第3話 あの頃の過去 3

 しかし、真白が高森にどんなことを行ったのかは分からないが、次の日から高森は彼のいう通り大人しくなっていた。もちろん僕に対してもトイレに呼び出されることもないし、顔を合わせることもない。

 暴行もされたようにも見えない。彼は顔に傷を付けて登校したわけでもなかった。

 体育の授業で、教室で着替えている時に一応彼の上半身を見たのだが、そこにも傷を付けられた後は見当たらなかった。

 どういう事だ?

 どうやって真白は高森を説得したのだろうか?

 僕は真白に聞いてみようとしたのだが、彼は気分的に登校をしている。大体二日に一回程度でしか学校に来ていない。

 彼が学校に来たのは次の日だった。

 僕は休み時間になると、校舎の裏側に呼び出し彼に聞いた。

「あの件はどうなった?」

「あの件って?」彼はきょとんとして僕を見据えている。

「ほら、僕の高森からの虐めの事件だよ。あれからあいつは大人しくなったから何かしたのかなと思って……」

 すると、真白は大笑いを見せて手を腰に当てた。

「……大丈夫だ。今回は別の方法で高森を黙らせることにした」

 そう言って、相変わらず白い歯をむき出して見せる真白に、僕は安堵の気持ちもあったが、どこか高森以上に真白に対しては憂苦を感じた。

「それはどんな方法で?」

「……まあ、直接にあいつを殴っても結局、明日になればお前に仕返しされる可能性はある。しかし、間接的に行えば、あいつを黙らせることは出来た」

「だから、それを教えてくれよ」

 僕はなるべく自分より身長が低い真白に腰を低くして、手を合わせて懇願した。

「ハハハ、何かあればオレに任せとけ」

 そう有耶無耶にされて、彼は僕の肩を強く叩いた。当然僕は前と同じように身体がよろけた。


 それから真白と僕は友達という関係になった。とはいえ、真白は登校してもそれほど僕に話しかけない。彼はいつも一匹狼だ。誰とも話をしないし、誰からも話しかけられない。

 何を考えているのか、一般的ではない彼を、どの生徒も親しくなろうとは思わないのだろう。

 僕もあまり真白とは付き合いたくはなかった。しかし、高森の件もあり、学校帰りにゲームセンターや古本屋で立ち読みをする。そんなことを真白とは共にした。

「なあ、お前、困ってることはないか?」

 そう言われて、僕は「別に、大丈夫」と答えた。

 真白は僕に対しては何かと面倒見がよく、可愛がってくれる。何だか同級生なのに、上級生のような態度だった。

 中学三年になり、真白とは別のクラスになった。僕はその日を境にバッタリと彼から声を掛けられることはなかった。

 何だろう……。彼は自分というものをきちんと持っているし、高森を追い払ったという部分に関しては、僕は凄く有難く、距離が離れても感謝の気持ちを持っていた。


 僕の家庭は父親が菓子会社の中小企業の社長であって、父親の小田和巳の言うことは絶対だった。

 和巳は僕を会社の跡取り息子として育てた。それもそのはず、和巳の父親、智彦はその会社の会長であり、和巳の兄、和樹は専務である。

 和巳の妻であり、僕の母親の道子は、その菓子の会社Y社の生産技術部の部長である。また、小田家の親戚は全て会社の役職に勤めていて、かなり血筋が濃い会社になっている。

 なので、家系を助けるような従業員達からは、内心疎まれているのではないかとも僕は思っている。実際、よく父親は電話で社員と揉めている。その後にその社員はどうなったかは分からないが。

 僕に対しても厳しく接した。学校での勉強はそうだし、父に対しては以前にも言ったように常に敬語だ。

 工場見学も月に一回はさせられた。誰か分からない人たちから、丁寧にお辞儀をして挨拶をされる。今の僕の立ち位置が良く分かるような力関係だった。

 小学生低学年まではそれほど思わなかったが、高学年になってくると、その仕草をする社員が何だか気持ち悪くて、光景を見たくはなかった。

 しかし、工場見学に行かなくなると、当然、父親からは怒られるばかりだ。

 僕は、小学生は素直に従っていた。しかし、中学になると、特に高森の件やそれを解決した真白を見て、普通の暮らしというものを考えさせられた。

 その事で、父親には言えずに。母親と揉めた。ケンカをしてそれを言い伝って、父親に怒られるという循環が出来ていた。

 一方体育に関しては何も言われることはなかった。父親も祖父もスポーツに関しては、大人になって始めた接待に使うゴルフ以外は聞いたことがない。多分両方とも運動音痴なのだ。なので、僕も丸メガネだけ掛けて、体育の授業は全て下位だった。

 そうやって手抜きを繰り返しては、やはり高校、大学になると、この会社に入りたくはなかった。

 別に虐められたわけではない。しかし、僕のここまでの人生は暗いものだった。その曇った心が、いつしか内部に染みわたっていた。

 大学に入ると、僕は半ば引きこもった。しかし、即座に和巳からは怒号の声をまき散らし、僕は結局引きこもれられなかった。

 しかし、お小遣いは月に十万円貰えるし、和巳は、将来有望な息子の為と、手渡してくれた。

 僕は毎日のように外に歩いていた。別に外が好きではない。外に行かないと自由な時間がないからだ。

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黒い影 つよし @tora0328TORA

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