16. 有象無象の嘘

赤澤は言った。


『嘘をつくなら、最後の最後までつき通せよ』


あいつはあの時、何を思ってそう言ったのだろうか。その真意とはなんだろうか。お前の側にいて笑いかけ、心配し、時間を共にして恋人ごっこを最後までしろと、そういう意味だった? だとしたら何、お前。俺の事、本気? 散々な事をしておいて本気なのかよ。ふざけんな。笑わせるな。


俺はお前に靡いたりはしない。絆されたりはしない。

お前の息の根を止める為に、俺は長い時間を費やしたんだ。こんな事でお前なんかに靡かない。


お前のせいで俺がどれほど苦しんだか、お前はちっとも知らないのだろう。傲慢に勝手に生きて、散々振り回した挙句、お前は何処へ行くのかもあの日告げなかった。あんたから離れてやるよ、そう吐かして消えやがった。最初から最後までお前という男は傲慢だった。


だからあの日、いなくなった男との再会は偶然を装った必然で、俺は息の根を止めようとじりじりと近付いた。刃を向けられている事も気付かずに、あっさりと俺に組み敷かれた。何度も体を重ねるうちに、心までも許したと愚かにも思っている。俺を信じたいと、馬鹿げた事を思っている。それが命取りだと知りながら、俺を側に置いているのだ。


だから俺に殺される。哀れに呆気なく。


『嘘をつくなら、最後の最後までつき通せよ』


それなのに……。その言葉に鼓動が速くなり、耳元で響いているように騒がしくなった。途端に苦しくなった。何かを言わなければ、何かを……、冷静になろうと必死に頭を回転させるが、何も口からは溢れなかった。いや、溢れなくて良かった。口をついて言葉が溢れていたら、そう思うとゾッとする。殺さなければ。始末しなければ。


俺はこの先もずっと赤澤から逃れられない。あの日消えた男の呪縛から自由になりたいと、何度も願った。それが叶えられるところまでようやく辿り着いたのに。胸に何かが引っ掛かる。苦しくて、息が詰まる。


赤澤を殺せば俺は過去から解放され、自由になれると頭では理解していた。だから俺はあいつの息の根を止めたいと願い、そして俺にはそうする権利があるというのに、何を今になって、



「青木さん、これで赤澤邦仁を始末できますね」



怖気付いてんだ。



「本当におめでとうございます。…ふふ、アハハ、それにしてもやばいなぁ、酷い顔ですね。縫ってますよね?」



荒木が肩を震わせながら小切手を俺の前に差し出した。いつもの場所、いつものように荒木の対面に座る。テーブルには今までの報酬とは桁が違う数字が並ぶ小切手が一枚置かれていた。



「はい。数針縫ってます」



俺は答えながら、その小切手に視線を落としていた。



「…良い値がついてますよね」



荒木は俺の視線に気付いて、そう口角をゆるりと上げる。



「さすが船木組直系葉山組の若頭。用心棒もいますし、通常であれば殺すのは少し難しい案件かと。でも青木さんなら今すぐにでも実行できますよね? もう懐に潜り込んでいるのですから」



すぐにでも実行できる、荒木は敢えてそう口にしたのだろう事は分かった。怖気付いて逃げるなよ、と圧をかけている事も。



「…どうやってこれを仕事にしたんですか」



「そんな事聞きます? 裏方の仕事はあまり言わない方が良いんじゃないかな。ふふ、大丈夫です。赤澤邦仁を殺せと依頼した人間はちゃんと金を払ってくれますよ。だから青木さんは心置きなく復讐を遂げて下さい」



これは復讐。俺は俺のすべき事を、しなければ……。



「さて、俺はちゃーんと仕事しました。だから青木さんも俺の手伝いして下さいよ。俺の大切な人、殺されたら困るんで」



「まだ出所は決まってないんですよね」



「はい」



「なら焦る必要ないでしょう。松葉は大人しくしています。稗田って男が相当大事らしいですから」



「そうみたいですね。あれから一切、柳田組の幹部が狙われたって話は聞きません。だから青木さんには感謝してます。あの松葉に脅しをかけ、銃を頭に突きつけてくれているのですから」



荒木はとても楽しい事を話すように、無邪気な笑顔でそう言葉にする。



「それにあちらのヒットマンがあんな状態ですし。ふふ、可哀想に」



柳田組に直接手を下していたのはあの切田とかいう男。松葉の右腕で、柳田組の幹部を次々と始末していた実行犯。


そして赤澤があの日、会っていた男。赤澤に自分の知っている事を何もかも話したであろう男は、俺にとって邪魔でしかなかった。切田は怖くなかったのだろうか。赤澤に何もかもをぶち撒けてしまえば自分の命を危険に晒す事になるというのに、それでも松葉を解放させ、守りたかったのだろうか。そんなに松葉の事が大事だったのだろうか。黙っていれば刺されずに済んだものを。馬鹿だよな。


あいつが赤澤に吹き込んだせいで赤澤はあの日、俺への疑いを強め、ほぼ確定させたようなもんだ。だから俺は斉藤を殺す手段としてあの男を選んだ。それはまぁ、良い選択だったと思う。斉藤は予想通り組にはいられなくなり、そのうち森鳳会の誰かが始末してくれる。自分の手を汚さなくても誰かが。そう。さっさと、赤澤から離れろ。



「でも、」



荒木はそう首を傾けて俺を見た。



「何も言わないんですね、切田の事」



「……は?」



どういう事かと俺は怪訝な顔をしながら荒木を見た。



「殺し損ねたというのに咎めないんですね。青木さんって優しいですよね」



荒木の目は笑っていない。口角は優しく上がっているのに、そこに優しさなんて微塵もなかった。そういう事かと、俺は舌打ちをしそうになった。この男に対して嘘はつかない方が身の為で、極力事実を伝える必要があった。嘘だとバレてしまえば、俺は全てを失う事になるのだから。



「俺はあんたに切田を黙らせろ、って伝えたはずです。殺せとは言ってない」



荒木はその言葉にケタケタと笑う。



「ご冗談を。殺した方が青木さんにとっては好都合な状況なはずですよ。僕はむしろヒットマンに腹を立てているというのに」



「…殺し損ねたからですか」



「えぇ。残念です。長い付き合いだったのですが、雑な仕事をしてくれました」



俺が始末したいのは赤澤だけ、それ以外は…、そう口をついて言いそうになったのを堪えていると、荒木は静かに続けた。



「命じたうちのヒットマン、切田とどうやら接点があったようなんです。うちのお抱えで、事前に調べても掴めなかった情報です。接点があったのならあいつは使わなかった。調べがつかなかった自分自身にも腹が立ちますし、金をかけてやったのに、雑に仕事をして逃げたあの男にも心底腹が立ちます」



荒木はそう言い終えるとにっこりと笑って俺の目を見る。



「ま、青木さんにとってはその方が良かったんですよね? 自分の首を絞める事になるかもしれないのに」



荒木はわざとらしく肩をすくめている。


この男、何を考え、何を見透かしてしてるのだろうか…。俺の立場はいつでも危うい事は分かりきっている。だから冷静に考えて物事を発言しなければ。俺は一呼吸つき、荒木の表情を読もうと目を合わせる。



