エピローグ リスタート
その後の事は余り覚えていない。途方も無い絶望感が心と体を支配していた。
いつの間にか警察署の前に居た。多分色々聞かれた。でも、まともに答えられなかったと思う。
虚ろな足取りでマスターの所に向かう。今日あったことが事実であることを証明するために。
次に目を開けると、喫茶店の前に居た。そして、手の平にレシートが握られている。辺りは既に薄暗くなっている。
「まただ……」
人との会話を覚えていない。でも、今はそんなことすらどうでもいい。あの終わり方は間違っている。
向かうあてもなく無力感を誤魔化すために路地裏を歩き続けた。
酒やたばこ、焼き鳥の臭いが鼻を麻痺させる。気が付くと、目の前は行き止まりだった。引き返そうと後ろを向くと、後ろも行き止まりになっている。
「どうなっている……」
夢か現実か疑う状況に混乱する。
「驚かせてしまったみたいだね」
心臓がドクンと鳴ると同時に後ろを素早く振り向いた。そこには全身黒ずくめの人物が街灯に寄りかかっている。不自然なシルクハットと顔を隠すペストマスクが異質さを際立たせている。
「警戒しているようだね。でも、早速本題に入らせてもらうよ」
驚きで声が出せなくても、黒ずくめの人物は話しを続けた。
「さてさてさて、君はこの終わり方が間違っていると思っているね」
この黒ずくめの人物は俺の何を知っているのだろうか。まるで今まであった出来事を知っているような言いぐさだ。
「ああ、知っているとも。君のえぐれるような後悔も、無力感も。そこで、提案だ。巻き戻さないか?」
「巻き戻す?」
言っている意味が分からない。何を巻き戻すんだ。
「そんなにしらばっくれ無くてもいいよ。君はこの現実を巻き戻したいと願っているだろう?」
黒ずくめの人物が少しずつ近づいてくる。
「時間を……」
「そうさ、時間だ。この世界の。どんな手を使っても良い、君の思うハッピーエンドにするんだ!」
「出来るのか……」
「ああ、君の頑張り次第だけどね」
時間を巻き戻して何もかも上手くいくなら、やり直したい。あんな終わり方間違っている。
「これで、ウィンウィンだね。それじゃあ、頑張ってきてね」
黒ずくめの人物は俺の額にデコピンをした。すると意識が遠のいていく。心地の良い闇に沈んでいくようだ。
探偵はハッピーエンドをあきらめない 彼岸 幽鬼 @meem
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