第四章? バットエンド
今日もなんだかかんだ言って、調査だ。辻褄合わせの推理を今日ここで終わらせる。
目の前には焼き焦げた跡が見える地面がある。比較的人工密度の少ない田舎だ。ここが第二の現場。
この現場にも第三者の介入を視野に入れて考える。
「たくよぉ……、ろくな推理しないで最後の現場だぜ」
「うるせぇ」
啓治のダルがらみを受け流す。葉月さんは前の調査と同じように自由に動いている。
ここでは、いわゆる強姦未遂があった。そして、犯人は死んだ。個人的にはそんな人間死んで当然だ。ここでの事件と先日調査した事件は何らかの繋がりがあるはずだ。一度深呼吸をして考える。
待てよ、そもそも前回の推理は辻褄合わせの推理に過ぎない。落ち着け、今一度この場所をよく調べよう。一歩踏み出すと地面が湿っていた。粘土質のようだ。
「長靴で来れば良かったな……」
あれ……、ここの事件でも当時の警察も第三者の介入を否定した。つまり、不自然な足跡がついていなかったということだ。
「おい、啓治。足跡は……」
「そんなもん、葉月夕白の足跡しか見つかっていないよ。当日も粘土質の地面だったからな」
「だよな……」
となると、事件当日は第三者はいなかった。つまり、必然的に前回の推理は無理があると言う事だ。これでは、葉月夕白が全ての元凶みたいではないか。
「違うよな……」
震える。喉も手も。葉月夕白の掴みどころのない性格。何となく、日によって雰囲気が違った。
「多重人格」
「お前なに言ってんだ……」
啓治が呆れた顔をした。それと同時に葉月夕白は今までに見たことが無い表情でこちらを睨み付けていた。
「いつから私が多重人格だと気づいた?」
一人称が私になっている。恐らく、冗談じゃない。
「今の今まで気付かなかった。葉月さんの裏人格、裏葉月と言ったところか……」
「まあ、そんな感じだ。こいつが恐怖で気絶したときに、自己を守るために生まれたのが私だ」
つまり、裏葉月が昔の事件の元凶。だが、自己防衛とも言える。
「じゃあ、殺すね」
「えっ……」
瞬きをした瞬間、包丁を持った裏葉月が目の前にいた。ああ、死ぬのか。目の前の出来事がスローモーションに映る。
「させねぇよ!」
啓治の荒々しい声が頭に響いた。それと同時に横に吹き飛ばされた。そして、いつの間にか地面に倒れていた。粘土質の地面が気持ち悪い。
「大丈夫か?」
啓治の呼びかけに振り向いた。そこには横腹に包丁が刺さってしゃがみ込む啓治の姿がある。
「啓治……」
「終わりだ」
裏葉月は包丁を引き抜いて、啓治に振りかざした。思わず目をつぶってしまった。この地獄のような光景に蓋をしてしまいたい。
「させない!もう後悔したくない!」
目を開けると包丁が啓治の首筋のギリギリで止まっている。
「葉月さん……」
「僕は罪をあばいてもらうために依頼したの。あなたは出てこないで!」
「お前は何も理解出来てない!私に罪を押し付け、命拾いまでしたのに今更、何が罪滅ぼしだ!」
葉月さんと裏葉月は言い争いをしながら後ずさりをしている。
「小川さん、啓治さん、僕の罪をあばいてくれてありがとう」
葉月さんは自身の首に包丁をあてがった。
「やめろ!」
啓治の声が響いた。包丁が首筋を切った。血が噴水のように飛び散り、葉月さんはその場に倒れた。鉄の香が鼻を付いた。
「早く救急車を!」
呆然としながら、119と電話に鳴らした。
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