「何を、言いたいんですか」



そう低い声で訴えると、荒木はふっと余裕に目尻を下げて笑った。



「ねぇ、青木さん。もし切田が目を覚まして、斉藤が犯人じゃないと言ったらどうするんです?」



「斉藤が雇ったヒットマンだと言い張ります」



「なるほど、そうですか。まぁ、証拠はでないですからね。信用勝負でしょうか」



「確証がないものは、何とでも言えます」



「それでもやはり僕は始末しておくべきだったと思いますよ? 嘘を重ねるとどんどん自分の首が絞まりますから。極力嘘は、つかない方が身の為ですよね」



嘘をついたって見抜かれるのが落ち、そう脅しを掛けられている気がした。表情に出せば一巻の終わりで、俺は冷静に「そうですね」と返事を返す。この男の視線はまるで蛇のように冷たく、ひたと背筋が凍るような恐怖を覚える。微笑んでいながら、その腹の底が読めないから妙な恐ろしさを覚えるのだろう。



「今からトドメ、刺しに行きましょうか?」



荒木は俺が殺しに抵抗がある事を分かっていた。分かっている上でそう言葉に出したのは、俺の事を疑っているから、だろう。何を疑われているのかは分からない。だが妙な圧だった。



「勝手に行動するのはどうでしょうか」



「青木さんの為なのに…。青木さんは元警察官だからでしょうか。殺しを極端に嫌がりますよね?」



ひくりと俺はつい反応した。荒木は直接言葉に出したのだ。つまり、俺への疑いは濃いという事だった。俺に対する不信感。それを拭い去るにはどうすべきか。この男に対しては極力嘘をつくことを避けなければならない。俺の嘘を見破られてはいけない人間なのだから。そう、分かってはいるのに。


…なのに。自分に対しての苛立ちを飲み込み、冷静に、静かに俺は口を開いた。



「そうですね。自分が恨む相手を始末するのと、赤の他人を始末するのとでは違いますから。俺は生憎、あなたみたいに殺しを楽しむようなイカれた人間ではありませんから」



「えー。俺は人を殺した事ないですよ?」



荒木はまた目を細めて微笑んでいる。



「そうですか」



「でも、青木さん」



「…はい」



「これで心置きなく赤澤を始末できますね」



こいつ。動揺するな、そう自分に言い聞かせ、落ち着きを取り戻すように椅子に深く寄り掛かり、「えぇ」と頷いた。荒木は俺を試している。それだけは嫌でも分かる。荒木は俺の返事を聞くと、何かを思いついたように目を見開いた。



「あ、青木さんは殺すのが目的じゃないですよね、失礼しました。赤澤を苦しめる事が目的でしたよね? それなら良い手がありますよ」



何を提案する気かと俺は身構えた。



「…良い手、ですか」



「えぇ。黙っていても、切田を刺した斉藤はどうせ破門になります。アレは最後の最後まで、赤澤に尽くすはずです。思った以上に絆が深いようですから、健気に直向きに、出来る限り側にいるはずです。そんな美しい関係、組織をコントロールしたいこちらとしては厄介です。そして青木さん個人にとってもそれは厄介でしょう?」



俺個人にとっても厄介、だと…?



「…どういう意味ですか」



個人にとっても厄介と言った意味を知りたくはないなと、俺はつい眉間に皺を寄せてしまった。荒木はそんな俺の眉間を指さして笑った。



「そんな怖い顔しないで下さいよ。顔に出てましたよ。嫌いだって。だから斉藤をただ殺すには惜しいと思うんです。赤澤を落とすために斉藤を使いましょう?」



「どうするつもりですか」



「斉藤の弱味、教えましょうか」



「え?」



いつの間にこの男は斉藤の弱味を手に入れたのか。この男、本当に何者なのかと俺の眉間の皺は深くなる一方だ。



「あれの同級生は組対の刑事サンなんです。随分と仲が良いようですよ。どういう関係かハッキリとは分かりませんけど、深い仲なのは確かみたいです。なので彼を上手く利用して、脅しかけてみるのもありかもしれません。斉藤には彼を使って赤澤を裏切るよう、直接交渉してみるのもありかと。斉藤がこちら側につけば、これほど頼もしい事はありません。それに赤澤にとっては長年信じてきた側近の裏切り。相当堪えると思います。ふふ。……ね? 悪くないでしょう」



そう言って差し出された数枚の書類と写真。



「こんなツーショットを撮られてしまうなんて、脇が甘い。斉藤もこれなら言う事を聞くかもしれません。その友人が大切なら、赤澤を裏切ってくれるかもしれませんから」



それは隠し撮りされたであろう写真だった。車内には、刑事である男と斉藤のふたりだけ。運転席に座るその刑事の男はハンドルに両腕を掛け、やたら楽しそうに笑いかけているように見えた。斉藤もつられるように甘く笑っていた。斉藤は首を男の方に傾けており、男と斉藤との距離が近く感じられる。


友人、か。さてさて、どこまで通用するネタか。第一、どんな関係なのかは分からないが、斉藤にとってこの刑事の存在はそれほど効力のある人物なのだろうか。松葉と稗田のように案外良い脅しになるかもしれないが、まだ分からない。俺はじっと考えていた。



「青木さん、どうです?」



「これは組織としての仕事ですか? それとも…」



「俺から青木さんに日頃の感謝を込めてです。だって青木さん、あの斉藤って男の事、嫌いみたいですし。それにこれだけ殴られて仕返しもしないなんて、青木さんが黙っても俺が黙りませんよ。青木さんの為に仕返しのネタ探したんですから。これで赤澤も奈落の底。使わない手はないでしょう?」



日頃の感謝を込めて、ね。よく言う。思ってもいないだろう言葉を俺は受け取りながら、「分かりました」と頷いた。



「この情報、うまく使わせてもらいます」



荒木は嬉しそうに微笑んだ後、ぽつりと呟いた。



「斉藤が赤澤を裏切った時、赤澤はどうするのでしょう。怒り狂ったりして。それとも…」



あいつが斉藤を失って怒り狂う?



「泣いちゃったりして」



ケラケラケラ。荒木は敢えて俺を煽っているのだろう。ここで表情を変えてみろ。荒木は俺に対して更に疑い深くなる。俺が表情を変える事は、赤澤に対しての感情を認めているようなものなのだから、俺は冷静にと一度自分を落ち着かせてから口を開いた。



「そうですね。怒り、泣き、失望し、落ちていけば良い。そうなれば本望です」



俺の回答に、荒木はにっこりと満足そうな笑みを浮かべた。



「良かった。余計な事をしてしまったかと思いましたよ。さ、一か八か、脅しをかけて反応を見てみましょう。アレはもう、どちらにせよ切られますから」



どちらにせよ斉藤は切られる。その道筋を作ったのはこの男。そして破門され殺される事も見越しているくせに、それでもまだ、痛め付けようとする。敵には回したくないなと俺は視線を荒木から外し、写真を懐に仕舞った。



「ねぇ、青木さん。船木組は今後、どう変わるのでしょうか。気になりますね」



「さぁ。俺には興味のない事です」



「…そうですか。青木さんは本当に赤澤にしか興味がないようですね。でも気になりません? こうして脅して、動かざるを得ない幹部連中の動き。自分達のメンツで飯食っているような連中が無様に何も出来ず、結局はこちらの言いなりになり、落ちていく。赤澤も斉藤も破門になったら更に面白くなりますよ。組として大きく変わります」



「それが狙いなんでしょう」



「まあ、そうみたいですね。あの船木組がコントロールしやすくなったら、裏社会の情報は全てこちらのものと言っても過言ではありません」



「どこの誰の依頼かは知りませんし、あなたは言うつもりもないのでしょうけど、そんな依頼をする依頼者は裏社会を牛耳ってどうするつもりなんでしょう。案外、この国を動かすような人間だったりして」



探りを入れると荒木はふふっと笑って首を傾げた。



「さぁ、どうでしょうね。知りたいですか?」



喉から手が出るほど知りたいくせに。そう言われている気がした。



「結構です。背負いたくないですから」



「へぇ。そうですか? 青木さんなら知りたいのかと思いました」



俺、なら。また含みのある言い方だった。まさかな。荒木がかけている俺への疑いとは…、俺は一瞬身構えたがそんなはずはない。こいつはただ鎌をかけているだけ。こいつの前で俺はミスを犯してはいない。疑われたとしても、それは単純に赤澤との関係。赤澤を殺せないのでは、という馬鹿げた疑念。それだけだ。



「知ったら最後でしょう? 知りたくもない事を知ってゴタゴタに巻き込まれるのは勘弁ですから」



「ふふ、ですね」



荒木はそう微笑むと椅子に深く腰を掛け直した。



「ひとまず、青木さんはこのまま潜って下さい。内部情報がある程度分かって、青木さんも仕事を終えたら綺麗さっぱりこの件から身を引いて頂きます。今回の仕事はかなり厄介な仕事ですから、その後はしばらく身を隠して頂く事になるかと思います。良いですね?」



「今更な事を言うんですね。そのつもりでしたし、しっかり俺を守ってくれないと困ります。俺は顔を知られていますし、相手はヤクザ。殺されたくありませんので」



「えぇ、ですよね。…この仕事、成功させてくださいね」



荒木は和やかに俺に圧を掛ける。じりじりと、重い圧を掛けられる。



「この件にはかなり大金を注ぎ込んでますから」



逃げるなよ。そう面と向かって言われた気がした。えぇ、逃げませんよ、と俺は淡々と答える。



「俺はこの組織の一員です。失敗が許されない事くらい分かってます」



今はまだ、ここにいてやる。今は、まだ。荒木は「良かった」と目尻を下げたが、ほの瞳は笑ってなどいなかった。


そうして俺が荒木から新たに貰った情報を手に、斉藤に近付いたのは翌朝だった。斉藤は俺を避けていたらしかった。怒りを無理矢理押し込んでいるようだった。それもそうかと思いながらも俺は斉藤に近付き、話があります、とわざと微笑んでみせる。


斉藤は静かにゆっくりと呼吸をすると、「俺も話があります」と真剣な眼差しを俺に向けた。俺は斉藤を自分の車へ乗り込むよう言うと案外何の抵抗もなく、斉藤は俺の車へと乗り込んだ。倉庫方面へ車を走らせる。雨がぽつりぽつりと降り出し、ワイパーの一定的な音だけが車内に響く。斉藤は真っ直ぐ前を見つめている。話がある、とは言っていたが一向に口を開く気配はなかった。



「話があるのなら先にどうぞ」



痺れを切らしてそう斉藤に訊ねると、斉藤は苛立ちを抑え、低い声で訴えるように口を開いた。



「…カ、シラとは、ただの同級生じゃないですよね」



妙な切り口だった。



「……どういう意味ですか」



「カシラは内部に鼠がいる事を分かっていながら目を瞑ってる。あなたの本性を知りたくないと目を瞑ってる、そう言ってるんです。カシラのコネがあれば、あなたが警察の人間かなんてすぐに分かるのに、カシラはそれをしない。つまりあなたの嘘を暴きたくないと思ってる。……ただの同級生じゃない、そう、ですよね?」



赤澤が俺を本気で疑わない事に対して、斉藤は随分と苛立っているらしい。なら、もっと苛立ち、怒りを露わにすれば良い。だって何をしたところで赤澤は変わらない。いや、変われない。あいつは俺を殺せない。むざむざと俺に殺されるのを待つだけなのだから。もっと怒りを露わにして仲違いでもしてくれないかなぁ。



「そう疑うのなら本人に直接聞けば良いのでは? どういう関係ですか、って。あいつが同級生と言うのならただの同級生。あいつがカシラとチンピラと言うのならただのカシラとチンピラ。…それとも実は恋人です、なんて言った方が納得しますか」



その言葉に斉藤は分かりやすいくらいに反応した。嫌悪を示し、素直に動揺する。その反応に俺は引っ掛かり、あぁそうかと溜息を吐きそうになった。


こいつ、赤澤の麒麟を見てンだった。



「こんな男臭い世界にいるくせに大変ですね。しかも相手は傲慢で暴力的、自己中心的な赤澤だなんて。趣味悪いね。あんたの人を見る目は疑うなぁ」



「……っ」



斉藤の目の色がまた変わり、拳が震えているのが横目に見えて、俺はせせら笑う。



「おーっと殴らないで下さいよ。もう痛いのは勘弁。それに運転中ですから」



「あなたに、…カシラの何が分かると言うんですか。あなたとカシラはたかが学生時代の三年。あなたにあの人の何が…」



絞り出すように吐き出された言葉。悔しそうな顔だった。拳を握り、眉間に皺を寄せ、奥歯を噛み締め、その苦痛な感情は手に取るように分かる。


そう怖い顔をされてもなぁ。負け犬の遠吠えか。負け犬なら負け犬らしく、さっさと赤澤から離れてくれねぇかな。ついでに赤澤の事を裏切ってくれれば良いよ。そうすりゃぁ、あいつは完全に孤立する。後は地獄は真っ逆さま、落ちるだけ。俺はふっと笑ってしまう。



「分かりたくもない。俺はさ、あいつの首を絞めて殺してやろうと思ってるだけだから」



「は……? 本気で言ってるんですか…」



「俺があいつに向ける感情は純粋な殺意だよ」



そう、それだけ。殺意だけ。あいつに対する感情はただの復讐心、それだけ。……それだけ。



「あの首を絞めながら、最期の瞬間まであいつの瞳に映ってやろうかと。あいつが最期に見るのは自分が最も嫌悪した相手、憎かった相手。恨みながら、無念を抱き後悔しながら生き絶えれば良い」



そう煽ってやると斉藤の表情は、またみるみるうちに怒りを帯びてくるから面白い。



「……なーんてね。そう言ったらあんたはどうします? また俺を殴りますか。ふふ、俺達はただ腐れ縁なだけです。あんたとあんたの警察の友達みたいに、大人になっても甘い関係を築いているわけじゃないんでね」



