(6)

「まったく……初日からこの始末か。アルマとその他揉めていたものは全員、今日中に始末書を提出するように。……一応言っておくがお前もだぞ、団長」

「オレ悪くなくない?今回は悪くなくない?」

「訓練をサボろうとした罰だ」

「そっちね……」


 結局逃げきれず、訓練に参加することになってしまった。

 暴れていた奴らは漏れなく全員頭にコブができている。ちなみにオレはコブの代わりに滝のような血が流れていた。


 心も胸も無い新人によって罪のないイケメンがボロボロにされたというのに喧嘩両成敗で片づけ、あまつさえ始末書まで書かせるだなんて。解せぬ。

 おかげで包帯でぐるぐる巻きにされミイラみたいになっているが、千歩……いや、一万歩譲ってそれはいい。


 問題はあの女アルマだ!あいつ団長に向かって問答無用で弱点を攻撃しやがって!

 今に見てろよ……!団長権限で目に物見せてやる!


「それでは訓練を始める!」


 タダシの号令で、今度こそ真面目な空気になる。

 ようやく騎士団らしくなり、新人たちも周りに合わせようと意識を切り替えたようだ。


「先ほど気が緩んだからな、騎士の心得は新人だけに話す予定だったが全員聞くように!」


 うぇっ、面倒ごとが増えた……。


「まず騎士は多くの才能を示さなければならない。民を守り抜く武力も必要だが、騎士としての立ち振る舞いや上流階級の方々と接するための教養も必要になってくる。諸君らにはこの訓練で一流と呼べるレベルまで鍛えてもらうから覚悟しておけ。そもそも騎士とは――」


 長々と騎士について語るが、全て右から左へと流れてゆく。

 国王の演説もだけど、長い話聞けないんだよオレ。


 そのまま聞き流そうと思っていたのだが――閃いてしまった。


 ポケットから後で食べようと持ってきていた焼き菓子の詰め合わせを取り出す。

 それをアルマの足元に投げつけた。


「あれれ〜?アルマくん、今何か足元に落ちたよ〜?」

「えっ?」

「あれっ?あれれ〜!?こんなところに焼き菓子が!?アルマくんダメじゃないか〜訓練所にこんなもの持ってきちゃ〜」

「ちがっ……!私のじゃないわよ!」


 へっへっへ……!さあ怒られろ!理想は訓練の量倍とかが望ましいな。


「嘘はいけないな嘘は〜。だって君の足元に落ちてたんだよ?こんなの君以外にありえない……」

「副団長ー。さっき団長がアルマに向かって何か投げてるところ見ましたー」


 オォイッ!?バラすんじゃねえよ騎士C!?


「うむ、よく報告してくれた。先ほどの始末書は無しにしてやろう。他の者も密告したら始末書は帳消しとする。見つけ次第報告するように」


 ずるい!オレも密告したい!始末書書きたくない!


「副長!さっき団長が女の人の写真を見てニヤけてました!」

「団長がこっそり酒飲んでるところ見ました!」

「場内に幼女連れ込んでました!」

「今適当言った三人は訓練3倍だ」

「「「ひんっ」」」

「ざまぁ笑」


 てか最後のやつ、後でゆっくりお話ししようか?拳で。


「お前は訓練5倍だぞ」

「なんで!?」

「アルマに対するいじめの分に決まっているだろう馬鹿者!団長が率先して新人をいびってどうする!恥を知れ!」


 くっ、正論すぎて何も言い返せねぇ……!

 処罰宣告に唸っていると、どこからか視線を感じちらりとそちらを見てみる。

 そこにはニヤけづらのアルマの顔があった。


「ぷっw」


 あいつ!絶対!泣かす!!

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