(10)

「はぁ……」

 

 酷い目にあった……。今日は厄日だ。

 

 食堂で目覚めた後、オレたちを待ち受けていたのは、三時間に及ぶタダシの説教だった。

 散々罰を受けた後だというのに、追加のゲンコツまで食らった。

 オレはただ、タダシの貴重な時間が削れないように早く切り上げないかって提案しただけなのに。人の親切心を無碍にしやがって。

 廊下を歩きながら、鼻と頭のコブをさする。

 どちらも真っ赤に腫れ上がっており、せっかくのイケメンフェイスが台無しだ。人気が下がったらどうしてくれるんだクソ国王とタダシめ。


 そもそもの原因は新人たちあいつらだ!

 速攻で売り飛ばしやがって、普通あそこは先輩であるオレを庇うところだろ!

 これだから最近の若いやつは!先輩に対する敬意ってもんがないのかね。

 今度あったらタダじゃおかねえからな。

 


【そんな態度だから敬われないんじゃないですか?】


 

 なんか聞こえたんだけど!?なにこれ幻聴!?怖ッ!?

 殴られすぎておかしくなったのか!?

 こうしちゃいられない、早く休……ん?あれは……。


 悪態をついていると、廊下の先でアルマを見つけた。

 だが様子がおかしい。

 腰を低くし、壁に手をついた状態で辺りをキョロキョロ見渡している。だいぶ挙動不審だ。

 しかもその表情はどこか真剣、いや、シリアスなものであった。


 

 その姿にオレは――強い既視感を覚えた。


 

 あの姿、どこかで見たことあるような……。なんだっけ、確か数年前くらいに……。




 

 ――そうだ思い出した!


 前団長が気に入った子を護衛と称して尾行する姿に似てるんだ!


 周辺確認するときの首を振る仕草とか、壁に手をつくというかがっちりホールドしてるところとかそっくり!

 ってところも同じだから余計似てんのか。


 あースッキリした。こういうのパッと思い出せると妙に気持ちいいよねー。

 

 よし。

 気持ちよく思い出せたところで、さっきの文句を言いに行くか。


「ヘイヘイそこのカノジョォ」

「うひゃあッ!?」


 ん?なんだその反応?


「き、急に話しかけないでよ!びっくりしたじゃない!」

「なーんか怪しいな。何か変なことでも企んでんじゃねえのか?」

「…………そんなわけないじゃない」


 なんだ今の間。

 え、マジで怪しくね?さっきから反応がおかしいし、ずっと落ち着きがない感じがするし……。


 ん?何か手に持ってる。

 あれは……袋か?しかもそこそこ膨らんでる。


 ここは騎士寮が近いこと以外は特になにもないただの廊下だ。

 こんなところを夜中にコソコソ歩くのには何か意味があるはず。


 待てよ?確かアルマの年齢は――。

 

「――なるほど。そういうことか」

「……ッ!?」

「アルマ、お前――」


「いくら思春期だからって下着泥棒はちょっと……」

「違うわッ!?」


 まーそういうお年頃だもんな。オレもガキの頃、近所のお姉さんとか同年代の子のでやったわ。

 バレた後村の女全員にボコボコにされて晒し上げられたけど。

 あの時は死を覚悟したね。


「まあ安心しろ。みんなには黙っといてやるから」

「だから盗んでないわよ!」

「じゃあなにやってたんだよ」

「そ、それは……。とにかく!なにもしてないから!」


 それだけ言って、アルマは寮の反対側に走って行った。


 恥ずかしがらなくてもいいのに。誰にだって過ちはあるさ。

 なんか色々溜まってそうだし、今度あいつが好きそうなお店紹介してやろ。


 ふぅ。

 今日は散々タダシに殴られるわ、後輩のケアもしたわで疲れたな。

 こういう日は早めに休むに限る。

 ……いや、こういう時こそ癒しが必要だよな。

 よし!エリロスちゃんのいるお店に行こう!

 たーくさん甘やかしてもらって、今日の疲れを癒しに――。


「やあやあカーニスくん、奇遇じゃなぁ」


 今一番会いたくなかった。


 最悪のタイミングで国王に声をかけられる。

 脳内はもうエリロスちゃんのことで頭がいっぱいだというのに、間の悪い国王である。

 ていうかどこから湧いてきたんだこの人?


「なんじゃその顔。不敬罪でまた裸散歩の刑に処すぞ?」

「お会いできて光栄ですクズマリス王万歳ッ!?」


 ヤダ……。裸散歩はもうヤダ……。


「まあええわ。そんなことより、今すぐついてきて欲しいところがあるんじゃが」

「すみません用事があるんで」

「時間は取らせん」

「すみません用事があるんで」

「城に賊が侵入した」

「すみません用事が今なんて言った?」


 今不穏な単語が聞こえたんだけど?賊って言った?


「おい一大事じゃねえか!?どうしてこうなった!?」

「騎士団長のお前が勤務中に気絶してた眠りこけてたからじゃろ」

「あんたが気絶させたやったんだろーが!」


 まずい……!なにかあったら絶対責任取らされる!それだけは回避しなければ。

 でもエリロスちゃんの所には行きたい。絶対行きたい今行きたい。

 さて、どうするか……。


 ――閃いた。


「じゃあオレは外の警戒にあたるんで、場内のことはムッシュに、国王の用事はタダシに任せます」

「ムッシュはもう既に周辺の警戒をさせてるし、タダシも他の騎士たちと城を守らせてる。残るはお前だけじゃ」


 くっそ万事休すか。

 効果はないと思うけど、一応ゴネてみるか。


「えぇ、でもぉ……」

「はぁ……」←縄を取り出す。

「すみませんすぐ行きますだから裸散歩は勘弁してくださいッ!?」

「じゃあ行こか」


 国王は縄をしまいさっさと歩き出した。

 あぁ……エリロスちゃんとのイチャイチャが……。

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