺はもう死んでしまったんだから、あとはどうしようもないのでは」
俺は今更、天使様がしでかしたことに対して、何か求める気もなかった。
最後の最後に、自分が突然死んでしまった理由が分かっただけでも十分とさえ思えた。
よしんば、元の世界で生き残って三十一歳から才能に目覚めたとて、取り返すには難しい年頃かもしれない。
「自分が死んだ理由とか事情が分かりました。だからもう、悲しい顔はやめてください。俺は大丈夫ですから」
天使様は今にも泣きそうな顔で我慢していたが、とうとう涙腺が決壊してしまった。
「な……なんと慈悲深いお言葉……グス……私は、このように考えられる人間を死なせてしまったとは……」
「だってそれは……わざとした事ではないんですよね? 俺なんか自分のミス以外でも上司に殴られてましたから。殴られてきた人間だからって、他の誰かのミスを
天使様は涙を拭いながら、深く頭を下げた。
「あなたの優しさに、私は報います。まず、あなたのこれからをお伝えしたいと思います」
「これから……? それって、俺の記憶を消したうえで、別の生命体に生まれるんじゃ?」
俺の疑問に対して、天使様は真摯な態度で答えた。
「いえ、この度は私の過ちにより失われた人生をやり直すことになります。いわゆる転生というものです」
「転生って、あの、ウェブ小説とかで何かと人気の?」
「はい、その人気のアレです。そのうえで、あなたの三十年間の努力で得られるはずだった経験を、次の人生ですぐに発揮できるようにしましょう」
「え? そんなことができるんですか?」
「ええ、そして……」天使様は顔を上げ、決意に満ちた表情で俺を見つめた。
「私が持つすべての力を、あなたに明け渡します」
俺は天使様の提案に思わず反射的に謙虚になってしまう。
「いや、そこまで求めてませんって! よく分からないですが、そんなことしたら天使様は!」
「消滅します」
「だったら猶更!」
天使様は、いよいよ体の支えを失ったように
「実は……これが神からの罰であり……私の最後の仕事なのです……。もう時間がありません、そろそろお別れのときです」
「ちょ……ちょっと」
にわかに天使様の全身が光りはじめ、俺の体を包みこんできた。
それから、天使様の声が耳の中にエコーする。
「さあ、転生のときです……それから最後に――」
「どうか、生きてください」
天使様の寂し気な声を最後に、まばゆい光が部屋中を一気に駆け巡った。
その瞬間、無限の可能性と力が体内に流れ込むのを感じる。
光が消えたと同時に俺の意識は遠のき、長いように思える時間が巡りはじめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます