第20話 エリス大海空戦③

正暦1031年1月18日 ゴーティア大陸南部海域 エリス連邦領海内


 空襲から1時間が経過し、ガロア海軍東洋艦隊は集結を進めていた。


「潜水艦「リュビ」より入電、ユースティア艦隊に対して魚雷攻撃を敢行し、駆逐艦1隻を撃破したとの事です」


 旗艦「ロベスピエル」艦橋に報告が入り、バルミスは小さく頷く。先んじて展開していた友軍の潜水艦を利用した奇襲は上手く嵌ったようである。


「戦果を確認する。敵機はどれだけ墜とせた?」


「前衛及び第2艦隊、空軍からもたらされた情報も合わせれば、敵機は7機撃墜出来た模様です」


「7機か…こちらの損害はどれ程だ?」


「はっ…巡洋艦「オルビア」が大破、駆逐艦3隻が沈没です。前衛8隻もフリゲート艦3隻が撃沈と相当数の被害を受けております」


「フム…「オルビア」は航行可能状態か判断し、前衛の残存艦は生き残った将兵を救助して後退せよ。無事な艦艇のみで前進し、敵艦隊に攻撃を仕掛ける」


「了解」


 新たな指示が下り、東洋艦隊は東へ再び進み始める。数は20隻と大きく減らしたものの、敵艦隊と直接交戦するには足る数である。集結中に相手が潜水艦で『意趣返し』をしてくる可能性もバルミスは考えたが、ユースティア海軍の潜水艦部隊は主にガロア本国とゴーティア大陸の間の海域での通商破壊に乗り出しており、もし本艦隊を襲撃する腹積もりならマルソルを出航した時点で攻撃を仕掛けてきている筈だろう。


「敵艦隊をレーダーで捕捉次第、ミサイルによる長距離攻撃を開始する。この勝負で全てを決めるぞ」


・・・


「レーダーに反応あり!敵艦隊接近してきます。恐らくは直接SSMで攻撃する腹積もりでしょう」


 ガロア海軍の次の一手は、空母「ティアマト」のCICも把握するところにあった。水上戦闘艦の半数以上が生き残った以上は、その持てる全てを以てユースティアの空母機動部隊に深刻な打撃を与える事を優先してくるだろうからだ。


「来たな…ここからは直接撃ち合う戦闘だ、本艦は後方に位置し、「ギルガメッシュ」を中心とした艦隊で敵の攻撃を凌ぐ!」


 オオイシの命令が下り、ミサイル巡洋艦「ギルガメッシュ」を先頭に6隻の駆逐艦が続く。先の防空戦闘を経てもなお艦対空ミサイルの在庫には余裕があるが、それが敵の攻撃全てを防げるという事の証明になるとは限らない。潜水艦の不意打ちを受けた駆逐艦1隻以外にも、巡洋艦と駆逐艦1隻ずつがミサイルを被弾し、戦闘不能に陥っているからだった。


「こっからは文字通りの殴り合いだ!敵の攻撃を捌きつつ、カウンターを決める!」


 艦長はCICから指示を出しつつ、艦隊を北西の方角へと進める。現在ユースティア空軍の戦闘機部隊とエリス連邦軍の艦隊が救援に向かっている最中であり、彼らと合流すれば対処は容易くなると考えた結果である。だが相手はその手を読んでいた。


「っ、レーダーに感!敵艦隊よりミサイルが発射されました!数は30以上!」


「チッ、先手を打たれたな…迎撃始め!敵艦の位置は?」


「すでに捕捉しております!撃ちますか?」


「今来ているミサイルを撃ち落としてからだ!」


 命令を受け、「ギルガメッシュ」より艦対空ミサイルが放たれる。艦首VLSの『ニヌルタ3』のみならず、艦尾ヘリコプター格納庫上にある八連装発射機からも『シーアロー』艦対空ミサイルが発射され、迫り来るミサイルを撃ち落としていく。


「第一波、全弾撃墜しました!」


「よし…SSM発射!反撃を行え!」


 命令と同時に、側面を向ける形で転舵していた艦隊は一斉に『オルカ』艦対艦ミサイルを発射する。32発ものミサイルが投射され、それを「ロベスピエル」の艦橋から目の当たりにしたバルミスは形相を険しくした。


「て、敵艦隊よりミサイル多数接近!相当な数です!」


「迎撃せよ」


 短絡かつ的確な命令の後に、艦対空ミサイルを有する艦から迎撃が始まる。先の空襲でミサイルを撃ち切った艦も、主砲を用いて弾幕を張り、ミサイルを撃墜しようと試みる。


 が、それらに対抗するにはガロア海軍の対空戦闘システムは些か貧弱だった。ミサイルによる迎撃を潜り抜けたものに対し、駆逐艦は10センチ速射砲で弾幕を張る様に砲撃。しかし巡洋艦にはそれよりも射程の短い30ミリ機関砲しかなく、完璧に対処するには力不足だった。


 1隻、また1隻と被弾していく。船体側面に直撃した『オルカ』は装甲を容易く食い破り、致命的な打撃をもたらしていく。ガロア海軍の巡洋艦は数十発の152ミリ砲弾を被弾してもなお航行できる程度の防御力があったが、ユースティア海軍最新の技術で生み出されたミサイルはそれを無為にする威力を有していた。


 それは「ロベスピエル」にも飛来し、艦上構造物を囲む様に配置された30ミリ機関砲の弾幕を潜り抜けた1発が右舷に命中する。幸いにも命中した場所にあったのは艦対艦ミサイルを撃ち切ったばかりの発射筒のみであり、電子機器への被害も右舷側のミサイル射撃指揮装置1基のみだった。しかしその損害は今後の行動内容の判断を下すのに十分たる材料となった。


 斯くして、後に『西エリス海海戦』と呼ばれる事になる戦闘にて、ユースティア海軍第1艦隊とガロア海軍東洋艦隊は衝突。東洋艦隊は巡洋艦3隻と駆逐艦6隻、フリゲート艦3隻の12隻を喪失し、援護した空軍も100機以上が撃墜。対するユースティア海軍第1艦隊は駆逐艦3隻が撃沈され、巡洋艦2隻が損傷。航空戦力に関しても空母艦載機7機が撃墜され、結果としてはユースティア海軍の戦術的勝利となった。


 しかし貴重な空母艦載機を相当数喪失した事と、最前線に立てる水上戦闘艦を5隻失った被害は大きく、戦線は暫しの停滞を余儀なくされる事となる。

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