天使の羽根の落とし物

@ramia294

第1話

 神さまに愛される天使。

 欠点だらけの人間と違い、

 完璧な存在。

 そんな天使にも

 ある弱点がありました。

  



 天使の羽根。

 天上世界から、人間のお世話をする激務に、疲れ切った天使のひとりが、つい、羽根を一枚、地上へ落としてしまいました。


 羽根一枚と言えども、天使の羽根。

 募金活動でおなじみの赤い羽根や、道端に落ちている、カラスの羽根とは違います。


 天使の羽根。

 手にしたものは、幸せがひとつ手に入るとか。


 それは、地上の人間たちでは、どんなにお金を積み上げても手に入れる事の出来ない幸せ。


 反則です。

 あってはならない不正。

 禁止行為。


 神様に見つかれば、きっとこっぴどく叱られ、場合によっては、翼をもがれ人間にされるかもしれません。

 あんなに弱い生き物にされる事を想像するだけで、震えます。


 羽根を落とした天使は、慌てて地上へ探しに降りて行きました。

 翼をたたみ、その身を人の姿に変えて、地上へ降りると、ある男の人が、ちょうど羽根を拾ったところでした。


 その男の人は、余り裕福ではないらしく、質素な身なりをしていました。

 彼女は、天使の身でラッキーと思うドジっ娘でした。


「すみません。私がその羽根を落としました。お礼に、思いのままの額のお金をさしあげますので、返していただけますか?」


 すると、男の人が首を横に振りました。


「僕は、生まれた時から貧乏なので、お金の無い暮らしに慣れています。急に大金を貰っても戸惑うだけです。でもこの羽根はとても美しい。この羽根以上に美しいものとなら交換します」


 なるほどと、思った天使は、男をその場に待たせ、天界へ戻り、ちょうど今が旬の黄金のリンゴを持ち帰り男に与えてました。

 

「その美しいリンゴは、食べると永遠の生命を与えるという天界の禁断の果実。羽根と交換してください」


 焦った天使は、羽根と同じように、人間に与える事を神さまに禁じられている黄金のリンゴを持って来ました。

 もちろん、この事が神さまに知られた時もお叱り確実です。


「永遠の生命ですか、でもそれって、永遠の孤独とほぼ同じ意味ではないでしょうか?そんなものと、この美しい羽根は交換できません」


 男は、断りました。


 再び天界へ戻り、

 天使が持ち降りたのは、

 金色のドラゴンの鱗。


「これは、天界に住む雷のドラゴンの鱗。持ち主は自在に雷を操る事が出来て、この地上では無敵の存在になれます。あなたはすぐにでもこの地上の王になれます」


「いいえ、そんなものは必要ありません。この世界の人々を力で支配しても、それは望まれているわけではありません。虚しいだけです」


 男は、再び頭を縦に振りませんでした。


 天使は困りました。

 いったい何となら、この人間は羽根を返してくれるのでしょうか?

 困っていると、人間の方から天使に、もう一度告げられました。


「とても美しく、魅力的な羽根。これ以上に美しいものとなら交換します」


 そんな物を思いつかない天使が、ますます困っていると、男は言いました。


「あなたが、僕の恋人になってくれるなら、この羽根をプレゼントしましょう。あなたはこの羽根を百本並べたよりも、なお、美しい」


 天使は、驚きました。

 人間に、求愛されるとは思っていなかったのです。

 今までに感じた事の無い、温かなものが胸の中に流れ込んで来ます。

 

 ところで、天使の唯一弱点ですが、

 それは、人間との恋。

 人間に愛されると、天使の本来の使命なんて、どうでもよくなり、その恋一筋になってしまいます。

 今まで見返りを求めず、ただ、ただ尽くしてきた人間。

 しかし特定の人間に認められ愛されると、その喜びに全て支配され、人類全体よりもその人間だけを大切に思ってしまうのです。


 それは、作品に見向きもされなかった、名も無い小説家に、初めての読者が現れた時の様に、胸に溢れるものが抑えきれない、そんな感覚……かもしれません。 


 それ以来、その天使は、人間の姿のまま、その男と幸せに暮らしました。





 というわけで、売れない作家の僕の娘は、天使と人間のハーフ。

 彼女は、時々、光の翼を出して飛びまわるイタズラ者。


 僕は彼女に注意します。


「いいかい、人間は本来飛べないもんなのだ。飛びたくなったら、他の人が見ていないところで飛びなさい。君がハーフ天使だって他の人に知られるのは良くない」


すると、娘が、不思議そうに言いました。


「あら?私が天使なんて、皆んなとっくに知っているわよ。だって、パパが人前でも私に僕の天使ちゃんと言ってるもの」


         (^_^;)アラアラ


 


       





 

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