そう切り出してみると斉藤はひくっと反応した。少し青ざめているようにも見える。へぇ。思ったよりも効果はあるらしい。



「…何を言って……」



動揺を隠せない斉藤に、俺はゆっくりと落ち着いた声で相手の事を話し始める。俺は知ってるよと、喉元に刃を突き付ける。



「緒原 葵、あんな強面なのに可愛い名前。昔は相当やんちゃしてたみたいですね。右眉の傷は学生の頃に? もしかして、あんたがつけたとか? この組対の友達、あんたにとって大切なんじゃないの? 違いますか?」



俺はそう言いながら、懐からあの写真を取り出して斉藤に渡す。斉藤は目に見えて青ざめ、絶句し、友人を脅しの種にされているこの状況を理解し、きっと俺の次の手を予想しているのだろう。その表情はみるみるうちに怒りへと変わっていく。



「こんなもの、どこで…」



声が微かに震えている。



「知り合いがたまたま、ね。目撃したんですって。ヤクザと刑事さんの秘密の関係。だからこのお友達が大切なら取引しませんか。もうその取引の内容は予想ついてます?」



「…あんたが俺に望むのは、カシラの首、なんじゃないンすか」




「お、正解。とは言ってもあいつを殺せだなんて言わないよ。たださ、赤澤を裏切ってくれません? あいつを裏切って、こっちについて下さい。赤澤が破滅するところ一緒に見ましょうよ。あいつの処遇については、俺が上と話します。話は簡単につくと思います。どいつもこいつも金と権力がほしいだけ。それに、悪い話ではないかと。あんたが好きな赤澤にはいずれ戻ってもらいます。この騒動が落ち着いた頃合いを見て、大人しくなったあいつを組に戻します。けど今は一旦、排除しないればならない。だから、ね、手を貸して下さい。じゃないと、その組対の友達にはもう会えないかもしれませんよ」



斉藤はどっちを取るのだろう。これで赤澤を裏切ってくれりゃぁ、万歳。赤澤から離れてくれりゃぁ、俺の労力も少しは…



「……ふざけんな」



けど斉藤は心底腹の立つ人間だった。くしゃっとその写真を握り潰すと、怒りを噛み殺しながらゆっくりと言葉を吐く。



「葵は、…あいつは危険な道を渡ってる事を理解しています。命を狙われる事も承知でしょう。あいつを狙いたいのなら狙えば良い。あいつはそう簡単に殺されるタマじゃない。あんたはあいつをダシに、俺を取り込めると踏んだのかもしれませんが見当違いです。俺にとってカシラは、この世で最も大切な人です。尊敬し、命を捧げた人です。カシラのためならこの命、どうなったって構わない。カシラを裏切る事だけは、絶対にしません」



……ま、そうよな。斉藤が本気で惚れてんのは赤澤だ。

参ったな。本当に厄介な存在で、自分でも驚くほど、この男に対して腹が立つ。



「ふーん、そう。なら、後悔しないで下さいね。お友達があなたの隣で職を失い、恨みを買ってある日、野垂れ死んだとしても、俺を恨まないで下さいよ」



斉藤はぎりりと奥歯を噛み締め、「あなたの話はこの陳腐な脅しでしょう? もう用がないなら降ります」と怒りをみせ、俺を煽る。俺は無言で車を路肩に停め、斉藤は俺の方を一切見ずに車を降りた。陳腐な脅し、ねぇ。アレに脅しは通用しない、か。脅しのネタが弱かったか。


さて、斉藤はどう動くのだろうか。


斉藤は何をしたって靡かないのだと分かった今、俺は俺で話を進めなければならない。赤澤を追い込むために強い手を打つ必要があった。そのため今日はとても忙しい。俺はひと仕事を済ませると、ある場所へと向かった。


向かった先は郊外の屋敷。荒木が用意した書類に再度目を通し、その人を訪ねた。事前に言われた通り裏口から入ると、その人は白髪混じりの髪を後ろで撫でつけ、鋭い目付きで俺を見下ろしていた。



「入れ」



そう招かれて俺は部屋の中へと入る。中には既に男がニ人、黒革のソファに座っていた。そのニ人を見た瞬間、俺はとうとうここまで来たかと、つい胸が躍って笑みを溢しそうになった。


だって相手は船木組の大幹部様。俺が取り込もうと、笑いかけるべき相手であり、俺が元いた世界へ戻るための重要な情報を持つ人間。


森鳳会会長、森 修。

野上組組長、野上 誠一。

そして俺を招いた葉山組組長、赤澤 蓮太郎。



「君が青木君、かね」



森会長はそう言って俺を見上げている。見た目はヤクザには見えない、恰幅の良い優しそうなお爺だ。ようやく接触できた。俺はあなたの情報が何よりも欲しい。八坂議員のバックには宗教団体が絡んでるって? 金はあんたの組からそこへ流れてるって? 知りたい事は山程ある。俺は森会長を見ながら「はい」と頷いた。



「彼、信用なるんですか」



それを見て野上組長が赤澤組長に尋ねる。この中で一番、曲者だろう男がこの野上である。病的な色の白さと線の細さが目立つ、賢く、疑り深く、隙のない男。荒木を以てしても、Xの情報収集力を以てしても、これといって情報が出ない男だった。そんな野上組長を見下ろしながら、俺は赤澤組長が答える前に口を開いた。



「信用して頂く他ありません。相馬組長が邪魔で、身動きのできないあなた方にとっては良い話しか持っていませんから」



だからさっさと俺を内側に入れろよ。そうすりゃぁ、あんたらは楽に死ねるだろうさ。



「うまい話ほど信用ならないものはないのでは?」



野上が口角を上げて目を細める。



「アハハハ、そうですね。うまい話には裏がある。あなた方のような経験豊富な極道の言葉は重いです」



「実際、そうなのでは? 何が目的ですか」



「裏はありません。ただ俺は金と情報が欲しいだけ。情報屋ですから。俺の言う事が正しく、従うべきか否か最終判断をするのはあなた方自身です。俺はね、野上組長。赤澤組長と話をさせて頂き、力になれると思ったまでです」



「力に、ね。ふーん」



やはり野上組長は俺の事を全く信用していない。信用する気もないと言った表情だった。けれどこの男を取り込まなければ、森を得る事はできない。



「俺はあなた方の欲しい情報を十分持ってると思いますよ?」



「それが相馬組長の情報、というわけですか。赤澤組長から少し話しは聞いています。しかし、あの相馬組長をどうやって落とすつもりですか」



「では、本題に入りましょうか」



俺は数枚の書類と写真を鞄から取り出した。そこにはこいつらが何よりも欲しかったであろう情報があった。



「情報は最大の武器です。なので俺の情報源に関しては教える事はできません。ただ、裏の取れた正確な情報ですのでご心配なく」



それをポンと3人の前にあるテーブルへ置きながら続ける。



「あの方、隠し事が多いみたいですね。それが表には全く出ない。でも隠し事はするもんじゃない。ましてや親にはね? うーんと昔、船木組長の右腕だった男、寺本 修也がある日突然警察に捕まり、刑務所で殺されました。赤澤組長と野上組長は、忘れる事は決して出来ない出来事ですよね?」



