(5)

「では最後。待たせたな、初めてくれ」


 地べたで痙攣するオレをよそに、最後の自己紹介が始まった。

 少女が前に出る。

 すると――


『『『うおおおおおおおおおおお!!!!』』』


 鼓膜が割れんばかりの大歓声が城内に響き渡った。

 待ちに待った騎士団初の女騎士の入団。しかもなかなかの美少女ときた。

 このむさ苦しい集団の中にやっと癒しが与えられるのかと涙していた団員は多い。

 彼女の入団が決まった時から団員たちは落ち着きがなくなり、今まで無頓着だった身なりを整えだしたり、妄想を始めたりしていた。


 

「鎧を新調したんだ。給料の大半を叩いて作ってもらったオーダーメイド、最高にイカすだろ?」

「ばっかお前、女の子は鎧になんて興味ないんだよ。オレの香水の方が興味を引くに決まってらぁ」

「浅知恵乙。鎧の鉄臭さで効果半減だし、お前の体臭はそんなもんじゃ消えねえよ」

「あんだとコラ?」

「やんのかああ?」

「まとめてこいよチェリーども」

「「お前もだろ」」


 ………………。


「「「コロスッ!!」」」

「まあ待てお前ら。新人ちゃんはもう既に俺の腕の中に収まることが確定してるというのに、無駄な争いをするんじゃない」

「「「えっ何コイツきも」」」

「……覗きスポットの確保は完了した。魔写機も用意済み。あとは――実行に移すのみ」

「「「「ムッシュ様!我らにもお恵みを!!」」」」

「……墓場まで持っていく」



 とまあこんな感じで、ここ数日の騎士団は割と見るに耐えない惨状だった。

 まあ結局昨日の夜タダシの雷が落ちて一旦は収束したのだが。


 閑話休題。


 しかし、タダシの雷でも男たちの熱は抑えられなかったらしい。

 この雄叫びがそれを表している。欲に飢えた男たちは、今も血走った目で少女を見つめていた。


 ……オレ?オレはしてないぞ。好みじゃないからな。

 入ってくるのが美人で巨乳でどエロい雰囲気醸し出してるお姉さんだったら確実にああなってた。あいつらの気持ちも痛いほどわかる。

 でもまあ?興味がないとは言ったけど?あの子がど〜してもオレとそういう関係になりたいって言うなら?考えなくもないかな〜って感じだな。んで、あいつらを煽り散らかして遊ぶまでがセット。


「初めまして、アルマと言います。これからよろしくお願いします」


 ……随分淡白な挨拶だな。見た目は活発・勝気な感じなのに。

 真剣というか、なんかこう、本気と書いてマジって感じだ。そんなに騎士になりたかったのか?


「アルマちゃんって言うんだね。今夜、俺の部屋に来ない?」

「君のためなら、給料全部捧げても構わないよ」

「俺、君のスカートだけじゃなくて、心も脱がしたいんだ」


 3K(キモイ、汚い、勝ち目がない)騎士たちによる口説き合いが始まった。

 全員目がガチだ……。心なしか辺り空気も澱んでいる気がする。

 必死すぎて普通に無理、近づかんとこ。


「ん?ムッシュは行かないのか?」


 昨日まであれだけ楽しみにしてたのに。何かあったのか?


「……盛ってる」

「……ッ!?」


 今までどんなキモい口説き文句を受けても、どんなセクハラ発言が来ようとも、本気マジな雰囲気を崩さなかったアルマが激しく動揺した。


「盛ってる?何がだ?」

「……鎧がついていない方、胸部がわずかに膨らんでいる。しかしあの大きさだとあのチェストプレートのサイズでは窮屈なはず。そこから導かれるのは胸の形が左右で崩れているか片方を盛っているということに――」

「崩れてないわッ!!バリっバリの美乳だっつーの!!」


 盛ってるのは否定しないんかい。


「あっ……」


 今更自分の失言に気づいたようだが、時すでに遅し。周りの反応はさっきまでとは大きく変わっていた。


「盛ってるのか……あれで……」

「A……いや、AAか……。流石にちょっと……」

「貧乳に人権はない失せろ」

「貧乳は特級人権ステータスでしょうが!?貧乳を崇めろ!讃えろ!」

「巨乳の方がいいに決まってんだろ」

「「「意義なし」」」


 オレの至極真っ当な意見に大半が同意する。


「ぐっ……ここでも貧乳は人権がないというの……!?」


 どこにもないだろ。


「いや、俺はぺったんこも好きだぞ!」

「貧乳万歳!!」

「まな板最高!」

「今『ぺったんこ』『貧乳』『まな板』って言ったやつ、ちょっとこっち来い」

「「「どうすればいいんだよ」」」


 暴君が過ぎる……。貧乳は胸だけじゃなく心も小さいんだな。また一つ賢くなってしまった。


「……愚かな。巨乳も貧乳も皆等しくおっぱいだというのに」

「ムッシュの言う通りだ。女性を胸で判断するとは言語道断、騎士道精神に大きく反している!恥を知れ!」


 多分そう言う意味で言ったんじゃないと思うぞタダシ。

 そいつにあるのは下心だけだ。

 

「まったく。まあいい、これで全員終わったな。それではこれより今日の訓練を始める。準備しろ」

「副団長ー、団長とその他大勢のやる気がダダ下がりです」


 そりゃ下がりもするだろ……。期待の新人がこんな粗暴で粗乳だったら……。


「顔はいいんだけどな……。胸と性格が……」

「凶暴なのは胸だけにして欲しかった……」

「もう『ナイマ』に名前変えろよ……」

「「「それだ」」」

「よし、アンタら潰すわ。新人とか関係ない――乙女を敵に回したこと、死ぬまで後悔させてやるッ!!」

「やめんか馬鹿ども!」


 女のプライドを賭けた大乱闘が始まった。

 アルマが先輩騎士たちを殴り飛ばしていく姿は、観ていて気持ちが良かった。てか強いなあいつ。

 因みに元凶である変態ムッシュは場外に避難している。


「てか、どっちもいいならなんでバラしたりしたんだ?」

「……バストサイズを偽っていたことが許せなかった。バストを偽ることは神エロースへの冒涜。『貧乳は特級人権』などと自分では言っていたが、結局彼女自身が貧乳のポテンシャルを信じきれていないところも減点」

「お前ほどエロに熱心なヤツいないよ……」

「……照れる」

「褒めてねぇからな?さて、この隙に訓練バックれるとしますかいったぁい!?」

「逃すわけがなかろう怠け者」


 脱走を企てている姿を見つけた鬼が、容赦なく刺さっている銛を前に倒す。


「銛がッ!?銛が頭蓋骨をガリって!?」

「……出血すごいぞ」


 くそっ!チャンスだと思ったのに!

 血まみれの姿でヨロヨロ立ち上がり、鬼畜メガネと対峙する。


「ふっ、こんなんでオレを止めたつもりか?この混乱具合ならまだチャンスはいくらでも……」

「アルマ。団長がお前みたいな立派な壁が来てくれて嬉しいと言っているぞ」

「おまっ!?それはズルだr」

「だぁれぁがぁ……!人間城壁だゴラァああああああ!!」

「銛がぁああああああああああ!?」


 怒り狂ったアルマのドロップキックが銛に決まった。


「……あ、銛抜けた」

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