(3)

 入団試験から数日後、オレたちDV王国騎士団は試験会場にもなっていた城内の訓練場に集まっていた。


 オレの顔は無事元のイケメンに戻り、ついでに選考も終わって今日から新団員が配属されることになった。

 今回入団したのは四人。タダシの審査は毎回かなり厳しいから、正直もっと少ないと思っていたんだけどな。


 オレ?オレは優しいから全員合格にしたよ?

 審査中居眠りして見ていなかったとかでは断じてないよ。……ちょっとうとうとはしたけど。

 でもたくさん人員を増やした方がオレらの仕事も減るし、国の防衛力も上がるしでお得じゃね?

 向こうも雇ってもらえるし、Win-Winだと思うんだけどなぁ。


「ところで団長。その頭に刺さってるやつなんですか?」

「銛だな。審査中に寝てたら眠気覚ましにって国王に刺された」


 これ返しが付いててっ、なかなかっ、抜けないんだよなっ……!


「新団員諸君!前へ!」


 オレの奮闘をよそに、タダシの号令で新人たちがゾロゾロと前へ出てくる。

 新人たちは皆、様々な様相を呈していた。

 緊張で青くなってるやつ、目を輝かせているやつ、吐いてるやつ……吐いてるやつ?

 ま、まあいいや。とにかく色んなやつらがいる中、一際目立っている団員がいた。


 例の少女である。


 男共とは異なる左右非対称のチェストプレートを装着し、下はズボンではなくスカートを履いている。

 膝丈ほどのスカートから除く膝あてが、可憐さと無骨さというミスマッチを演出しており逆にイイ。

 彼女のために新調された、女性団員用の新装備である。

 しかし相変わらず胸はない。減点。


「では、順番に自己紹介を行なってもらう。新人とはいえ、君たちはもう立派な騎士団の一員だ。一端の騎士として恥ずかしくない自己紹介をするように!」


 騎士として恥ずかしくない自己紹介とは?

 自己紹介は自己紹介だろ。恥ずかしいもクソもあるか。


「因みにあそこの銛が刺さってる者は、人としてあるまじき自己紹介をして“イタいやつ“認定されている。ああはならないよう十分注意するように」


 そんなに酷かったか?もう随分前のことだから覚えてないけど。

 

「では君からだ。始めてくれ」

「は、はい……。」


 まずは青くなってたやつか。

 今も変わらず青いまま、声が震えている。

 猫背気味でオドオドしていて声も小さい。自身の無い人の特徴を詰め込んだ見本市みたいなやつだ。

 藍色の髪で目元を隠していて、それがまた自身のなさを助長している。

 典型的な陰キャって感じだな。


「…………」


 ……ん?なんか呟いてね?おまじないかなんかか?

 

「失敗したらイタイやつ失敗したらイタイやつ失敗したらイタイやつ……!」

 

 あとでちょっとお話ししようかクソ陰キャ。


「ザ、ザイニック、です……。なな何か、喋ること……。……………………。あ、あとっ、えっと……!す!好きなものはっ、猫でしゅ!…………。い、以上、です……」


「「………………」」


 辺りがいたたまれない空気に包まれる。

 お世辞にも良い自己紹介とは言えず、しかし何も反応しない訳にはいかないと思ったのか、徐々にまばらな拍手が聞こえてきた。


 気遣いを察したのか、ザイニックの顔からみるみる血の気が引いていく。もう青をを通り越して白い。


 そんな微妙な空気の中、オレだけは違った。


 団長として、仲間として、彼を励さなければと声をかけることにしたのだ。

 自分の黒歴史と同等の自己紹介をかました新人に、オレは生暖かい目を向け、素直な気持ちを伝えた。


「こちら側へようこそ」

「あぁぁぁぁあぁああぁ失敗したあぁぁぁ!?イタイやつに痛いやつ認定されたぁ!?」

「いいい一緒にすんな陰キャ!?別にイタイやつじゃねえわ!……ないよね?」

「少なくとも痛々しい姿ではあるな」


 それは国王のせい。


「よし次!」

 膝から崩れ落ちたザイニックには目もくれず自己紹介を続けるタダシ。

 こいつが一番思いやりないだろ。


「ハイッ!!オレの番ですね!」


 おっ、今度は随分ハキハキしたやつが来たな。

 オレンジ色の短髪、吊り目、いかにも元気って感じの見た目だな。さっきの失礼陰キャとは大違い……


「ホムラですッ!!好きなことは挨拶と運動!!苦手なことは静かにすること!!!戦闘は拳を使った近接戦闘が得意です!!!!早く先輩方のお力になれるよう、全身全霊で精進していくので!!!!!ご指導ご鞭撻のほどッ!!!!!!よろしくお願いしま」

「うるせえうるせえ!!音量下げろ!?」


 あまりの騒音に思わずツッコむ。


「耳が……」

「ウェ……内臓に響く……吐きそう……」

「…………ッ」


 辺りを見渡すと、近くにいた新人たちを含め騎士団全員軒並み耳を抑えていた。


「“よろしくお願いしますッ!!!!!!!“」

「なんで上げるんだよ!?」

「いえ!最後きちんと挨拶できなかったので!」

「うむ、素晴らしい心掛けだ。そのまま精進するようにな」

「ハイッ!」

「声量上げる意味はないだろ!?前のやつが静かだったから余計にうるさかったわ!」

「よし次だ!」

 無視かよ!

 もういい!次こそはまともな奴であってくれよ……!

 

「アッ、無理出るオロロロロロr……」

 

 ――今年は、ダメかもしれない。

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