「これ……」



野上組長は眉間に深い溝を作り、その一枚の写真を凝視する。その写真は赤澤組長にとって、葉山組にとって、重要な一枚だった。


今から約30年ほど前、刑務所で寺本という男が殺された。荒木はそこに目をつけた。殺した男がどんな男だったのか徹底的に調べたらしい。寺本を殺した犯人は、ヤクザなら誰でも良かったと当時発言していたが、結果からするとそんなのは大嘘だった。


赤澤組長はずっと寺本は狙われて殺されたと主張していたが、否定し続けたのは相馬だった。相馬の言い分は、寺本を殺したその男は組関係の人間ではなく、寺本を殺す理由がないという事。組関係に関する知識なんて微塵もない事。ただヤクザに取り立てられ、金が返せず、首が回らなくなって犯罪に手を染めて刑務所に入った、という事実があった。そしてその取り立ての闇金のバックにはヤクザがいて、それが当時の葉山組だったのだ。


だからこそ寺本が殺された時、不可抗力とはいえ、葉山組への風当たりは強くなった。あいつを追い込まなければ犯罪に手を染めず、刑務所にも入らず、寺本が殺されなくて済んだ、そう相馬が騒ぎ立てたからだ。たらればの話を繰り返し、船木組長にも信用のあった相馬は、見事に葉山組の降格まで持ち込んだ。


しかしもし、寺本殺しは相馬によって仕組まれていたのだとしたら。


その写真は偶然撮れた産物だった。荒木の、いや、Xの情報収集力の恐ろしいところを目の当たりにした気がした。たった一枚の写真だった。都内の喫茶店、カップルが思い出にと撮ったであろう写真に、男がふたり背景に映り込んでいた。窓際の席にスーツを着ているヤクザ風な男と、貧相な格好の細身の男。


これが全てを引っくり返すのだ。



「スーツを着ている方は誰か分かりますよね? 相馬組長の右腕、矢端 秀明。そしてその正面に座るボロい服の男は誰か。調べたところ、寺本を殺した犯人と繋がりがありました。酒飲み友達、と言ったところでしょうか。しかもこの男、妙な所にも繋がりがありました。その繋がりとは寺本自身です。偶然でしょうか。どうして寺本とも犯人とも繋がる男と、矢端のふたりが写っているのでしょうね?」



この写真を見れば思うはず。相馬は寺本の情報をこのボロい服の男から収集し、そして金と引き換えに刑務所にいる友人に殺させたのではないか、と。それが真実か否か、俺にとってはどっちでも良い。


重要なのは、これで船木組に亀裂が入る事。そして森鳳会が野上組と共に葉山組のサポートに入る事。そうすれば俺にコネが出来て、森鳳会との距離を縮める事が出来る事。


それが目的なのだ。ただ、森鳳会と距離を縮めたいなどとは荒木には死んでもバレてはならないだろう。そこから全てが露呈してしまうかもしれないのだから。


そうなれば全ては終い。文字通り、終い、だ。野上組長は写真を眺めながら、眉間にきつく皺を寄せた。



「これを船木組長は既にご存知で?」



森会長は顎を撫でながらそう尋ねた。



「えぇ」



そう頷いたのは赤澤組長だった。



「へぇ、なるほど。だから私と赤澤組長が候補に上がったわけですか。……今、ようやく船木組長の考える事が読めてきました」



野上組長は青白い顔を上げ、赤澤組長を見る。



「あの時、うちの味方をしてくれたのはあんたの組だけだった。野上、あんたには恩を感じてる」



「恩だなんて大袈裟です。うちは葉山組長の代から世話になってますから。しかし、船木組長に葉山組と共に矢面に立ってもらいたいと言われ、若頭候補に選ばれたのが不思議でしたが、私が森鳳会と繋がり政治に顔が効くから、そして赤澤組長、あなたを裏切らないと踏んだから、という事だったんですね。そしてその展開を生み出した重要人物が、この彼、青木君という事でしょうか。…青木君、悪いが私は昔から疑い深い人間でね。この写真、どうやって手に入れたか説明して頂きたい」



信用する気はゼロ、俺の目論見すら薄々勘付かれているようで嫌になる。俺はわざとらしく「申し訳ありません」と困ったように頭を下げる。



「情報源をお伝えする事はできません」



野上組長は一切表情を崩さない。俺への疑念はひしひしと伝わった。



「野上組長、一旦は彼を信じてみるのは如何です?」



そう諭したのは森会長だった。その言葉に野上は困ったように眉を下げて笑った。



「赤澤組長が連れて来たのですから、全く信用していないわけではありませんよ。ただ、昔から新しい者にはつい厳しくなってしまう。赤澤組長、申し訳ない。気分を害されたら謝ります。せっかくの客人に失礼な態度を取ってしまい、申し訳ない」



野上という男は心底不気味だ。何を考えているのか一切読めず、こちらに上手く引き込めるのか算段が立たない。



「いや、最初から信じろというのも無理な話なのは分かってる。野上の信用を得るためにも、少し、この男の話をしよう」



赤澤組長はそう俺を見た。



「こいつはうちの組員になって間もないがよく働き、よく稼ぐ。そして何より情報に長けていて、その情報の価値は計り知れない」



「えぇ、そうみたいですね」



野上組長は俺を見た。だから俺はビジネススマイルのように口角を上げる。



「先程の寺本の件ですが、そもそも警察に彼の情報を垂れ込んだのは誰でしょう。当時の内部情報に詳しい人間に限られるはずです。俺はきっと、あなた方の役に立てるかと思います」



さぁ、ここからが本番。取引をしようと、俺は三人を見下ろした。だが野上組長は「へぇ」と不気味に微笑んでいた。



「しかし昔の事件を掘り返して、赤澤組長の味方をするは何故でしょう?」



「赤澤組長が次のトップに相応しいと思ったからです。本家若頭になって頂き、この組織をまとめて頂く。なるべき人になってほしいと思いました。それに、この情報は安くありません。買えるだけの金がある事も大前提。そして今後は、専属の情報屋として良い関係を築きたい」



「へぇ」



「その対価は金と情報。俺もタダで働くわけにはいきませんので」



「君を専属に、か。…うちには抱える情報屋がいるがね、しかし、そうだなぁ…君ほど優秀ではないかもしれないが、君にうちの情報を晒す、というのはリスクが大きいな。君にとってもリスクを背負う事になると思うがね、そこはどう思ってる?」



そう尋ねたのは森会長だった。



「リスクは承知の上です。情報を扱う身として、ひとつの情報で命が取られる事も理解しています。その上で、専属を検討してほしい、と。欲しい情報があれば、ある程度は何故その情報が必要かも教えて頂く事が条件です。でも安心してください。あなた方の不利益になる事は決してしません」



