2話には2羽ニワトリ頭の主人公たちがいる
2(1)
身につけていたスカーフを解き、その下から出てきたのは――
「あんた、それ……」
沈みゆく夕焼けに照らされる金属、魔力がうっすらと怪しく光る。
紛れもなく、私が付けられているのと同じ『従属の首輪』だった。
「なんでそれを……?しかも団長のあんたが……」
仮にも、本っ当に仮にも、団長である彼に元国賊と同じ首輪がついているだなんて……。一体、なにが……。
……まあこの人問題行動は日常茶飯事だし、犯罪の一つや二つくらい平気でやってそうなのよね。普通にあの国王をキレさせて付けられた可能性もあるか。
「今失礼なこと考えてない?」
「考えてない」
事実を整理していただけだ。
「これには、この国の闇が垣間見える薄汚い事情があってな」
「この国の、闇?」
……きな臭い展開になってきた。
団長のやらかしが原因だと思っていたが、どうやら違うらしい。
憂いを帯びた顔で、団長は語り出す。
「この首輪はな――国王クズマリスの非道な策略に嵌められて付けられたんだ。まだ新入りだった時に実力を買われてな、少しいい待遇を受けてたんだよ。そこで油断したのがいけなかった。浮かれていたオレは背後から近づく国王の手下に気付かなかった!オレはそいつに眠らされ、目が覚めたら、首輪が付けられていた!」
「そんな……!新人相手に刺客まで差し向けるなんて!」
「因みにその刺客、お前の親父な」
「本当にゴメン」
あのクソ親父、いつか絶対〆る。
「そこからは地獄の始まりさ。休憩中にいきなりサンドバックにされ、少しでも仕事でミスをすると馬につないで引き摺り回し、巡回中に呼び出されて釜茹でにする。他にも挙げたらキリがないくらいだ」
「それ、本当なの?」
流石に信じ難いものがある。
一団員をそこまで気にかけるのにも違和感があるし、やっていることがあまりにも過激すぎる。
そこまでしてしまったら、いくらなんでも隠し通すのは無理なんじゃない?
「怪しく聞こえるかも知れないが事実だ。このパワハラは市民には見られないよう城内で行われるし、他の騎士たちは固く口止めされているからバレることはない。もし情報が漏れたら……次はそいつがオレの後に続くことになるからな」
所属した騎士団は恐怖による支配が横行しているようです。
「いや、普通にやばくない!?パワハラどころか拷問が日常化してる職場とかもう終わりよ!人道的にアウトでしょ!?で一番やばいのは……そんな化け物に
女は性質や体の構造上痛みに強いとか言われてるけど、流石に拷問に耐えられるような作りにはなっていない。
痛いもんは痛いし、痛みだけが拷問じゃないことも知っている。全く耐えられる気がしない。
「この現状を聞いて一番の心配が自分の事って……」
「うるさい!自分が助からなきゃ何事も始まらないのよ!」
「やっぱアルガさんの娘だな。考えがエゴい」
「次あのクズの娘って言ったら、あんたが新人にやったこと全部国王にバラすわ」
「ごめんなさいもう言いませんだからそれだけは勘弁してッ!?」
あのクズ男の血が通ってる事実だけでも虫唾が走ってんのよこっちは。
そんなことはどうでもいい!今すぐなんとかしないと……!?
「とにかく!これがこの国の現状とお前の末路だ。少しは危機感を持ったか?」
奴隷の先輩の話を聞き、ようやく焦りが募る。
どうやら私は、今まで自分の尻に火がついていたことにも気づかず過ごしていたらしい。
このままじゃいずれ壊れる、いや壊される。それだけは嫌でもわかってしまった。
「わ、私はこれからどうすれば……!」
「だから最初に言ったろ。――国王クズマリスを暗殺する気はないか、ってな」
確かに、これまでの問題は全て、国王がいなくなれば解決する。
度が過ぎたパワハラはなくなり、騎士団の恐怖政治は消え去るだろう。
そして何より――この首輪を外すことができるかもしれない。
抵抗どころか口答えすらできなくなるこの魔道具は、もはや人権を奪い取っていると言っても過言ではない。
これがある限り、私たちに安寧の時は訪れないであろう。
万が一外せなかったとしても、命令を下す人がいなければただの鉄の塊だ。どちらにしろ問題はない。
ということは――
「暗殺しかないわね」
「お前ならそう言ってくれると思ったよ」
夕暮れの廊下で、私たちは固く手を取り合い、秘密の協定が結ばれた。
未来で待つ平穏を掴み取るため、私たちは反逆の道を進むことを決意した。
「これからよろしく、団長」
「団長なんて堅苦しいのはよせよ。カーニスでいいぞ」
「わかったわ。よろしくカーニス」
新しい仲間と共に、決意を新たにする。
私は――国王を抹殺し、平穏を手に入れる。
そして元凶であるクソ親父を探し出し、制裁を加える。
全てが終わったら、どれほど清々しい気分になれるだろう。
想像しただけで気分が高揚する。
その輝かしい未来を手にするため――私は進む!
沈みゆく夕日を背に、私たちは始まりの一歩を踏み出した。
私たちの戦いはこれからだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます