黒い影

つよし

第1話 あの頃の過去1

「何かあればオレに任せとけ!」

 真白のいつもの口癖で、何度助けられたことだろうか。

 そんなことを無意識に思い更けてしまう。

僕の名前は小田輝彦。どこでもいる名前だ。小学生から大人しく控えめな性格で、いつもみんなの中に入っているより、端の方でその光景を見ている少年だった。

「ねえ、〇〇の家に行こうよ。小田君も行く?」

 そう当時の友達に言われて、僕は「うん」か「ああ」か、大概どちらかを答える。断ることはなく、付き合いはいい方だと思うけど、ただ“はい”か“いいえ”という解答でしか喋らない。寡黙な少年だった。

 家ではそんなことはなく、両親には敬語を使っていた。その理由は僕の家は優雅な豪邸だった。庭も付いているし、大きな門扉で、インターホンを慣らしては車を中に入れる。他の一軒家の五倍ほどの面積はあった。

 僕の父はアイスクリームの冷凍を含む、菓子を製造している中小企業の社長だ。創業五十年も経ち、父の父、つまり僕の祖父から受け継がれた会社である。

 祖父は会長であり、伯父は専務である。そんな一家に暮らす僕は裕福な生活をしていた。

 従業員の人たちとは会ったことがないが、親戚一同はそこのY株式会社の従業員であるので、一割程度は従業員の人たちと接していることになる。

 なので、小学生に上がり、入学初日では、同級生の親は僕に親しみを込めて話しかけてきた。

 引っ込み思案な僕は母親の後ろに隠れていたことを覚えている。

 しかし、同級生の親はみんなペコペコしていたが、その子供はそんな事情なんて分からない。その為、仲のいい友達として接してくれていた。

 いや、それも親に躾されたからなのか。

 だが、そんな関係も小学生高学年になると、相変わらず寡黙で運動音痴、勉強しか取り柄がない僕に対し、興味が湧かなくなった生徒たちはあんまり関わることはなかった。

 その時に、虐めがあった。いつもヘラヘラした男子で、性に人一倍関心があるようで、よく女子に告白めいた言葉を口にしたりしていた。

 そんな奴だから、女子からは嫌われて、そいつが休み時間に誰かの近くに来ると、その誰かが離れるといった、あからさまに避ける虐めだった。

 その男子は、確かに異性には人一倍興味はあるが、同時に純情な気持ちもあったので、結構ショックを受けていた。

 また、お喋りでもあった。その為、男子に対しては可愛がられていたものの、どこか見下されているようにも見えて、虐めではないが、そいつがいない時に彼をバカにしていた。

 中学に上がると、みんな近所の中学校に行くことになる。五割は同じ顔の生徒たちと一緒になるが、残りの五割はもう一つ別の小学校が近くにあり、そこから中学校で一緒になる生徒たち。

 不安な気持ちが僕にはよぎった。この物静かで寡黙な自分を受け入れてくれるのかが心配だった。

 更に、いじられキャラだった、異性好きな奴が、小学生を卒業したのを機に転校をしてしまったのだ。

 そうなってくると、虐められる標的は僕の可能性は近くなっていく。

 実際に虐められた時があった。それは中学一年の三学期だ。

 僕は席替えで、たまたま教室の後ろのドアの近くになった。僕の性格は非常にルーズでノートが破れたり、教科書の角が折れても気にしない性格だった。

 なので、休憩時間もいつも背負っている学校のボストンバックを教室の床にチャック全開で置いていたのだが、それをゴミ箱のように、お菓子の袋や、またくしゃくしゃに丸めたプリントが入っていた。

 ——誰だ、こんなことをした奴は。

 と、その時は怒りに満ち溢れていたが、次の休み時間で僕は、そのゴミをきちんと教室のゴミ箱に捨ててしまうと、忘れてしまう性格でもあった。

 しかし、その事はエスカレートしてしまう。

 たまに僕が前に座っていた男子生徒に話しかけるときも、答えるわけもなく無視をされたり、体育の授業で誰かとペアを組まないといけない時に、僕だけ一人ぼっちになっていた時もあった。

 また、クラスでお調子者の男子生徒からは子バカにされる挙句、トイレに呼び出されて、意味もなく突如に殴られるといったことをされた。その時は仲間二人もつれての何といった卑劣な犯行だ。

 その時に、僕は親がお菓子の会社を経営しているといった肩書が通用しないものだと気づいた。確かに、小学生高学年や親に言えばそれは通用できるのかもしれない。しかし、何でも我慢してしまう僕はいつの間にか、その行為から耐えることで毎日が過ぎていくのを願っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る