「専属の情報屋、不利益にならない…。君の情報は普通じゃぁ手に入らないものと見た。となると、君はかなり高級取りな気がするね。今回の件の対価は何かね」



森会長は難しそうに眉間に皺を寄せた。



「報酬は、葉山組の若頭と若頭補佐の首。つまり、あのふたりを組から追い出すこと」



「ほぉ、それは、なんと…」



森会長の目が見開かれ、俺は内心ほくそ笑んだ。勝ちを確信したようなものだから。



「ふたりの座と引き換えに、赤澤組長には本家若頭の座を用意させて頂きました。そしてそれは森会長、あなたとは敵対したくないという意思表示です。赤澤組長をトップにする為にはあなたのお力も必要なんです。だからこそ、赤澤組長に実の子の首を切る決断をもして頂きました」



「ほーう。赤澤組長、若頭と補佐を失くすのは痛手かと思っていましたが、宜しいのですか」



「えぇ」



森会長の反応は良かった。抗議になるほど発展したシノギの件で、あの二人の存在は森会長にとって邪魔でしかないはずだ。野上と一緒に葉山組を支える事になったとしても、もし二人がまだ組に残るようであれば、森会長が葉山組を切る可能性がある。もとは敵対組織だから、理由なんて簡単に付けて切り捨てる事も考えられるのだ。だからこそ二人を外す必要があった。


それは森会長に媚を売る為、森鳳会を内側に入れる為。そして俺にとって森鳳会との接点を増やし、その距離を縮める為だった。赤澤を追い込むには森会長の存在は必須だった。森会長も良い反応を示し、俺の口角は仕上げに取り掛かれるなと余裕にもつい上がってしまう。


しかし野上組長は依然として表情が変わらない。この条件をどう思っているのか、よく、読めない。こんなところで頓挫したくないが…そう思いながら、赤澤組長に視線を戻すと、少し違和感のある表情をしていた。どこか浮かないような、何か引っ掛かるような表情だ。


まさか今になって話しはなかった事に、なんて言い出したりしないよな?


この話は今出た話じゃない。この人には前もって話していた。その時は分かったと納得していたはずだが…。何か、問題でも起きたろうかと赤澤組長を見ながらも話を進める。


しかし赤澤組長から特に何を言うわけでもなく、相馬組長の失脚を餌に、この三組に手を組ませ、赤澤と斉藤の首を森会長に引き渡す事で話は纏まる。


話し合いは少し長引いたが、特段問題は起きなかった。そうして問題が起きたのは、野上組長と森会長が屋敷を出た後だった。



「邦仁に対する破門状は一旦待ってもらいたい」



そう赤澤組長が言い出したのだ。あぁ、勘弁してくれと、俺は頭が痛くなった。



「今更自分の子には優しくするつもりですか? カシラを破門にするからこそ、森会長だって葉山組へ今後は取り計らい、本家若頭の後押しをすると言ってくれたんですよ。罪を犯した子を切れるからこそ、評価されたという事を分かってますか。それを今更…」



「首を切るのは斉藤だけで良いはずだろう。お前さんだって分かってるはずだ。今、邦仁を破門にしてみろ。下がついてこなくなるぞ。この大事な時にだ。それでも切ると言うのなら情報だの何だの使って、下が離れない策を打ち出してからにしてくれ」



勘弁してくれ。これだからヤクザってのは…。



「しかし……」



その時、屋敷の外で騒がしい声が聞こえた。その声の主が誰か俺はすぐに分かった。赤澤組長を見ると、「隣の部屋にいてくれ。話はまた後だ」そう低い声で言うと、部屋を出た。


俺は仕方なく襖を開けて隣の和室に入り、外を眺める。しばらくして隣の部屋から赤澤の声が聞こえた。



「単刀直入に聞く。斉藤と俺を破門にするって話を聞いたが本当か」



赤澤は苛立っていた。それもそうかと、俺はぼうっと外を眺めながら考えていた。



「斉藤の破門は免れないがお前の処分はまだ確定じゃない。が、可能性は高いな」



「斉藤はやってない。やってないやつを破門にするなんざどういうつもりだ」



「やってない証拠はどこにある?」



「俺は斉藤がどんな男かを知ってる。親父だって分かるだろ。あいつは組を裏切るような男じゃない」



嫌気がさした。赤澤が必死になって斉藤を守る事に対して、そして赤澤組長が今になって赤澤を破門にしないと言い出したことに対して。苛立ちながらも俺は聞き耳を立てていた。



「話にならんな」



「…今、斉藤を失くす事は組にとっては痛手になるぞ」



「組のために文句も言わず、組を支えて来た男がある日突然組を裏切る。そんな男を何人も知ってる。それでも斉藤はやってないと言い切れるのか?」



なるほど。状況が読めた。


今になって組長が赤澤を破門にしたくない理由は、斉藤が赤澤を残せと泣きついたのかもしれない。そんでお涙頂戴話のように赤澤組長が絆され、待ったをかけた。どうせ斉藤は自分が破門になる事は構わない、と頭を下げたのだろう。破門になり、森鳳会のチンピラ共に殺されるのも仕方がない、でもカシラだけは破門にしてはならないと、組に必要な人だと、ご立派な事をつらつらと述べたに違いない。


あの男ならそうまでして赤澤を守るつもりだろうな。斉藤はこんな状況になってもまだ俺の邪魔をするらしい。腹が立ち、俺はあいつをどう始末してやろうかと考えては怒りを鎮めようと必死だった。


しかし俺の怒りを助長させるように、赤澤の悔しそうな声が響いた。



「切田が刺された理由は俺にある。斉藤はそれに関わっていない。だから斉藤が切田を刺したとは思えない。そう言ったら、どうする」



「お前がどう関わってる?」



「うちの組の情報を、俺の案件を、森鳳会に流す裏切り者がいる。親父がずっと否定し続けてる事だ」



「またその話か」



「俺が森鳳会の件に首を突っ込んでるんじゃなく…」



べらべらと、赤澤は必死になって言葉を吐き出している。いかに斉藤が白いか、裏切らないかを、父親を説得しようと悔しそうに言葉を並べている。青木が犯人だ、という決定的な事は言えないくせに。


長い会話を聞きながら、互いに庇い合うなんてなんて美しい話なのだろうかと、俺はつい心の中で舌打ちをする。赤澤はもともと、斉藤が黒だったら組諸共心中する気だった。それほど斉藤を信頼し、斉藤を買っているのだ。


それはただ信頼している部下だから、と言う理由だけだろうか。本当は違う理由あんじゃねぇの。


赤澤は斉藤を庇おうと必死で、最終的に組長は結論を出さなかった。いや、俺が横で聞いていると分かっているから出せなかったのだろう。赤澤は埒が明かないと、しばらくして出て行った。



「聞いてたろ。これでも二人を破門にするのか」



俺は壁に寄りかかり、赤澤組長を見上げて頷いた。



「えぇ。カシラも破門にします。ほとぼりが冷めたら戻します。…俺、最初に言いましたよね? 相馬組長を失脚させる代わりに、斉藤とカシラを追い出し、俺を若頭の代行として暫くその座に置いてほしいと。カシラが大人しくなったら俺は用済みです。その時にまた若頭の座を受け渡します。でも、それまでは消えて頂かないと。この組にはもっと大きくなって頂きたいので、その為の小さな犠牲ですよ、組長」



