第12話「こっそり秘密の長電話」

 10円を公衆電話に投入する。


『その子は、私と何もかも違うの! 私はみんなと仲良くしたほうが楽しいと思うけど、その子はすっごく嫌がって……ちょっと喧嘩になって……』


「人付き合いが苦手な子もいますね」


『そうなの!?』


 受話器の先で驚いた大きな声だ。


「愛園さん……いるんですよ、独りのほうが気楽て人はいるんです。話したり、相手のことを考えたり、自分の行動を合わせなきゃと言うのが苦手な人です」


『つまらなくない?』


「そういう人には楽しくない人と一緒にいることが苦しいということもあるんですよ、愛園さん」


『楽しくない……』


 ちょっと愛園さんトーンダウン。


 嫌な相手だと思われてたのは間違いないかもだしな。潮さんは、愛園さんとちょっと性格が違って合わなかったか。そういうこともある。


 魔法少女同士の不仲ね。


 そういうのは魔法少女を斡旋したポポタの仕事なのではないのかな。何やってんだあの畜生ヌイグルミ。


 仲良くない魔法少女でディープソング団のビッグシャチと戦うのは危なさすぎる。愛園さんと潮さん、2人が協力して強すぎるという天井は無い。


 強ければ強いほど良い。


 だが……愛園さんと潮さんは、難しいな。愛園さんはぶっちゃければバカみたいの距離感がバグってる。きっと同級生の男子の恋心をもてあそぶタイプだ。ボディタッチもスキンシップもある。


 対して潮さんは、ミステリアス系だな。寡黙静かで人とは関わりを避ける。人間嫌いというわけではないのだろうが、無思慮に踏み込んでくる相手が好きにはなれないのかもしれない。あるいは愛園さんが、潮さんの地雷を踏んだとかもありえる。


 そんなことより〜だとか、こっちの方が楽しいからと趣味を邪魔されるとか……愛園さんだと、ありえるんだよな……。


「愛園さんは人と話すとき深呼吸です」


『どういう意味なんですおじさん!?』


「愛園さんたまにしんどいときが……」


『しんどい!?』


「リアクションが大きいというか」


『大きいかな!? でも海外ドラマ見てたらこんな感じな気がするんだけど。ドラマはみんなそうだよ! えぇ!? みたいな感じで漫画より驚いてるもん、顔芸並みにするのが普通じゃないの!』


「普通じゃないんですねぇ」


『誰も教えてくれなかった……』


「悪いことじゃないですから。ですが、潮さんにはちょっぴり、嫌だったかもしれませんね」


『そうなんだ……』


「潮さんに訊かないとわからないですけど、今、すぐ、電話をかけて聞こうとはしないでください」


『うッ!?』


「深呼吸です」


 受話器先で息を吸って吐かれた。


 ちょっと耳がこそばゆいものだ。


『うん。わかった。おじさん、おじさん』


「潮さん仲良し作戦に目処は?」


『たった!!!!!!!!!!』


 愛園さんが大声を出す気がしていたので受話器を離していた。鼓膜は無事だ。彼女の声はデカい。


 それから愛園さんは不安が抜けてから、いつものように大量のよもやまな話を繰り広げた。10円タワーが崩れていく。


『あッ、おじさんの今いる場所て、もしかして兄さんが行ってる場所と近いかもです。バカなので補修の山送りにされてるんですよ!』


「アキラくんには会ったよ」


『え!?』


 愛園さんは何を驚いているのか、そのまま言葉を無くしていた。しばらくして電話が切れた。


 なんだったんだ?


 あッ、そうか!!


 ポポタが魔法少女の出動を伝えに来たのかもしれない。深夜だがありえない話ではないだろう。受話器を戻した。


 想像より短い長電話だったな。


 目が覚めてしまった。


 少し夜風にあたろう。


 外には出られないな。


 ラウンジで体を冷まして……。


 その時、足裏に揺れを感じた。


「あー……」


 地震ではない。


 子供が起きているには深夜過ぎるなかで、山向こうに極光がほとばしる──ディープソング団の怪人だ。魔法少女が寝ている夜に現れたのだろう。


 良い子は寝ている時間だ。


 どんな考えかはわからない。


 だが今日は深夜に出てきた。


 半魚人が竜巻に攫われた魚のように、雨と一緒に降り注ぐ。悪い事態があるとすれば、その爆心地がちょうどお隣さんでアキラくんのいる林間学校なことだ。


 忍がいた。


 空が割れた。


 雲を引き裂いた。


 パルス照射されたビームは雨に乱反射してエネルギーが低下しながらも山腹に突き立つのが光って見えた。


「せ……戦争でも始まったかな……?」


 たぶん『忍術』だ。


 対地衛星兵器を使ったのだろう。


 いや忍術としても何やってんだ?


 雷鳴……砲声が、鳴り響いていた。


 ド派手な登場とド派手にやってる。


 ざわざわと館内が騒がしくなった。


 そりゃ目を覚ます、そりゃ驚くよ。


 山向こうで『戦争』のような光が点滅していたけど……移動してる。戦場が動いてるんだ。


 空中戦だ。


 速い……。


 戦闘機や兵器に転生したか。


 守護忍にしては派手だねぇ。


「町に向かってる……すみません! 今日のお泊まりはやめて帰らせていただきます!!」


 マジで何が起きたんだよ。


 まあ普通のおじさんは何もできない。


 あたふたおっちら山登りした頃には、全部終了していたわけだな。魔法少女とも忍とも関わったことはないしな。


 で、道中でやっぱり見つけた。


 数km先の空で撃墜魔法少女。


「セラムー、大丈夫かい?」


「だ、大丈夫ですお兄さん!!」


 セラムーが撃墜されていた。


 まだ着陸はしていない。


 木に引っ掛かりぶら下がっている。


「セラムーのほうが心配だね……」


 宙ぶらりんしていた。


 全身のスーツはぼろぼろだが、痛々しいという肌が切れた出血はない。スーツが破れた程度だ。


 パンツ丸見えだが……。


 真っ赤でレースの高級パンツ。


 セラムーの童顔可愛い系と解釈違いかもだ。まったく美しい曲げ率が究極的に小さい曲線、黄金的胸のラインにも真っ赤なブラジャーである。


 まあそれはいい。


「受け止めるから飛んで──」


「──行きますから受け止めてー!」


 おっと。


 木にぶら下がっていた子猫のようにセラムーがバリバリと木の枝を落としながら……落ちてくる。


 キャッチ成功。


 ちょっと腰にきたか?


 機能に支障なし。


 活動を継続する。


「大丈夫ですか?」


「えへへ。信じてましたから!」


 と、セラムーはサムズアップ。立てた親指、はにかみな微笑み。タフな少女だな、魔法少女というものは。


 だが俺が見ていてはダメだろう。


 魔法少女は神秘の存在だ。


 天然記念物とかペンギンくらい、関わろうとしては何かしらを歪めてしまうものだ。さて帰ろう。セラムーの無事も確認できた。


 半魚人や忍も生きてれば死んでないだろ。


「さて帰りましょうか」


 フィッシュタウンの灯りが見える。


 町はすっかり静けさに帰っていた。


 少なくとも、そう見えたのだ。

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そうです俺が無敵の人です〜普通の生活には魔法少女・忍者・巨大ロボが含まれます〜 RAMネコ @RAMneko1

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