(12)
「アルガさんの娘!?」
マジか!?あの人娘いたんか!全然知らなかったわ。
言われてみれば、似てるところがちょいちょいあるような……。
あ、だからさっき廊下で見かけた時、アルガさんの面影があったのか。
「父さんは、この国でいちばんの騎士だった。沢山の武功をあげて、街の人たちとも仲が良くて、みんなを笑顔にさせる立派な騎士だった……。だけどある日、突然私の前から姿を消した。あの優しい父さんが急にいなくなるわけがない!何かがおかしい。そう思って調べていたら、ある人から情報を得たのよ」
「情報?」
「ええ。――DV騎士団、いえ、国王クズマリスは!賢王と称えられる表の顔とは裏腹に、パワハラ、モラハラ、市民には言えないような悪どい事を散々してるってね!」
それはその通り。よくわかってるなその人。どこでそんな情報仕入れたんだ?
「ほう。他にはどんな噂があるんじゃ?」
「色々あるわよ。ミスをした騎士を火炙りにしたとか!」
……ん?
「無抵抗な相手を解放したら、罰として水責めに合わせたりとか!」
なんか聞き覚えが……。
「――夜な夜な寝室に女を呼んで侍らせているとかね!」
…………………………。
情報源、オレじゃね?
「どうかしたのかいカーニスくぅん?顔色が悪いぞ⭐︎」
「イヤダナァ国王様!キノセイデスヨ!アハハ!」
「そうかそうか〜。まあ君が俺の悪い噂をでっち上げて酒場で言いふらしてるなんて、そんな馬鹿なことあるはずないか〜あっはっはっ――あとでじっくり話聞こか?」
「………………ハイ」
……裸散歩以外がいいなぁ。
「さぁ白状しなさいクズマリス!父さんになにをしたの!」
鬼気迫った顔でアルマが問う。
その瞳には、噛みついてでも殺すという意思が込められていた。
アルガさん、大事にされてたんだな……。
――騎士団じゃあんなあだ名まで付けられて蔑まれてたのに。確か――
「父さんは――『城狩り』のアルガはどこ!?」
「へっ?『尻狩り』じゃなかったっけ?」
「……………………は?」
「いや『は?』じゃねーよ。なんだ城狩りって」
そんなカッコいい二つ名聞いたことねえぞ。
「え、いやだってっ、父さんがいつもそう言ってて……!」
「『城狩り』はあいつが女口説く時に使う二つ名じゃな」
「「………………は?」」
今なんて?口説くようの二つ名?
えっ、なっ、……は?
ダメだ理解が追いつかない……!
「それって、どういう……」
「どうもこうも、アルガがカッコつけて自分で作っただけの架空の二つ名じゃ。確かにあいつは腕っぷしは良かったが、それを帳消しするくらい女癖が悪かったからなぁ。騎士団の間では侮蔑の意味を込めて『尻狩りのアルガ』って言われてたんじゃぞ」
うん、それは知ってる。
なんせオレに女遊びを教えたのはアルガさんだからな。
オレは畏怖と尊敬の意味も込めてたぞ。八割バカにしてたけど。
「え……じゃあ、武功をあげてたっていうのは……」
「完全に嘘ってわけじゃないけど、あの人サボり癖も凄かったからなぁ」
アルマの顔がみるみる青ざめていく。
「街の人たちと仲が良かったのは……っ?」
「あいつよく賭け事しに行ってたからなぁ。大方そっちの知り合いじゃろ。あとは口説いた女たちじゃな」
真実を突きつけられるその姿は、まるで子作りの仕方を知り、夢から覚めた子どものようだ。
「私に優しかったのは……っ!?」
「「優しくしといたほうが都合がいいから」」
「イヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁ!?!?」
ついにアルマが崩壊した。
うん……流石に、気の毒だな……。
「そ、そんな…………そんなぁぁぁ…………」
「無駄な努力おつかれな〜」
うわぁ追い打ち……。
アルマもう目に光ないんだけど。
闇堕ちした魔導少女みたいになってるぞ。
「私、碌でもない女たらしのために、人生棒に振ったってこと……?あれ?じゃあ母さんが突然消えたのも、あレっ?」
怖いって。完全に壊れちゃったじゃん。
どうすんだこれ。
「……あの、国王様?」
「なんじゃ?」
「今から、なんとかなりませんか?きゅるん♡」
「なるわけないじゃろ」
「イヤァァァ……!私これからこの人にあんなことやこんなことされるんだぁ……!最後は口封じのために消されるんだぁぁぁ!!」
「寝言は寝て言えド貧乱」
「誰がド貧乱だ!?貧乳でも淫乱でもねーわ!?」
「そんな態度でええんか?お前の態度次第でいくらでも刑は重くできるんじゃぞ?」
「なんでもありません好きにお呼びください国王様万歳っ!!」
「よろしい。それじゃまあ、これからよろしく頼むわ――奴隷2号♪」
こうして、国王クズマリスは新しい手駒を増やしましたとさ。めでたしめでたし。
……ワァ、イイ話ダナァ。
*
「それではアルマさん、一言お願いします!」
事件から数日後。
私は今、多くの報道陣に囲まれていた。
DV騎士団初の女性騎士という話題は、民衆からの関心がかなり高かったそうだ。
その結果、丸一日取材日を設けることになり、こうして取材を受けているというわけだ。
記者たちは目の前にいる女が国王を爆殺しようとしていたとはつゆ知らず、志望動機や好きな食べ物などくだらない質問を繰り返し聞いている。平和なものだ。
騎士団の内情でも話して場を凍り付かせてやろうかとも思っていたが、この忌々しい首輪のせいで騎士団に不利益となる情報の開示は一切禁止されていた。
この首輪っ、ほんっとうに逆らえなくなるのね……っ!喋ろうとしてるのに口が硬直するって、違和感ハンパないんだけど……!
「?どうかしましたか?」
「いえ!なんでもないですアハハ……!」
結局爆弾発言は公開できず、取材は筒がなく終わってしまった。
こうしてまた、DV王国の暗黒面は闇に葬り去られるのであった。
「はぁ、やっと終わった……」
「おいアルマ」
「ん?……なんだ団長か。なに?私今疲れてるんだけど」
「お前、まだ国王の暗殺する気はあるか?」
「……は?なにそれ、クーデターの相談?副団長に言いつけるわよ?」
「お前このままだと一生国王の言いなりだぞ?それでもいいのか?」
「それは……嫌だけど……」
「だったらオレを手伝え」
「……さっきからなんでそんな国王を殺したがるのよ?親でも殺されたの?」
「ああ、お前は知らないのか……。いいぞ、教えてやる」
「――オレが、奴隷一号だからだよ」
第2話に続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます