第3話

「あ、あ、戻りそうやわ」



マコちゃんの毛がもさもさっと生き物のように蠢く。どんな姿になってしまうんだろう、と私はゾワゾワする。



「うにゃーーーー」




そんな情けない叫び声と共に、真っ白な毛並みが引っ込んで、みるみる変形していった。




1度、つるんとした私の見たことない無機物になってから、ぷるんという音をたてて


思い出の中の真琴くんの姿に変わった。




「ほらな、マコちゃんやろ?」



マコちゃんは自慢げに髪をかきあげた。

何故か服はアロハシャツだった。真琴くんが絶対に着なさそうな服だ。



「真琴くんは関西弁じゃないですよ」


「うそやん! そーいうのは早う言ってもらわな困るわあ」



一体何が困ると言うのか。



「まあ、今回は許してーな」


「許すもなにもないですよ」


「そうかいな、まあほな猫だったマコちゃんは

元に戻れたということで、帰りますわ」




そうあっさりと言うと、猫の名残で少し丸まった背筋でひょこひょこ踵を返していった。



「ほなまたね〜」



マコちゃんは手を降って玄関を出ていった。



めちゃくちゃ尻尾、出てたなあ。

私は玄関で堪えきれなくなって笑い転げた。













どういう訳か、時々やってくる変な喋る猫。

来る度来る度、母や父や、存在しない弟などを名乗ってやってくる。




新手の詐欺にしては目的が分からないし。

そもそも喋る猫なんてのは科学的に全く理解できない。



この前までは標準語の猫ばかりで、少なくとも

口調などを似せていたけれど今回は笑っちゃうほど似てなかった。





「俺だよ俺〜」




そんな感じで多分、来月も来るんだろうな。


どうにかして私の不摂生を治したいらしい猫たちは一体どこから派遣されてきているのだろうかと毎回不思議に思う。




古民家に一人暮らし、何気に仕事に追われているけれど、変な来客のために猫缶を常備するのだけは忘れない。

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猫を名乗る 一寿 三彩 @ichijyu

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