第11話「ドキドキ!林間学校の夜」
死ぬほど怖いんだが。
バイト終わりの、例年と変わらない夕飯サービスを食べ終えて夜だ。下界は遠いので1泊するのだが……。
高山なので霧が出てきた。
濃霧もいつもどおりだ。
だが霧の中から形状し難い声が聞こえる。
「ツキノワグマかな?」
ラウンジに集まるバイト仲間達が、晴れていれば見晴らしの良い展望の窓夜に目をこらす。硝子窓に写る自分が見えるばかりで黒い壁がそびえているようだ。
「なんだか気味が悪いわ」
バイト仲間がそんなことを言う。
嫌な鳴き声は腹から揺さぶられる声で、鳥でも猫でも無さそうだ。何がいるのだろう?
少し先にはアキラくんや忍のいる林間学校がある。夜な夜な抜け出していなければ良いのだけれどね。
今夜の山は何かおかしい。
妖怪とか忍が出そうだよ。
魔法少女と忍は確認した。
クロスオーバーだよ、クロス。
創作界隈では2作以上の作品のコラボくらいの意味で、3作以上を組み合わせると多重クロスオーバーと呼ばれていたりする。
ならば同じ世界観で、まったく違うもの同士が出逢ったらどうなるのだろうか。こうなるのである。魔法少女と忍。アダルトワールドとキッズワールドが邂逅した。
大変なことにならなきゃいいんだけど。
魔法少女は夜に活動ないから大丈夫か。
いや、俺が昔見た魔法少女アニメだと小学生が夜の町に駆り出していたぞ。魔法少女と忍が衝突するかもしれない。
忍はほぼ妖怪だしな。
善VS善!
悪VS悪!
見ている分には面白い。
だが超音速で忍と魔法少女が飛び交い、流れ弾で岩が塵芥になるようだとか、最低戦力の雑魚モブだってナイフで主力戦車の正面装甲を斬り裂き戦車砲のAPFSDSを背中で見て躱すような場所に、普通のおっさんはいたくない。
「あっ、雨だ……」
窓硝子に水滴が当たり始めた。
そういえば天気予報でも雨だ。
今夜は、降るかもしれないな。
ラウンジから人が消えていく。
退屈だし部屋に帰ったのだろう。
俺も部屋へと戻ろうかな……?
ホラー映画みたいで不気味だ。
しっかしアキラくん達は、夏休みに学友と一緒に勉強か。山で修行か更生みたいな生活はともかく、社会人には無いようなイベントじゃないの。
少なくとも俺にはないな。
今頃は、こっそり部屋を抜け出して、女の子の部屋あたりで談笑しているのだろうか。教諭の足音と気になる女の子と一緒の夜にドキドキしていることだろう。
忍関連の南方院さんとリクいるが。
孤立した施設だ。
変なのに襲撃されなきゃいいけど。
襲撃と言えば、ディープソング団とセラムーとセラメガラも戦いもだな。魔法少女の愛園さんと潮さんは、戦いに参加しているんだ。
危ないことをするなとは言えない。
言えるなら、止めているしな……。
リクくんのほうは大丈夫だろう。
高校生はそれなりに賢いんだし。
今から愛園家に電話しても元龍くんに怪しまれるかな。いや、アキラくんの報告るいでに電話を入れておくか。
潮さんも心配だが全然、連絡先わからん。
「すみませーん」
公衆電話の小銭、あったかな。
◇
『……もしもし』
電話に出たのは元龍くんじゃない。
声は、愛園さんその人のものだね。
「宗馬です。出先から電話させてもらいました。愛園さんですよね。元龍くんどうしてますか?」
『おじさん!? あ〜、パパは……寝てます』
何を寝とんじゃ元龍のバカ野郎め。
こっちはお前の頼みでアキラくんを……まあそんなことは良いのだ。取り敢えず元龍くんへの伝言を頼んだ。
頼まれた問題は大したことなかった。
ということを、愛園さんから伝えておいてくれというお願いだ。公衆電話に10円玉を入れる。
「それじゃ愛園さん、また話ましょうね」
俺が受話器を置こうとしたときだ。
『ちょっと待ってください』
受話器から耳を離していた。
それでも、たしかに聞いた。
俺は受話器を耳に当て直して、10円玉を投入口に落とす。財布から10円玉のタワーを作っておいた。
「どうかしたのかい、愛園さん」
『いえ、大したことじゃないんですが』
こりゃ大したことだな。
エベレスト並みの巨大。
俺は屈んで壁を背もたれにする。ぐるぐるとコードが螺旋を描いている受話器を伸ばした。
『友達てどう作るんでしょうか? 実は潮さんて人がいて、一緒に……色々やっているのですが、こう、嫌われてしまっていて上手くいかないんです』
潮さん……。
でも想像がつくな。
潮さんの友は難儀するぞ。
愛園さんと性格合うのか?
愛園さんは潮さんと友達になりたがっている。潮さんには残酷かもだが愛園さんは絶対に引き下がらないしサイとかイノシシ並みに突進してくるだろう。
頑張れ、潮さん!
しかし友達か……。
俺、友達ゼロなんだが?
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