「……」



どいつも、こいつも。勘弁してくれ。



「約束は守って頂きますよ。守れないのなら、どうなるか分かりますよね?」



組長の怪訝な顔を見ながら、俺はうんと伸びをした。「まぁ、分かっているとは思いますが。宜しくお願いしますね」そう付け足して、その日、俺は屋敷を後にした。


そのまま事務所には戻らず何件か新崎に頼まれていた仕事を片し、新崎に報告を入れてはまた逃げるように、事務所を避けるように街を歩く。集金、取り立て、ケツモチの交渉、そんな名目で事務所には寄らなかった。


そうして夜、23時。新崎と共にケツモチしていた店、Club Linへと足を運んだ。そこのママがどうやら面倒なのに絡まれて困っていると報告を受け、新崎は鼻の下を伸ばしながら店へと顔を出す。


夜の繁華街は相変わらず騒がしい程に賑わっていた。高級クラブがいくつも入るその一等地のビルに入り、Club Linの重厚なドアを開ける。ボーイがひとり出迎え、新崎の顔を見るなり、「お呼びします」と一礼して奥へと消えた。



「繁盛してんなぁ」



新崎が顎を撫で、店内の賑わいにそう呟いた。



「いらっしゃいませ、新崎さん、青木さん。ってあらあら、青木さん、酷い怪我ね」



そのクラブのママ、律子さんが俺の顔を見るなり、大きな目を更に大きくして驚いている。



「こいつ、イケメンになったでしょー? アハハハ、笑って良いっすよ。これでも少し、腫れ引いた方なんすて」



「まぁ、大丈夫?」



「はい」



なら良いけれど、痛そうね、と律子さんは心配そうに顔を歪める。お酒は控えた方がいいかしら、と独り言のように呟きながら俺達をカウンター席の方へと案内した。



「今日はとても混んでいて、ごめんなさいね」



「良い事じゃないっスか。俺達はホント、どこでも構わないんで」



そう新崎が頷く。



「ではカウンター席の、特別なお客様のお隣に、どうぞ」



そう言って案内されたカウンター席にはひとりの男がすでに座っていた。ウィスキーを片手に俺達を見ると、「おう」と笑っている。


男を見た瞬間、俺の足は何かに掴まれたように一歩も踏み出せなくなった。体が強張り、声も出ない。緊張に思考は支配され、俺はただただそれを凝視する。



「カシラじゃないすか! え、どうしたんすか!」



「偶然だな」



怖くなった。途端に、心臓が止まるかと思うほどの悪寒が全身を支配する。背筋が凍りつき、寒気すら感じる。俺はソレから視線を移してゆっくりと男の顔を見る。



「え、……つか、カシラ、それ…」



新崎も気付いて眉間に皺を寄せ、絶句する。



「律子さんから話は軽く聞いたよ。嫌がらせ受けてるんだって。店への被害もあるが、律子さん自身にも。ストーカーだってよ、怖いね。だからさ、新崎、男を見せるチャンスじゃねぇか」



「え、あ、…はい、」



赤澤は何事もないように振る舞い、それに新崎は戸惑った。そりゃそうだ。あまりにも突然すぎる。何も知らない新崎にしてみれば、本当に突然で、訳が分からないだろう。



「そうなの。呼び出しておいてごめんなさいね。まさか邦仁さんが来ると思ってなかったから。ふふ、先に話しちゃったわ。でも、新崎さんが力になってくれると言うから、お待ちしてましたの。ちょっとご相談、乗ってくださる?」



「はい、もちろんす……」



新崎は戸惑いながらも追求する事をやめた。怪訝な顔をしながら律子さんに向き直り、何をどうするべきかと無い頭で考えているらしい。訳を聞きたい。そう思った。誰のためにそんなヤクザらしい事してんの。なぁ。そんな方法しか、なかったのかよ。



「水割りで良いかしら?」



「は、はい…。カシラ、…」



「何でもねぇよ」



新崎の疑問は赤澤に制され、ぐっと口を噤む。俺はまだ少し離れたところから動けずに、ただ、足をすくめていた。



「あら、青木さんは座らないの?」



斉藤のために、そこまでしたのだろう。考えれば考えるほど、何故、が思考を支配する。その疑問はゆるりと斉藤に対する苛立ちに変わり、どうしようもない。キリキリと心臓が痛むようで脈が速くなっていく。


冷静に。冷静に……。俺にとったら喜ぶべき事態だろ。大笑いしそうになるくらい、ご褒美のような事態だろ。


……なのに、どうしてだよ。



「青木さん…?」



どうして、怖いと思っちまってンだよ。悔しいと。苦しいと。どうして………。


律子さんの声が今の俺には聞こえず、それに気付いた赤澤はふっと笑うと、万札をポンとカウンターに置き、席を立った。



「新崎、青木を借りるが良いか?」



「あ、はい、もう今日は終いなんで、いいすけど…」



「そうか。じゃぁ、悪いな。律子さんも、また。新崎はこう見えて男気ありますから、用心棒としてこき使ってやってください」



「あら、こき使うだなんて! うふふ、じゃぁちょっとお店終わるまで、いてもらえると助かるんだけど」



「俺でよけりゃぁいます…」



「あ、でもあまり飲ませないで下さい。そいつ、酔うと面倒だから」



「そうなの? 分かったわ。じゃぁ、邦仁さん、またいらして下さいましね。青木さんも、また。ありがとうございました」



頭を下げる律子さんを背中に、赤澤はスタスタと俺の方へ向かって歩いて来る。俺の目の前に立つと、「出よう」と顎で出入口をさす。俺は赤澤の後を追うように店を出た。


車は涼司が運転して来たのかと思ったが違った。どうやら用心棒も側近も付けず、ひとりで来たらしい。俺がお前の命狙ってるって気付いてねぇの? きっちり依頼が入ったからには俺は仕事をするよ。そうしないと、俺の立場が危うくなるから。きっちりお前を地獄に突き落としてやるよ…。そう考えている男を横に、お前は何故そこまで無用心でいられるのだろう。俺と二人きりの状況を、何故そう簡単に作ってしまうんだろう。なんで警戒しないのかな。しばらく歩き、駐車場に停めてある赤澤の車に乗り込んだ。



「昨日、何処をほっつき歩いてた」



第一声がそれだった。



「何処でも良いだろ」



「家も事務所も避けてるよな?」



「避けてるわけじゃない。今、忙しいだけ」



「忙しい、ね」



「で、何。話したい事があるから俺を連れ出したンだろ」



赤澤は俺を見ると、懐から何か小さな黒い物を取り出した。見覚えのあるそれを俺に渡した。



「あんたが仕掛けたんだろ」



「……」



いつバレたろうか。どうしてバレたろうか。



「あんたが森鳳会にリークしてるのは分かってる。松葉を脅してるのも。切田を刺したのも。全部、あんたなんだろ」



そうよな、これは確たる証拠にできるよな。



「違う、って言ったところでもう信じないって顔だね」



「これ、発信機が埋め込まれてる。そうだな?」



今度はそう言って俺が渡したシルバーリングを俺に手渡した。



「へぇ」



そうか、これもついにバレたんだ。



「言い訳しろよ」



赤澤の低い声を聞きながら、俺は盗聴器と発信機、ふたつを握りながら溜息を吐いた。それは嘘が露呈した事への落胆や後悔じゃない。こいつが斉藤を真っ白だと確信した事に対しての溜息だ。


