第3話「ドジャー号冒険隊!」(1)
ドジャー号にソロを案内した。
個室の空き部屋ばっかりだ。
どこを選んでも問題ないということで、ソロはあちこち見て回っている。別にどこかの部屋でなければダメてことはないので。全部使ってもいいんだけどね。
「う〜ん……この部屋にします!」
「破壊工作とかしないならどこでも好きに探検して良いが、ブリッジには非常時以外入らないように。防衛システムに黒焦げにされて、調理装置に放り込まれてステーキに変えられるからな」
「わ、わかりました」
ソロは少し緊張している。
無理もない住み込みだし。
ソロとの通信手段がいるな。ケータイ電話を買わないと。今まで1人しかいなかったから気にしてなかったが、連絡手段は大切だよな。わざわざドジャー号の通信を使わなくても……そんなに困らない……いや、もう1人じゃないんだからな!
必要なものだ。
どんな機種があるんだろ?
ちょっと興味わいてきたな。
「ソロ」
「……」
「ソロ……」
「……あッ! 私でした!? すみません、ソロですが、何か御用ですか」
ソロは今、自分がソロだと思い出したって感じでわちゃわちゃしていた。緊張しているのか手で顔を洗っている。耳の裏まで丁寧にだ。猫かお前は。
ケータイの話はまた今度でいいか。
ソロをあらためて見て気がついた。
猫と思うと野良猫だな。
かなり汚れている。
丸洗いものだ。
「まッ……色々あるがシャワーでも浴びろ。案内するからついてきて。やって欲しい仕事は、またおいおい伝えるから」
ソロはシャワーと聞いてとても嫌そうな顔をする。猫耳が生えていたら絶対にイカのように後ろへ下がっている。
バカなこと考える間に、風呂入らない族であり嫌がるソロを風呂まで案内した。……俺もドジャー号の風呂とか使ったことがないので知らなかったが、重力区画に湯船を張れるバスタブがある。贅沢だなぁ……。
「こら、暴れるな!?」
絶対に風呂へ入らないという抵抗。
猫じみた威嚇の叫び。
爪を立てながら爪を振り回し、今にも締め殺される直前なのかという暴れっぷりだ。お前は猫か!?
あたッ!?
なまじデカいのでパワーが凄い!
裸だ濡れるだ気のしている場合じゃないぞ。鼻が折れたってことはないが、風呂場が血まみれだ。
いてぇ……。
意地にならず風呂キャンセルすればよかったな? 全身ぼろぼろだぞ。猫かお前は……。
しかしソロも全身ぼろぼろだな。
古い傷か。
縫合の跡。
髪のせいで気が付かなかったが、ソロの頭をぐるり囲うように縫合の跡もある。脳みそでも外されたのか?
なんて冗談だが。
迂闊に触れる問題じゃないな。
俺はソロを風呂にいれる。
それだけで訊かないのがベストだ。
頭から足の先までちゃんと洗浄だ。
耳が潰れるくらい絶叫だったぞ。
これ、俺はなんらかの犯罪とかに触れてないよな? ちょっとソロの全身を丸洗いしただけなんだが……アウトかもしれん。
考えながらソロの体の水気をバスタオルで拭きドライヤから温風で乾かす。これこそ自動化してくれ。
「……」
ソロの油でべったりしていた髪がふわふわもこもこになった。しかし彼女はすっかり不機嫌なのだろう。全然口を効いてくれなくなった。
……仕方ない。
仕方ないと理解しても悲しい。
いや、必要なことだからな!!
しかし……。
ソロは人間とは思えないほど、文明に不慣れだな。風呂に入り方もしらないのか。シャンプーの泡立て方も知らないぞ。いや、風呂に入らない文化もあるか。
世界も文化も色々だし。
浅慮だった。
ソロを下に見ているような先入観はよくない。そもそも毎日、風呂に入るというのも贅沢なのだ。
自分を戒めなければ。
ごめん、ソロ……。
「……」
ソロがふてぶてしい裸の背中を見せたまま、足を高々をあげて『毛繕い』をしている。猫だろお前?
