第50話
「ねぇ、結月ってなんでここに来たの?」
神社内で賽銭を探し回りながら花蓮が結月に問う。結月は特に考え込むことなく軽い口調で答えた。
「本気になれることを見つけたかったから、だね」
「それだけの理由で?」
「あのまま部屋に引きこもってたって私の人生は何も変わらなかった。もちろん東京にいた時の方が楽ではあったけど、命の危険と隣り合わせの今の方が生きてるって感じがするんだよ」
屋根の上を見上げたり、砂利の中に一円玉が紛れていないかと目を皿にして探す結月の背中を花蓮は見つめる。先ほど結月が絵馬に書いた願いの真意。それを確かめるには、まだ二人の関係は浅すぎた。
「お賽銭見つからないねぇ」
「見つからなきゃ困るのよ……」
不審がられないように自分でも石畳の隙間に目を凝らしつつ、花蓮の頭の中ではあの願いがこびりついて離れない。そんな花蓮の気持ちなど露知らず、結月は制服のスカートに付着した汚れを払って立ち上がった。
「花蓮、そろそろ正攻法で探すのは限界だと思う」
「でもそれじゃ……」
「何もクリア方法はこれだけじゃないよ」
「え?」
そして振り返った結月の瞳を見て花蓮は息を呑んだ。その瞳が今までの彼女とはまるで別人のようだったからだ。
「他人を殺してでも生き残る覚悟はある?」
「……」
結月の質問に、花蓮は即答できない。当然死なずに済むのであればそれが一番だ。だが、自分の命のために他の人間をためらわず蹴落とせるほど花蓮は図太くなかった。
「別に花蓮が殺す必要はないよ。自分でできないなら私がやってあげるから」
「……結月は、殺せるの?」
「うん、殺せる。第一ゲームでもう経験してるし」
結月は顔色一つ変えずに答える。少なくとも既に二度同じゲームをプレイしている結月としては、花蓮が死ぬくらいなら赤の他人を切り殺す方が幾らかマシだ。
「……私、花蓮のこと嫌いじゃないよ。だからここから先は私が勝手にやることだ、いいね」
「え、ちょっと待ってよ……」
花蓮では判断できないと思った結月は自分が見つけた五円玉をやや強引に花蓮に押し付け賽銭箱の前に向かう。結月がやろうとしていることは至ってシンプルだ。言うなれば第二ゲームの再現。ただあの時と違うのは守る側か守られる側かという一点のみ。
つまりはプレイヤー狩りだ。零と唯斗が三十五人殺して結月を助けてくれたように今度は結月が花蓮を守る。入手した刀に手をかけ、他のプレイヤーを待っていると突如として銃声が轟いた。発砲した際のマズルフラッシュで敵の位置を確認した結月は即座に走り出す。そのすぐ後ろの石畳を銃弾が抉り、砂塵が舞った。一瞬視界が遮られ、結月が目を庇った瞬間太ももに熱い衝撃を感じる。
「ぐっ……」
それが被弾した痛みだと気づいた途端、結月はバランスを崩して石畳の上に倒れ込んだ。だがいつまでもこうしてはいられない。痛みを堪えて立ち上がろうとするが失敗し、結局無様に地面を転がって次弾を回避する。刀を支えにして体勢を立て直し足が動くことを確認。前方に視線を向けると、数十分前に刃を合わせたプレイヤーが立っていた。
「よぉ。決着、つけに来たぜ」
「……笑えない冗談だね、本当に」
かくして因縁の対決が幕を開ける。
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