第22話 セラタプラ強襲①
正暦1031年/王国暦131年2月9日 ゴーティア大陸南西部 西ゴーティア海外州セラタプラ半島沖合
ガロア共和国の支配下にある海を、1隻の軍艦が遊弋する。しかしその呑気そうな様子に見えて、ガロア海軍艦艇の特徴たる球形レドームは、常時全方位へ索敵用電波を発していた。
「周囲に敵影はなし。いつもの通り平穏です」
フリゲート艦「ル・バスコ」の艦橋で、レーダー員は艦長にそう報告する。現在戦場となっているのはセラタプラ半島以東の地域と海域であり、フリゲート艦は領海内と空軍哨戒機と共に警戒していればいいだけだからだ。
「油断するなよ。現在ユースティアは我が国の領海内に潜水艦を忍ばせ、通商破壊をもくろんでいる。東洋艦隊が再び戦場に立つときまでこの領海を守るのだ」
「了解。ん…?」
レーダー員が艦長の訓令に応じたその時、スコープに幾つもの光点が浮かぶ。それは東の方角から迫ってきていた。
「っ、敵です!方位100、速度は推定時速900キロ!」
「何!?全艦対空戦闘!上空の哨戒機にも報告―」
「こ、こちらソナー室!海中に反応あり!魚雷の航走音も聞こえます…!」
一瞬にして艦橋が騒然となる。空と海中の二方面からの攻勢に、フリゲート1隻で対応できるはずもなかった。数分後、上空では二つの黒い花が咲き、洋上には1本の水柱が聳え立つ。そしてそれを見下ろすものが1機。
「こちらキャバリエ1、敵機撃墜した」
・・・
『キャバリエ1より「イナンナ」へ。敵戦闘艦、沈黙を確認。制空権確保』
「了解した。間もなく上陸部隊がセラタプラの海岸に着く。空中給油機が到着するまで持ち応えてくれ。こっちも対地支援攻撃が終わり次第制空権維持に参加する」
第2艦隊旗艦「イナンナ」の
モニティア周辺に居座る敵軍を迂回し、後背に位置するセラタプラを占領して揺さぶるという大胆な作戦は、エリス連邦軍が立てたものである。西ゴーティア海外州のうち最も防御の薄いセラタプラは、丁度領海部分がモニティアに対する海上補給路と重なっており、確かにここを落とせばガロア軍の戦略は大きく揺らぐだろう。
加えて、戦線に張り付いているガロア軍部隊を誘因するのも目的だった。成功すればガロア軍は文字通り足元を掬われるのだ。そうして戦線が薄くなった隙を連合軍が突けば、崩壊は必然だろう。
「さて、ここまで苦労して攻め込んできているんだ。楽に勝たせてほしいところだが…」
そう呟いた直後、エリス艦隊から通信が入る。
『沿岸部より多数のミサイル艇が接近している。こちらで対処するため、ユースティア艦隊は制空権確保に注力されたし。ガロアのお調子者どもに海の民の戦いを見せて差し上げよう』
「イナンナ」にそう通信を送ったエリス連邦海軍提督コンドリオティス少将は、旗艦「アテナイ」より艦隊に指示を達する。
「全艦戦闘配備!敵艦隊に対し水上戦闘を挑む!一気にかかるぞ!」
命令一過、ヘリコプター巡洋艦「アテナイ」を先頭に、6隻の駆逐艦が続く。ゴーティア大陸より東方に位置する大国から輸入された艦艇群は、射程30キロ程度の『オブシディアン』艦対艦ミサイルを装備しており、士気も非常に高い。やがて水平線上に12隻のミサイル艇の影が見え始め、7隻は単縦陣で以て迎え撃つ。
「敵艦隊、ミサイル発射しました!」
「対空戦闘!1発も撃ち漏らすな!」
行動は迅速だった。7.6センチ連装砲と5.7センチ四連装速射砲が火を噴き、艦対空ミサイルが敵ミサイルに向けて放たれる。敵の迅速な対応に対し、ミサイル艇部隊は果敢にも距離を詰めるために前進。艇首の5.7センチ速射砲による追撃を試みた。しかし、それは迂闊な手段だった。
「今だ、全艦回頭!艦首を敵に向けよ!」
7隻はまるで踵を返す様に、一斉に面舵。艦首を敵に向ける。何故なら彼らの有する『オブシディアン』は、進行方向に向けて投射する様に発射筒が配置されていたからだ。それを察知した敵は逃走に切り替えたが、距離はすでに20キロを切っており、遅きに失した。
「撃て!」
7隻から次々と『オブシディアン』が放たれ、逃走を図るミサイル艇に次々と食らいつく。無慈悲な反撃は数分で終わり、洋上には幾つもの黒煙が立ち上るだけだった。
「さて、一先ずの脅威は払いのけた。後は、上陸を果たすのみだ」
この日、連合軍は西ゴーティア海外州セラタプラに対して強襲上陸を敢行。この作戦を想定はすれども対処できなかったガロア軍の衝撃は大きく、その影響は直ちに戦場に現れ始めていた。
魔族王女は戦場の空を舞う~The Continental Wars~ 広瀬妟子 @hm80
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