それはおかしいて人間として。
だが……毛繕いする人間、も?
わからん。
男じゃないのは風呂に入れてしっかり確認したが、そもそも、ソロて何歳くらいだ?
1歳くらいか?
いかん、猫で計算してた。
15歳くらいはあるだろう。
15年間、野獣のように暮らしてきたわりにはまともだな。ソロは天才かもしれない。
「ソロは可愛いね。よしよし、ちゃんと耳mp拭いた。おめめをゴシゴシするから、んー、して、目を、んー」
「んー」
ソロがギュッと目をつむる。
その隙に顔も拭いてしまう。
「はい、美人さん。美人さんだねー。もういいよ。かわいいソロ、お風呂は終わり。よいしょ」
どっこらしょと。
ソロを解放した。
パジャマの着せたしな。ドジャー号のパジャマは凄いぞ。宇宙仕様だ。
「……お腹空いた」
「腹が減ったか! まあ、あれだけ暴れて、みゃおみゃお叫んでれば腹も空くだろう。よし、手作りとはいかないが、ドジャー号のお料理コックさんにお願いしてみよう。けっこう美味いんだ。俺のおすすめはハンバーグだな」
ミンチ肉で火を通した物が無難だ。
ソロはすっかり口数が減ってしまった。
ソロの部屋になった場所で、レクチャした。壁に組み込まれた自動調理器具を呼んで、好みのメニュをオーダ。ほとんど待ち時間も無く料理の完成だ。
ハンバーグ定食が出てきた。
ライスはあるが野菜抜きだ。
俺はアオムシさんではないのだ。
少々簡素が過ぎるテーブルや内装だが、床で食べるよりずっと良い。俺は受け取ったハンバーグ定食、2人ぶんをテーブルに並べた。
ドジャー号め。
シレッと俺の定食にも野菜が入ってる。野菜は抜きだと言ったのに。ソロのほうに移しておいてあげよう。俺は意外と優しいからな?
「ソロ、椅子に座って。ほらほら、一緒に食べよ。ご飯だ。ハンバーグ定食で同じもの」
「あのこれ野菜が……」
「俺、嫌いなんだよ……」
「そ、そうですか。私もです」
「おぉ! 仲間、仲間。今度からはお互い野菜抜きにしよう。自動調理器具には気をつけろ。しつこく繰り返さないと山ほど野菜入れてくる!!」
「ふふふ」
風呂に入れられてからずっと不機嫌だったソロが、やっと少し笑ってくれた……正直、安心した。
ソロはフォークを握りこむ。
俺はナイフとフォークで適当に切り分けて口に運んだ。それを見ていたソロは、ナイフで皿ごと削りながらフォークを連打して打楽器を楽しんでいる。
「ソロ。食事は楽器じゃない」
「わ、わ、わ、わかります!?」
ソロはハンバーグをミンチにしたところで、ナイフもフォークも使うのを諦めた。皿を抱え込んで、彼女の舌がソースをチロチロと舐める。続いてガツガツと直接食べ始めた。
猫かな?
「待て待て待て! 道具を使え!」
俺はフォークで切り分けたハンバーグを刺し、ソロの口にねじ込んだ。キョトンとした顔でソロはこっちを見ながら、きっちりもきゅもきゅ咀嚼しながら食べている。
お前は猫か。
「美味しい?」
「美味しいです」
「ナイフとフォークの使い方も覚えようか。お仕事の前に、ちょっとした自慢をさせてくれるのを許してはくれるかい?」
「えっと……はい」
ソロは困惑しながらも頷いてくれた。
その前にハンカチでソロの口を拭く。
こりゃあ、とんでもないの拾ったぞ?
大賓乳戦記: cage of the ππsun RAMネコ @RAMneko1
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