第18話 エリス大海空戦①
王国暦131年1月18日 ゴーティア大陸南部海域
エリス連邦西部海域を、十数の艦艇が輪形陣を組んで進む。人工衛星『ウジャト3』による監視で敵水上艦隊の動向を把握したユースティア海軍第1艦隊は、統帥本部からの指示を下に展開していた。
「全員、揃っているな?」
輪形陣の中心にある空母「ティアマト」の士官室にて、海軍航空隊第101戦闘飛行隊の隊長を務めるローラン海軍中佐は一同に呼びかける。その表情は険しい。
「…これより本艦隊はガロア海軍東洋艦隊の迎撃作戦に参加する。これまでの海上戦力とは異なり、東洋艦隊は最新鋭のミサイル巡洋艦を主力とするガロア最強の水上打撃艦隊だ。さらに植民地艦隊と異なり、大々的に航空戦力をひっさげた上でエリスに攻撃を仕掛ける可能性が大きいという」
ローランの言葉に、多くのパイロットは無言を貫く。だがこれから始まる戦闘は楽勝とは程遠いものになる事を理解していた。
「これを受けて統帥本部は、空軍の第202飛行隊のみならず、星十字騎兵団第31独立飛行隊も当該空域へ派遣する事を決定した。我々は今のところ、戦局の優勢を得ている。だが慢心がそれを全て台無しにすると考え、戦闘に当たってほしい。私からは以上だ」
『了解!』
一同は敬礼を返し、急ぎ格納庫と飛行甲板へ向かう。すでに〈シーファルコン〉
艦上戦闘機と〈コルセア〉艦上攻撃機は対艦装備を整え、攻撃任務に就く事の出来る状態にある。そして甲板上では、1機目がカタパルトと接続し、発艦準備を整えていた。
「ジーク1、発艦する」
それを合図に、攻撃隊は発艦していく。その数は24機。そして「ティアマト」の
・・・
ユースティア海軍第1艦隊が攻撃隊を発艦し始めていた頃、ガロア海軍東洋艦隊は海外州警備艦隊の残存艦を吸収する形で戦力を強化。一路エリス連邦へと向かっていた。
「提督。間もなく敵軍の警戒圏内に入ります」
艦隊旗艦を務めるミサイル巡洋艦「ロベスピエル」の艦橋に報告が入り、バルミスは指揮官席にて静かに聞く。コンスル級ミサイル巡洋艦の外見の特徴である艦上構造物の大半を占める巨大な塔は、レーダー施設そのものを内包した複合式マストであり、三方向に向けて強力な電波を放射する固定式三次元レーダーや、より長距離を捕捉する事の出来る対空捜索用レーダー、そして『エタンダル』艦隊防空ミサイルを誘導する射撃指揮装置4基を備え持つ。
それだけではなく複数の艦艇や空軍航空機とリアルタイムで通信・指揮を執る事の出来る通信システムも内蔵されており、コンスル級ミサイル巡洋艦はこれからの新しい艦隊運用コンセプトを具現化した存在でもあった。
『こちら第16攻撃飛行連隊隊長のナザレ中佐。知将の名で知られるバルミス提督と共に戦場に建てた事を誇りに思う。我が共和国に栄光あれ』
上空を飛ぶ攻撃機から通信が入り、バルミスは小さく頷く。今回の攻勢は非常に重要な作戦であり、空軍は5個航空連隊を投入。東洋艦隊の制空権確保を行っていた。
「そろそろ、相手が仕掛けてくるだろう。全艦戦闘配置!先ずは空軍の撃ち漏らした敵機を対応し、敵艦隊との間合いを詰める!」
・・・
『〈スカイウォッチャー〉よりキャバリエ隊、及びレイヴン隊、敵機を捕捉。反応パターンと空域からして〈ティフォン〉と〈バルトゥール〉、〈クドヴァン〉からなる大編隊だ。真っ先にそっちを片付けろ』
ユースティア海軍第1艦隊に合わせて展開している16機の〈イーグル〉に対し、〈スカイミラー〉早期警戒管制機から通信が入る。データリンクでヘッドマウントディスプレイに投影されるアイコンも多く、相手が「ティアマト」の艦載機のみで対処しきれぬ量の航空戦力を投じてきたのは明らかだった。
『聞いた通りよ。さっさと連中を片付けるわよ。キャバリエ1、
オーグメンターを焚き、エリザベート率いる8機の〈イーグル〉が先行。自身のレーダーに敵機を捕捉するや否や、空対空ミサイルを放つ。敵機編隊は真横から殴られる形でミサイルを投じられ、その多くが回避機動を取れぬまま被弾。8機が撃墜される。そして続くレイヴン隊も敵機を捕捉し始める。
「レイヴン1、エンゲージ。全て蹴散らすわよ」
『了解です、姫様。我らに星十字の導きがあらん事を』
部下達がそう応じる中、8機はオーグメンターを焚いて急加速し、機首のレーダーで照準。一度に2発の空対空ミサイルを放つ。敵機群は流石に回避機動を取り始めるが、全てを回避するには余りにも非力過ぎた。
一瞬で八つの火球が生じ、それに対する形で敵機からも空対空ミサイルが放たれる。マリヤ達はチャフを撒きながら急旋回し、ミサイル追尾を回避。追撃に掛かる敵機の背後を急旋回で取り、短距離空対空ミサイルを発射。敵機を撃墜する。
「しかし、本当に多い…!」
マリヤは呻く。流石に相手も本腰で攻めているが故に戦力は多く、彼らは想定以上に手こずっていた。恐らく何割かは攻撃隊に襲い掛かっているだろう。
『隊長、相手は本気で攻めて来ています!これは思った以上に手こずりますよ…!』
「分かっているわ。今は生き残る事と敵を減らす事に注力して!」
そうして部下と通信を交わしつつ、マリヤは新たな敵機を睨みつけた。
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