(11)
街が寝静まる頃、国王の寝室で影が蠢く。
影は慎重に中の様子を伺い安全を確保、素早くベッドのもとに駆け寄る。
手元も見えない暗闇の中、月明かりだけを頼りに行動を起こした。
影は
――爆弾である。
筒状で取り扱いやすそうな形をしており、端からは導火線が伸びていた。
さらにその先には
状態を確かめ、不備がないことを確認すると、慎重にベッド下の空間に爆弾を取り付け――。
――そこで部屋の明かりがついた。
「はーい現行犯」
「……ッ!?」
「もう逃げられんぞ――アルマ」
燃えるような赤い髪、勝気な吊り目、薄い胸板。
影の正体は紛れもなくアルマだった。
えっ?コイツが賊?
入団初日からクーデターって……え、どゆこと?
「国王クズマリス……ッ!」
なんかめっちゃキレてるんだけど。
なにしたんだ
「惜しかったなぁ。あともうちょいで仕掛けられたかもしれんのに」
「……そうね。でも問題ないわ。標的が目の前にいるんだもの。このままっ……あんたと一緒に死んでやるわよッ!!」
おいおい正気か!?まずい!?
「待てアルマ!?――このままだとオレも巻き込まれる!オレが離れるまで待ってくれ!」
「お前まじか」
国王の命なんか知ったこっちゃないが、オレが巻き込まれるのは話が違う。
なんとか逃げる時間を稼がなければ……!
「二人揃って死ねぇぇぇぇッ!!」
「慈悲はないのですかアルマさん!?」
コイツなんの躊躇いもなく起爆スイッチ押しやがった!
アルマが爆弾を起動させると、先端に取り付けられていた鉱石が光だし熱を帯びる。
その熱が油が染み込んだ紐に伝わり、着火。
ジジジッ、と音を立てながら、みるみるその長さを減らしていく。
爆発まで後少し、猶予は導火線が燃え尽きるまで。
逃げ切れるか?
いや、オレならできる!
全力で走れば寝室の外まで行けるだろう。
よし、早速――
「『
――体が
一瞬、姿が掻き消えるほどの速さ。
アルマを軽く置き去りにし、爆弾の元に辿り着く。
そして――
「あっつッッッ!?」
導火線を握り締め、火を消した。
「導火線握り込むとか、根性あるなぁ」
「あんたが命令したんだろうが……ッ」
うう……
「……どうして」
「んあ?」
「どうしてこんなクズを庇うのよッ!あんた昼間酷い目に遭わされてたじゃない!」
「いや、それは……」
「せいっ」
「しまっ……うっ!」
アルマの首筋に手刀が刺さり、その場で崩れ落ちる。
容赦ねぇ……。
「国賊にクズとか言われても響かんわ。――カーニスくん、そいつ連れてこい」
あ、コイツ終わったわ。
*
床の冷たさとカビ臭さで、覚醒を余儀なくされる。
ここは……独房か。
どうやら気絶している間に運ばれたらしい。
ろくに手入れがされていないのか、黒ずんだ汚れが目立ち、酷い汚臭が蔓延している。今にも鼻が曲がりそうだ。
部屋には最低限のものしかなく、寝所に藁、用を足すためのバケツだけが置いてある。
それ以外にあるのは、カビとは異なる色をしたドス黒い点だけだった。
視覚・触覚・嗅覚への刺激によって意識が明瞭になってくると、突如首筋に鋭い痛みが走る。さっき喰らった手刀の痛みだろう。
痛みを誤魔化すために首筋を撫でる――が、手に帰ってきた感触は肌のそれではなく、冷たく無機質な鉄の感触だった。
「おっ、起きたか」
扉が重苦しい音を立てて開く。
緩慢に開けられた扉から、私をここに連れてきたであろう張本人が現れた。
国王クズマリスである。
後ろには団長のカーニスも控えていた。
……なによあの憐れむような目。同情でもしてるいるの?
随分とお優しいのね。少し前までは散々私のことを馬鹿にしていたくせに。
立場が変わった途端態度変えるとか、本当ムカつく。
「さて、色々聞きたいことはあるが……まずはその首輪の説明からしよか」
「……ずっと気にはなってたのよね。なに?こういうのが趣味なの?」
状況は最悪だが、強気な姿勢は変えない。
こんな男に屈するくらいなら、死んだ方がマシだ。
「その首輪の名前は『従属の首輪』。取り付けた相手に強制的に命令を下すことのできる
魔道具。
これを説明するにはまず
魔素とは人類が観測した、有機物から稀に発生するエネルギーのことである。
その解明は未だ進んでおらず未知の部分が多いが、そのエネルギーは熱や水を発生させたり、時には傷を癒すこともでき、超常現象を起こすこともできるらしい。まさに魔法のようなエネルギーだ。
余談だが、魔素が発生していたものが魔素切れを起こすと生命活動を停止したという報告があり、生命の源なのではないかと囁かれている。
しかし稀と言ったようになにからでも発生するものではないため、採取できる数は限られており、利用するにはかなりの手間がかかる。
よって、その魔素を利用して作られた魔道具は非常に高価なものになるのだが……まあこんなクズでも国王だし、金には困らないのだろう。
ちなみに私の爆弾に取り付けてあった着火装置も魔道具の一つだ。
着火機能しかなく、装飾なども一切施していない一度きりの使い捨ての道具だが、あれでもそこそこの値段がする。まあ不発に終わったけど。
「首輪の魔力を通して脳に命令を強制する信号を与えるってもんなんじゃが、まあ詳しいことをお前が知っても仕方ないか。世界にまだ二つしかないちょ〜貴重なものじゃ。ありがたく使えよ」
「そんな貴重なものをありがとう。でもあいにくこの首輪は私の趣味じゃないわ。スクラップにしてお返しするわね」
「首についた金属の塊をどうやって壊すんじゃ。首ごとさっきの爆弾で吹っ飛ばすか?」
「あんたも巻き込めるなら、それもいいかもね」
「……さて、次は質問じゃ。俺を殺そうとしてたけど、なにが目的なんじゃ?まあ大体察しは付いとるが」
「多分、あんたの予想通りよ」
「私はアルマ。――DV騎士団前団長、『アルガ』の一人娘よ」
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