そしてこいつが何がなんでも斉藤を守りたいと、行動に出た事に対する苛立ちだ。



「盗聴器は知らない。指輪の発信機は仕方なく。だってほら、葉山組の若頭がひとりで行動して襲われないように。攫われても、すぐに助けに行けるように。何処へ行ってもすぐ分かるように。そのための発信機だよ。だって俺、お前の事、心底心配だからさ。愛してる人の行動は常に把握していたいじゃない」



嘘に塗り固められた感情は何だろう。汚れきった憎悪に、今すぐにでもこいつを組み敷き、目の前で斉藤を殺してやろうかと頭の片隅で描いている。俺は心の中で悪態をついた。赤澤が斉藤の為に動いた事が相当効いているらしい。



「なぁ青木、これはあんたの復讐なんだろ。もしそうなら標的は俺だけで十分だろ」



赤澤の眉間に皺が寄り、苦しそうに言葉を吐く。頼むから、斉藤にはこれ以上手を出さないでくれ。そう今にも頭を下げそうだった。あいつの為なら何だってするから、そう言ってしまうんじゃないかと思った。俺は自分の感情を隠すように口角を上げ、笑ってみせる。



「赤澤って、馬鹿だよなぁ。もう手遅れなの分からない?」



「……手遅れって何だよ」



「俺、言ったよな? お前にはしっかり仕事してもらう必要があるってさ」



「は…?」



「俺はさ、まだまだやる事があるから。ここで終いにはできないのよ。俺を止めたいのなら、やるべき事はひとつしかないよな? それが出来ないのなら俺を止める事は不可能。そんな覚悟もないお前に、俺を問い詰めることはできない」



そっと赤澤の頬に手を伸ばし、その瞳を覗いた。



「復讐だなんて青臭い事、俺は思っちゃいないよ」



そう言って微笑み、俺は車を出ようとドアに手を掛けた。


けれどその瞬間、それを引き止めるように赤澤の手が伸びて俺の腕を掴んだ。その力は強く、俺は一瞬、ほんの一瞬だけ、流されるって事はこういう事なのかなと考えた。



「…待てよ。やるべき事がまだあるなら、あんたの帰るべき場所は俺ンとこなんじゃねぇのか」



本当に何もかもが嫌になった。



「嘘をつくなら最後までその嘘を突き通せよ。それくらいしろよ」



深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。余裕に表情を緩め、わざとらしく口角を上げてみせる。



「もう用済みだから、嘘を突き通す必要もないよな?」



俺は冷静でいたい。主導権は握らせたくない。



「なら、それなら、あんたの本音が聞きたい」



俺はいつだって本音を隠していたい。



「あんたの目的は何か、あんたを動かしているのは何か、あんたの事を…」



「うるさい!」



こいつといると何もかもが狂っていく。こんなはずじゃなかったのに。もっと、ちゃんと、俺なら出来るはずなのに。



「……手、離してくれ」



「離せばまた消えるだろ」



「お前が今更謝ろうが、何をしようが、俺のやるべき事は変わらない。だからその手を離せ」



そう言ってやると、赤澤の手に力がこもった。離さない、という意思表示なのだろう。ぐっと強く握られ、俺は眉間に皺を寄せて赤澤を見た。



「赤…」



「絆されんのが怖いのか」



やけに真剣な目だった。俺はその目が確かに、怖かった。そうだな。きっと、絆されるって事が何よりも怖いのだ。自分が長年築いてきたものを一瞬にして崩壊させるその感情が、何よりも。俺は掴まれていた腕を半ば強引に振り解き、逃げるようにドアに手を掛けてドアを開けた。後ろで赤澤が低い声で俺に訴えた。



「あんたの目的は俺を葬り去る事なんじゃねぇのか。これ以上、周りを巻き込むのはよしてくれ」



こうなってしまえば、もう笑うしかない。



「なら、まずは斉藤を始末しようか。お前の目の前で、大事な補佐役を」



人は誰しも感情的になってしまえば、素の自分を表に出してしまうもの。だから優位に立つのはいつも俺だ。お前じゃない。俺、だ。



「あいつを、あんたと俺の関係に巻き込む必要ねぇだろ」



殴るかと思ったのに、あの頃のように、煽ればまた俺を殴るのかと。なのに、拍子抜けしてしまった。赤澤はやけに冷静で、落ち着いた声で、俺を諭すように俺を止めようとする。それほど斉藤が大事なのだろう。赤澤の信用はもう得られない。



「…お前と俺の関係、か。反吐が出そうだな」



「青木、また消えんのか」



お前が、よく言うよ。



「勘弁してくれ…」



仕事を全うさせてくれ。もう、勘弁してくれ。



「あんたは俺から離れられンのか。復讐、まだ終えてないだろうが。…なぁ、青木。帰る場所、間違えンじゃねぇぞ」



俺は冷静を取り戻そうと、軽く深呼吸をした。大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせ、揶揄うように口角を上げる。



「ふふ、なんてな、冗談だよ。全部、嘘。お前は何か勘違いしてるよ。俺はね、お前を苦しめるつもりは微塵もないよ? だって、お前のことは心底愛してるから」



怪訝な顔を見せる赤澤を見下ろす。お前は今、何を考えているのかな。俺に嘘を吐き続けてほしいんだろ? お前のほしい嘘はコレだろ? 窮屈で有象無象の嘘を永遠と吐いてほしいのなら吐いてやるよ。


俺がお前を殺す、その瞬間まで。



「愛してるよ、赤澤」



一歩、車内に踏み込んでシートに片膝を乗せる。ギシッとシートが軋み、赤澤の間抜けな顔を見下ろしながら、そっと唇を甘噛みする。ゆるりと舌を這わせ、歯列をなぞると唾液が溢れた。赤澤の呼吸の乱れを肌で感じながら更に深く貪って、そっと唇を離す。



「俺はね、ずっとお前の側にいたいよ」



けれど嘘に紛れた本音は、あまりにも胡散臭く、赤澤は気付かない。



「………あんた、何を考えてんだ」



「お前の事だけを考えてる。今も昔も、これからも」



そう言って俺は身を引いた。ドアを閉めようと手を掛けると、赤澤は咄嗟に声を張る。



「何があっても、今日は帰って来い」



「気が向いたらね」



「帰って来い。嘘は最後まで突き通すンだろ」



嫌な感情に苛まれては苦しくなる。



「分かったよ。心配しなくても、ちゃーんと帰るから。今日は赤澤が飯作って待ってて」



なぁ、赤澤。お前こそ、何を考えてんの。お前は俺とどうなりたいの。お前、俺に殺されるの? こうなるべきじゃない、自由にならないと、そう赤澤の側から早く離れたかった。俺はドアを閉めて舌打ちを鳴らし、その場を足早に去った。

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