第21話 進撃、第7騎兵師団

王国暦131年2月1日 ユースティア王国東部 港湾都市バスラ


 ユースティア王国の東部にある港湾都市、バスラ。そこには海軍第2艦隊の錚々たる面々が集い、錨を降ろしていた。


「先のエリス連邦を防衛するための戦闘にて、海軍第1艦隊は少なくない損害を負った。偵察衛星ウジャト3による観測では、東洋艦隊を主力とする敵海上戦力はゴーティア大陸西部の海外州領海内へと後退した模様であり、統帥本部は本艦隊を増援として派遣し、制海権を完全に奪取することを決定した」


 艦隊旗艦を担う空母「イナンナ」の士官室にて、艦隊司令官のタカスギ海軍中将は一堂に語る。エリス連邦西部海域での海戦は戦術的に見ればガロア海軍の水上打撃艦隊を撃退した事実は勝利と言っても過言ではなく、戦略的な敗退も今後の作戦で十分に挽回できる範囲内とされた。


「無論、戦場は海だけではなく、地上と空でも繰り広げられる。北部モンテニアは抑え、戦線もようやく西へと押し込むことに成功しているからな。最終的にはモニティアを解放し、敵軍を海外州内へと押し込む。これには我が国のみならず、エリス連邦軍も参戦し、全面的な反攻作戦として展開される予定である」


「まさに、決戦ですな…」


 幕僚の一人が呟き、タカスギは頷く。開戦から5か月が経ち、戦況はどうにか連合軍側が優勢にある形へと持ち込めている。しかしガロア軍は解放州内部に多くの兵力を抱えており、いつ形成が逆転してもおかしくなかった。


「今回、星十字騎兵団の総戦力がモニティア解放作戦に投じられる。目標はもちろん、モニティア王国の港湾都市ボドバだ。ボドバには現在、第56歩兵師団と空軍第55戦闘攻撃飛行連隊…通称『黄金鷲飛行隊』が駐留しており、我が軍の最大の脅威となって立ちふさがろうとしている。彼らの相手はこの部隊に対する『リベンジ』だ」


「成程…確かに第31独立飛行隊には、『黄金鷲』と戦って生き延びた『王女様』と『お嬢さん』がいますからね。彼女達からすれば『リベンジ』の好機だ」


 海軍航空隊第102飛行隊指揮官のスガイ海軍中佐は闊達そうに笑う。タカスギも頷き返しつつ、一同に向けて指示を発する。


「本艦隊はこれよりバスラを出港し、エリス連邦西部の港湾都市アルバを目指す。そこで第1艦隊の水上艦部隊と合流し、モニティアに対して総攻撃を行う」


・・・


 海軍が新たな作戦のために行動を開始していた頃、地上では新たな戦闘が進行していた。


「行け行け!第5機甲師団の連中に遅れるな!」


 指揮車の車内にて、ユースティア陸軍第7騎兵師団長のヤマシタ陸軍中将は大声で命令を発する。彼の率いる第7騎兵師団は第5騎兵師団とは構成が異なるタイプの機械化部隊で、3個戦車連隊と1個機械化歩兵連隊で構成される、純粋な機甲師団であった。しかもその後方には、複数の歩兵師団より抽出された旅団戦闘団が2個ついてきている。


 その上空にはゴーティア大陸東部諸国の連合軍より派遣された〈ファルコン〉戦闘機が多数展開している。対するガロア軍は陸軍第102・103騎兵師団と東部航空軍団隷下の航空部隊で待ち構えていたが、2万近くの将兵と40機弱の航空機で攻めてくる敵を受け止めるにはやや貧弱だった。


「き、来たぞ…!」


 攻めてくる敵軍に対し、ガロア陸軍兵士達は青ざめた表情で迎え撃つ。5か月近くも見知らぬ地で明確な勝利を得られぬまま戦わされているのだ、士気は著しく低下していた。


「突撃ぃぃぃぃぃ!!!」


 南北に開けた平野を、100両以上のT-29主力戦車が駆ける。その装甲車両の大群は真正面より降りかかる砲撃を跳ね除け、歩兵戦闘車と共に最初の陣地へと踏み込む。対戦車地雷や障害物による侵攻阻止策は砲兵部隊の精密な砲撃と空軍機の爆撃で啓開されており、そこを起点に第7騎兵師団は陣地の奥部で反撃の機会を狙っていた戦車部隊へと襲い掛かった。


「駆けろ駆けろ!走れない戦車は豚よりもノロい!一気に蹴散らしちまえ!」


 オークの戦車連隊長は無線越しに怒鳴り、44両のT-29は敵戦車へ肉薄。わずか300メートルという至近距離より120ミリ装弾筒付翼安定徹甲弾APFSDSを発射し、真横からぶち抜かれたC-97主力戦車の砲塔は上空へ吹き飛ぶ。第102騎兵師団の戦車部隊は、海外州から供給されるはずの燃料が足りず、ようやく届いた燃料も精製の質が悪いのか出力にムラが出やすい有様だった。


 それ故に、戦車の大半は移動可能な砲台になり果てており、そしてそれらの火砲の貫通力ではユースティア側の戦車の撃破など夢のまた夢だった。そして上空では、連合軍の戦闘機部隊がガロア空軍の戦闘機部隊を圧倒していた。戦争が始まって数か月、〈ファルコン〉を生産するトリニティア・エアロインダストリ社はアビオニクスを中心に全面的に改良。〈イーグル〉に並ぶ程度の戦闘能力にまで引き上げていた。


 優秀な戦車と戦闘機、そしてそれらを支える強力な兵站。ガロア軍が失いつつあるものを有するユースティア軍を止められる者は殆どいなかった。

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