第15話 最初の一歩
上級生たちをとっちめて、笑顔で他言無用をお願いして そうしてボクの学園生活がはじまった。
スズランの予想どおり、ボクも普通科Zクラスとなった。
普通科Zクラス。
学園のつまはじきが集まる場所なのかと思いきや、ちゃんとした校舎にあって、教室も大講堂と同じような長机がきちりと成立していた。
決してボクが想像したオンボロ教室ではなかった。
そもそもとして、魔術を極めるために学園に通う子ばかりなのだから、基本的に学びへの意識は高い。プライドの高い生徒は多いけれど、素行不良な生徒はそういないはずだ。落ちこぼれ集団をまとめました、なんて教室はない、と思う。
スズランから聞いたところ、正確には問題児を集めたわけじゃないらしい。
アークノ魔導学園は素質があれば誰でも通うことができる。生徒を受けいれる幅が広い分、常識では測れない子もやってくるとか。
そんな子たちの教師の反応がこう。
『素質はいいけれどね』
『鍛えたらどれだけ伸びるかわからないが、完成系が見えない』
『通常カリキュラムの枠にはおさまらない』
『ひとまずZクラスで様子見かな』
ようは野球の素材型育成枠だ。
将来性を期待しつつ、いろんなカリキュラムを学んでもらいながら自分の最適解を探してもらう方針らしい。
だから問題児が集まるわけじゃなくて、結果として問題児ばかりになるらしい。
……けっきょくは同じことじゃ?
まあヤンキー漫画的なノリが待っているわけじゃなさそうなので、肩ひじはらなくてよさそうだ。
教室でもボクと同じことを考える人が多かったのか、案外ゆるんだ空気だった。
だが最初の自己紹介でみんなの意識が変わる。
渋い声の生徒が、壇上で自己紹介をはじめた。
「ハーイ! あたし、ホロバニ産の人工魔導ゴーレム! 独立戦闘ユニットとして戦場を渡り歩いていたけれど今は生徒をやっているの! ゴレ男って呼んでネ!」
岩のようなゴツゴツボディの一つ目ゴーレムは、きゃぴるんとポーズをとった。
自我を持つ人工ゴーレムの存在は知っている。
だけど、だいたい反応がつたなくて、『はい』か『いいえ』でしか応答できないものばかりと聞いている。あんなにもきゃぴきゃぴしいゴーレムは初めてだ。
と、蠅がゴーレム……ゴレ男にたかろうとする。
「害虫発見。ただちに駆除シマス」
ゴレ男が一つ目から赤いレーザーを放つと、一瞬で蠅が消し飛んだ。
この時点で『あ。そういう感じなんだ』と、クラス全員が身をひきしめたと思う。
次にあらわれたのは、黒髪美少女だ。
「こぽ……こぽこぽ……こぽ……」
黒髪美少女は大きな水球の中にいた。
水を流動的に操っているようで表面がうごめている。水中でも問題なく活動できるらしく、黒髪美少女はたおやかに右手をふってきた。
「こぽこぽ…………こぽ……。あ……く……あ…………こぽ……」
黒髪美少女……アクアは自己紹介できて満足みたいな顔で、自分の席にふよふよーと戻っていった。
どうして水球の中にいるのとか。
どうしてそんなに自然体なのかとか。
次々に湧いてくる疑問は、最初のゴーレムのおかげで胸に押しこめることができた。受け入れる土壌ができてしまったのだ。
そして次は、元気そうな男子が壇上にあがった。
「俺はカイデンファミリー! 魔術事故で家族全員の魂が混ざっちまったんだ! 俺の中には10人の家族がいる! みんなよろしくな!」「……兄さん、そんなこと急に言われてもみんなびっくりするだけだよ」
男子は会話の途中で、おっりとした女子に姿を変えた。
一つの器に10人分の魂が混ざったって……もしや禁術に手を出したんじゃ……。
「みなさん、よろし」「くな! 俺たちを家族のように接してくれ!」
女子はまた男子に代わり、カイデンファミリーはそう元気よく言った。
家族の意味合いがちょっと違う気がするー。
お次はルルミだ。
オドオドしながら小袋を持って、自己紹介をはじめる。
「ル、ルルミアート=バルンフェズムと言います……。ルルミって呼んでください……。あ、あの、お、お友だちになれるクッキーを焼いてきたのでみなさん――」
「異物反応アリ。消去シマス」
「ああっ、お友だちになれるクッキーがレーザーで⁉」
ミミルの所業は有名なのか、ゴレ男グッジョブみたいな反応がちらほらあった。
ここまでくると『集まれ! ビックリ人間紹介ショー!』を見物する気分になったのか、あるいは同類しかいないとわかったのか、次々にあらわれる一癖も二癖もありそうなクラスメイトたちをみんな受け容れるように拍手していた。
次に、次に、そして次は普通そうな女子だった。
「私の名前はアイラ=ラスフォンです。誇れる自分になりたくて学園にきました! みんなとは違って普通の女の子です……って、なにその顔⁉ 私はなにもないよ⁉ ふーつーうー! ふつうだから!」
あまりにも普通そうな子ゆえに、みんな逆に不審がっていた。
「私は普通なんだからーーー!」
たしかに変わった魔力反応はないけれど……。
このクラスにまとめられるかぎり、絶対に普通はありえないよなー。
そうしてボクの番になった。
「オリン=エスキュナーです。素敵な学園生活を送るためにやってきました。これからみんなとの日々を楽しく過ごせたらなと思っています」
壇上からボクはにっこりと微笑む。
可もなく不可もない挨拶でいい。変に目立とうとして浮いてしまっては元も子もないのだ。
そう、親しみやすいボクをアピールすることが大事。
特に今は変わり者の自己紹介ばかりがつづいたわけだし、話しやすそうな雰囲気作りが効くはずだ!
さあ、みんなの反応は!
「本当に男なの?」「見えねぇなあ」「こぽ、こぽ……こぽ……」「生物学的に男と診断。けれど容姿は女子デス。エラーエラー」「あんなに可愛いのに男なんだ……」
ボクもキワモノ扱いになっていない……?
容姿が容姿だから変に目立っている気がする。
ここは再度笑顔で無害アピールだ!
「みんな、よろしくねー」
そう笑顔をふりまいたのに、若干距離を置きたそうな視線を感じた。
な、なんで……? なんで、そんな反応なの……?
ボクなんてせいぜい上級生ともめたり、生徒会長の勧誘を断ったりぐらいで変なことはしていないはずなのに……。
…………。
「みんな、よろしくねー」
ボクは笑顔を笑顔をアピールしたのに、Zクラスの同級生たちの表情はかたく、まばらの拍手が聞こえてきた。
釈然とはしなかった。
極悪非道のラスボスに転生したが、平凡に楽しく生きようと思います。なのに悪役ヒロインばかりに慕われるのですが 今慈ムジナ@『ただの門番』発売中! @imajiimaji
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