(4)
「おぇ……。ああ、スンマセン……二日酔いで……。えっと、リカーと言います……。好きなものは酒、嫌いなのは二日酔いとアルコール切れっす……。……どなたか、エチケット袋持ってる方いませんか?」
三番目の新人は過去一やばい奴だった。
初日からゲロ吐き散らかしてくるとか、頭がおかしいとしか思えない。
よく見ると訓練所の入り口からここまで点々とゲロの跡が続いていた。
この惨状でエチケット袋なんか持ってきたところで、もう既に色々と手遅れだろう。
なんでこいつを採用しようと思ったんだ?
「今更エチケットを心配する必要はないから安心して吐け」
「おお……団長さん、なんて優しい人なんだ……。あとで一緒に飲みに行きましょう……。」
「絶対ヤダ。オレは可愛いことしか飲まないって決めてんだよ」
そうじゃなくてもお前とは飲みたくない。
てかこのゲロどうすんだ……。
「全く。初日から二日酔いとは――いい度胸だな?」
タダシのこめかみに一筋の線が通る。
勘の良い読者諸君はもうお気付きだろうが一応補足しておくと、タダシは怒るとめちゃくちゃ怖い。なんの躊躇もなく殴ってくるし、ドスの利いた声は体の芯まで響き、相手を怯ませる。
その迫力に新人たちは一歩後退り、蛇に睨まれたカエルのように動けないでいた。
怒らせた張本人は、ただでさえ悪かった顔色をさらに悪くしている。もはやゾンビの方が近い。
けど普段は睨まれる側だが、他のやつが怒られているのを見るのはなんか楽しいな。
行けタダシ!舐めた新人に一喝してやれ!
「こんなことしでかしたのは団長以来だぞ」
「……ゑ?」
怒りの矛先が180°代わり、突如窮地に立たされる。
あれ?いつもと変わらなくない?
「いやいやいや待てよタダシ!?流石に訓練所では吐いたことないz」
「まあ覚えておないだろうな。初出勤の前日からオールして泥酔したまま出勤。酔っ払い特有の制御できていない大声で散々な自己紹介をかまし、挙げ句の果てに当時の団長に嘔吐。これが同期かと、当時は深く絶望したものだ」
「………………」
ヤバい、全く覚えてない。
でもそういえば、自己紹介をした記憶がないのに何故か全員オレのこと知ってたな。そういうことだったのか。納得。
「すごい……。あの人、僕たち新人の悪いところ全部やらかしてる……。これなら僕でもやっていけるかもしれない……!」
「そんなにやらかしてるのに今は団長だなんて!すごいです!尊敬します!」
「へへ、俺たちゲロ友ですね団長。やっぱり今度飲みに行きまオロロロロr」
思いがけず新人たちに好かれてしまった。
やれやれ、人望があるっていうのは大変だな。ゲロ友は認めないけど。
「さすが団長。俺たちにできないことを平然とやってのける」
「そこにシビれぬ憧れぬ」
「黒歴史追加っと」
「……解像度上げ助かる」
「お前ら後で覚えておけよ?」
全く、少しは新人たちを見習ってほしいもんだ。
「覚えておくのはお前だ馬鹿団長。後で宿舎裏に来い」
「断る」
タダシの拳が鳩尾にめり込んだ。
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