第19話 エリス大海空戦②

正暦1031年1月18日 ゴーティア大陸南部 エリス連邦領海内


 空戦の始まりと、それを掻い潜るかの様に迫る敵機の動向は、東洋艦隊旗艦たるミサイル巡洋艦「ロベスピエル」の三次元レーダーに捕捉されていた。


「対空レーダー、敵機を捕捉しました。反応の大きさからして低空で接近している模様」


 「ロベスピエル」の艦橋にて、レーダー員は艦隊司令部を成す将官達に報告する。バルミスは『やはりか』と言わんばかりに小さく頷き、艦長に視線を向ける。


「分かった。艦長、全艦に対空戦闘を発令せよ」


「了解。全艦対空戦闘、SAM発射準備」


 艦内にベルが鳴り響き、砲術班は艦橋後部の火器管制室にてコンソールを操作。後続の同型艦「ダートゥス」と共に対空警戒レーダーの出力を上げ、敵機の動向に備え始める。


 現在艦隊を構成するのは4隻のミサイル巡洋艦と8隻の巡洋艦、14隻の駆逐艦、6隻のフリゲート艦の計32隻で、駆逐艦2隻とフリゲート艦6隻を前面に立て、巡洋艦6隻と駆逐艦6隻からなる輪形陣を二つ並べるという警戒序列で東に進んでいる。その上空には航続距離の長い〈ティフォン〉戦闘機が常に12機程度展開しており、すでに通報を受けて敵攻撃隊の迎撃に動いている筈だった。


「レーダーに新たな反応あり。敵機上昇を開始…その敵機より微小の反応が高速で離れていきます」


「ミサイルを撃ってきたぞ、迎撃始め!」


「了解。照準開始、攻撃開始」


 砲術員がキーボードを叩き、レーダーで捕捉した目標の諸元を入力。そして艦首甲板上にある対空ミサイル発射機が旋回開始し、目標の方向へ指向。そしてブースターを点火させ、最初の2発が発射される。


 『エタンダル』艦対空ミサイルは『アグダフ』艦対空ミサイルの後継として開発された艦隊防空ミサイルで、最大の特徴としてはロケットモーターの改良のみならず、誘導方式をビームライティング方式から、射撃管制レーダーの反射波をミサイル自身が拾う形で追尾するセミアクティブホーミング方式に変更した事にある。加えて中途はオートジャイロによる慣性誘導を用いる事で、射撃指揮装置の数以上の敵機に対応できる様になっていた。


「敵ミサイル、及び敵機、それぞれ1機の撃墜を確認!」


「よし…」


 管制員の報告を聞き、バルミスは小さく頷く。と通信席に座る乗組員から報告が上がる。


「巡洋艦「バルウス」、対応開始しました」


 その報告に合わせ、巡洋艦「アミラル・バルウス」は主砲塔上部に積載している『マレ・トネル』艦対空ミサイルを発射。迫り来る敵機とミサイルに対応する。他の駆逐艦も同様にミサイルを発射し、速射砲で弾幕を張る。その上空では〈ティフォン〉が〈シーファルコン〉に襲撃し、撃ち落としていく。


 戦闘は激化の一途であり、バルミスは空を見つつ呟く。


「…初撃はこれで対処出来た。次は…」


・・・


 対空戦闘は、ユースティア艦隊の方でも起きていた。


「対空戦闘用意!」


 ミサイル巡洋艦「ギルガメッシュ」の戦闘指揮所CICで、艦長は命令を発する。三次元レーダーで敵機を捕捉し、すでに4基の射撃指揮装置による照準は終えている。


「発射始め!」


 命令一過、VLSより次々と『ニヌルタ3』艦対空ミサイルが発射される。北西より迫り来る敵機群は第31独立飛行隊の猛攻を潜り抜け、自身の空対艦ミサイルの射程へと収めつつある。それ故に、撃たれる前に撃墜しなければならなかった。


「何としてでも、「ティアマト」には撃たせるなよ!必死に攻撃している空母航空団の帰る場所を失ってはならん!」


 艦長は叫ぶ。迫る敵機の数は凡そ20機程度であり、その殆どが空対艦ミサイルを抱えているだろう。そしてこちらに辿り着かれる前に撃墜しなければならない。敵攻撃機は必死に距離を詰めていくが、その前に『ニヌルタ3』が到着し、直撃。次々と撃墜されていく。


「撃墜、3!いえ4!」


「油断するな、この隙に別の一手を打たれる可能性が―」


 艦長が言ったその時だった。突如、轟音が遠くから聞こえ、艦橋で周囲を警戒していた乗組員は双眼鏡で確認。そして血相を変えてCICに報告する。


『こ、こちら艦橋!駆逐艦「アスタロト」が被弾しました!近くに敵潜水艦が潜んでいる模様!』

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