第6話 イレブン・バン・バレット ― 残ったもの


 鉄の箱の中での戦いから早一か月。


 しっかりと私の口座に支払われていたお金を使って、愛華の手術は行われた。

 手術は無事成功。経過観察も問題なく、ほどなくして喋れるまでに回復した。学校に復帰するにはまだ時間がかかりそうだけど、ひとまずは安心だ。


「愛華~!」


「あ、千棘。まったくも~、私のこと好きすぎかよ~!」


 そして私は、あれから毎日、愛華のお見舞いに来ていた。

 病院の受付を抜けてエレベーターに乗って、病棟を歩いて病室にたどり着く。そこで愛華の顔を見るたびに、私はあの日のことを思い出す。


 鉄の箱の中で繰り広げられた戦い。

 敵になることすらできなかった、最強との遊びのことを。


「……なんかさー、千棘。雰囲気変わった?」


「そ、そうかな……」


 ライフゲームのことは、愛華には言ってない。

 それ以前に、愛華の手術のための200万円を私が用意したことも、愛華のお母さんに頼み込んで秘密にしてもらってる。


 でも、きっと。どこかで気づいているんだろうな。

 愛華は少し、勘がいいから。


「うんうん。なんだろう。こう、悶々としてるっていうかさー……恋する乙女って感じ?」


「……」


 なんか違った。

 恋する乙女って……。


 ……あ。


「……」


「あ、その顔~……さては心当たりがあるな千棘~」


 心当たりというか。

 恋する乙女というか。


「気になってる人は……いる、けど……」


「マジ!?」


 ぴょんと飛び跳ねるように愛華が驚く。そんなオーバーリアクションをするから、まだ閉じ切ってない傷が開きそうになってすごい痛そうに愛華が呻いた。馬鹿かな? 私も人のこと言えないけど。


「……ねぇ、愛華」


「なにかなにかな千棘ちゃぁん。お姉さんに何でも話してみなさいな~」


「おっさんくさいよ愛華」


 にやにやと下卑た顔で私の話に乗ってくる愛華。まあ、私も人のこういう話にはそんな風にしてしまうと思う。けど、自分のこととなるとちょっと恥ずかしい。


「えっとね……えーっと……ギャンブラーってさ――」


「――絶対やめた方がいいよ千棘。絶対! ぜぇったぁあああい!! 悪い男でしょそいつ!」


「いや、ちが、そういうことじゃなくてね!」


 選ぶ言葉を間違えた。ギャンブラーって、確かに聞こえはかなり悪い。だから、気を取り直して言い直す。


「えとね。自分が死ぬかもしれないのにさ、私のことを助けてくれた人がいて……」


「……さっきのギャンブラーぁ? マッチポンプとかじゃなくて?」


「あー……そういう面もあったかもしれないけど……悪い人じゃ、なかったよ」


 いや、悪い人なのかも。

 あんなゲームをしてるんだ。

 私のことは殺さなかったけど、もしかしたらたくさんの人を殺してるかもしれない。


「うん。怖くて、何考えてるかわからなくて、こっちのことを見透かしてるみたいで、全然勝てる気がしなかったけど……少しだけかっこよかったんだよね」


「悪い男に引っかかってるとかじゃなくて?」


「否定できないからやめて!」


 ……でも、確かに。


 悪い男に引っかかってるだけかもしれない。

 けど、なんだか少し違う気がする。


 恋愛とかじゃなくて。

 これは。


「興味がある、んだと思う」


「興味ー? それってどういう興味さ」


「なんというか……その人が、今後何をするんだろうって感じ? ほら、挑戦する人がいるとして、挑戦し続けた先に何かを成し遂げるとして」


 興味がある。


 私は、その人が向かう先に興味がある。


「その人がどんな未来に行くのかに、興味がある……のかな?」


 いや、違う。

 そんな生易しいものじゃない。

 私のこれは。

 きっともっと違う。


 例えば、そう。

 あの最強の人は、どんな風に死ぬのかな。


 もしも。

 もしもの話だけど。


「それを恋っていうんだぜ千棘ちゃぁん!」


「えぇ!? こ、これが、恋……!?」


 もしも私に殺されたとき、あの人はなんて言うんだろう。





 デスゲームの鈴木さんという人がいます。


 百戦錬磨の常勝無敗。誰も敵わない最強の人。


 そして今、私が殺してみたい人。


 それが、鈴木さんです。 

 

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デスゲームの鈴木さん @redpig02910

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