第三章? 調査
肩を突然叩かれ、今までの推理が頭からとんだ。叩いた奴はあいつしかいない。
「人が推理してるときに何してるんですか!」
腹立たしい。後ろでいまだに肩を掴んでいる啓治を睨み付けた。
「冗談だろ。それに、追加情報は必要ないのか?」
啓治がヘラヘラとした態度で前方に回ってきた。
「もったいぶらずにさっさと言え」
「はいよ、アパートが取り壊されたのは事件の翌年。そして、当時の警察は第三者の介入も視野に入れたがそれらしい証拠は見つからなかった」
「やはり、第三者の介入は難しいか……」
「そうだな、でも証拠が見つからなかっただけかもしれない。しかもここは住宅街、監視カメラなんて限られた場所にしかない」
「つまり、第三者の介入があってもおかしくないと……」
でも、第三者の介入があったとしたら、葉月さんの記憶に残るはずだ。記憶に残っていない……。
「何となく分かった。第三者の介入があったとすれば、葉月の記憶が欠損してるところ。その第三者は何らかの方法で葉月さんを眠らせ、母親にとどめを刺した」
「まっ、それなら辻褄が合うな。今回の事件単体で考えると。でも、第三者の行動原理が分からないけどな」
啓治の上から目線の物言いに少し腹が立った。
「どちらにせよ、この第三者は葉月さんの家庭内を知っていた人に限られる。そう考えると、子供を一人守るためと言う理由は出来ます」
「本当にそうかよ。普通に考えて、瀕死の母親を子供の目の前で殺すかよ」
確かに、啓治の言うとおりだ。普通の人にそんな残酷な事が出来るとは思えない。ならば、葉月さんの両親に何らかの恨みがあった人だろうか。
「葉月さんの両親に何らかの恨みがあった人とすれば、その子供を殺さずに眠らせたとか?」
「まあ、ギリギリ筋が通るな。都合良く二人が殺し合ってる現場に居合わせるなんてな」
そうだ、これは俺の都合の良い推理にすぎない。しかし、未だに分からない。「僕の罪を暴いてください」この言葉の意味を。葉月夕白という人間の本質を。
「どうでしたか?何か分かりましたか?」
敷地内をくまなく調べていた葉月さんが戻ってきた。葉月さんはあまり気になってなさそうに聞いてきた。
「今のところ、葉月さんのご希望に添える推理は出来てません」
「そうですか、それは残念です」
まただ、あまりと言うか残念がっていない。上辺だけの言葉と言う感じだ。
「俺は情報の整理をするためにも一度戻ります」
「それじゃあ、僕も戻ります」
「俺は次の現場のアポ取りするから、小川は推理頼んだぞ」
啓治はあくびをしながら、アパート跡から立ち去っていった。何処かの駐車場に警察車両を置いているのだろう。
「僕らも戻りましょう」
「そうですね」
行きと同じようにタクシーを読んで喫茶店へ戻った。
いつものように喫茶店の扉を押した。リンリンと入店音が鳴る。
「お疲れ様です。いつものですか?」
マスターが柔らかい表情で迎えてくれた。
「頼んだ」
「僕も頼みます」
「承知しました」
マスターは素早く動き始めた。カウンター席に座り、出来上がりを待つ。この時間も中々心地良いものだ。
目を横にやると、葉月さんは手帳に何か書いている。今回の調査で分かった事をまとめているのだろう。
「お待たせしました」
俺の前にはブラックのコーヒー、葉月さんの前にはカフェラテ。これが、いつものだ。葉月さんはティカップを持った。今回は小指を立たせていない。
この辻褄を無理やり合わせている推理に意味があるのだろうか。
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