第2話 あの頃の過去2

 そんな僕に、一人だけ味方をしてくれる生徒がいた。それが真白だった。

 彼は、体格は大きくていつも不貞腐れている。授業中でも肘をついて先生の話を聞いているのかいないのか分からない態度だったので、よく先生から怒られていた。

 しかし、彼はぶっきらぼうに「はい」と返事をして直すのかと思いきや、その態度を崩すことはなかった。

 そのどっしりと構えている姿を見て、たちまち僕は興味を覚えていた。いや、最初はこいつも僕を虐めの標的にする奴だろうと半ば警戒をしていたのだが、意外とそういうことには興味はなく、寧ろ秘めた正義感を持っていた。

 真白は僕が休み時間に高森たちにトイレで殴られた後に聞いてきた。

「よう、お前、高森たちにやられてるのか?」

 最初に声を掛けられたのはそんな言葉だ。いきなりのことで僕は驚きを隠せなかった。

「あ、ああ」

 僕は素直に答えた。高森達の虐めにはうんざりしていた。今月中に家に引きこもろうとしていたからだ。

 親戚のいとこにも一度だけ、この事情を話したことがあった。そのいとこは女性であり、お姉さん的な存在だったのだが、彼女は真剣に僕の話を聞いた後、

「私は正直輝彦を助けてあげたいけど、家も遠いし、その生徒たちを怒ることは出来ないけど、アドバイスとして、お母さんに言ったり、先生に言ってみるとかした方がいいと思う」

 そう言われて、僕は普遍的な解決方法を言われただけだったが、そのいとことやり取りが出来たことが嬉しかった。

 実は僕はそのいとこが昔から好きだった。年に二回ほどでしか会えないが、清楚な雰囲気や頭の良さ、そして、何といっても誰にでも優しいところが僕としては魅力的な女性に写っていた。

 そのいとこと話が出来たことにその日は有頂天になっていたが、しかし、親や先生に話すことがどうしても出来なかった。

 僕にもプライドがあって、普通の生活を送りたい。その為に先生たちにこういった事情があると申し出るのはおかしな話だ。何とかいつの間にか高森が別の生徒を狙っていく……。そんなことがあればいいのにと、毎日のように願っていた。

 そんな中での真白からの声掛けだった。僕らは休み時間に、人目のつかない校庭の裏に回って話をした。

「やっぱりな。オレはあんまり学校には来ないけど、虐めみたいなからかう奴が許せないんだよ。それで、どんなことされてるんだ?」

 僕はあまり話を付け込まれたくはなかったが、態度が大きい割には柔らかい声で言う真白に対して徐々に気持ちを許すようになった。

「まあ、最近は休み時間にトイレに呼び出されて、サンドバッグのように身体を殴られるんだ」

「何故に、そんなことを?」

「分からない。あいつらなりにむしゃくしゃしている時は、オレを呼び出してそんなことをやってるんじゃないかな?」

「そいつは許せないね。オレは今までそういう奴らを助けてあげたことがある」

「それはどんなことだい?」

「例えば、小学生の時に、カツアゲに会った奴がいて、そのカツアゲをした女子生徒の顔面を殴ったことがあった」

「女子生徒を?」僕は素っ頓狂な声を上げた。

「ああ、その時はぶっ飛ばして、結構気持ち良かったぜ。お陰でそいつの顔面は血だらけになって、前歯が二本抜けてたけどな」

 そう言って、自分の武勇伝を語るたびに真白はニコッと白い歯を見せた。

 ——どうやら、ヤバい奴に捕まってしあった。

 九月も後半になり、そろそろ気温が下がりつつあるこの時期に、僕の身体は先程真白が行ったことに対して反応して、恐怖で汗だくになっていた。

「それで、そいつはどうなったの?」

「カツアゲにあった方? そいつはオレに感謝してくれて、たくさんお菓子とジュースを奢ってくれたよ」

「そうじゃないよ。カツアゲした方だよ」

「ああ、そっちか……。その後、そいつの親が家に連絡したけど、オレは分からない。そこはお袋に頼ったから」

 何とも無責任なんだ。確かにカツアゲをした女子生徒なんて大した人間ではない。しかし、女子に対して暴力はいけないと思う。

「まあ、俄然大人しくはなったけどな。それにオレを見ては怯えてたし。やっぱり戦隊ヒーローはどこでもいねえとな」

 そう言って、真白は頭の後ろで両手を組んで悪びれることもなく言った。おまけに口笛も吹いている。

「で、高森の奴も黙らせてやるから、安心しろ!」

 そう言って、彼は僕の肩を叩く。その叩き型がまた強く感じて、少し僕はよろけた。

「あ、ああ」

 僕はどうやら真白という人物に逆らえられなくなっていた。

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