第34話

 あのあと叫び続ける花蓮を怜央が引きずり、話の噛み合わない麗華を負傷しない程度の力加減で結月が蹴り飛ばしてようやくゲームはスタートした。今回はゲーム内容が携帯端末に通知され、意味もなく廃校舎を徘徊するような真似はせずに済む。ゲームのクリア条件は『七つのアイテム』を集めること。制限時間は十二時間で前回に比べればやや余裕のある設定になっていた。

 

「まずは体育館ですね。獲得できるアイテムは『ピンポン球』だそうです」

「え、遠くない? 最初に理科室とか音楽室も回っちゃえばいいじゃん。その方が早く終わるよ」

 

 最短ルートでゲームを終わらせたい結月はそう提案してみたものの、花蓮に全力で止められる。

 

「ダメ! こういうのはしっかり順番を守らないと取り返しのつかないことになるわよ! 一般常識でしょッ?」

「そんな常識あるの? 怜央」

「ありませんね。騙されないで下さい、結月さん。でもまぁ、オカルトの専門家がそう言うならその通りにしましょうか」

 

 結局楽をすると花蓮が発狂しそうだったため、仕方なく規定のルートを選択した。怜央を先頭に四人で廊下を歩いていると突然麗華が口を開く。

 

「あら、ご覧になって花蓮さん。亡霊が授業を受けていますわよ」

「え? いやああぁあぁあ! なんかいる! こっち見たああぁぁあ!」

 

 結月の背中にしがみつき、花蓮が泣き叫びながら教室を指差した。結月はまともに取り合わず、花蓮の頭を撫でてなだめると麗華を睨む。

 

「麗華、花蓮に余計なこと言わないで」

「そんなに冷たくしなくともよいではありませんか。この状況を楽しみましょう?」

 

 やはり、言語による意志疎通は不可能なようであった。

 

「ねぇ、怜央。ちゃんと手加減するから一発ぶん殴っても……」

「ダメですよ、結月さん。気持ちは分かりますが我慢して下さい。いい子ですから」

「零さんみたいなこと言わないでよ……」

 

 こういうところは兄弟だな、と結月は思う。零も結月が愚図る度に「いい子だろう?」とからかって従わせるのだ。

 

 その後も喚き散らす花蓮を引きずり、結月の手に負えない麗華は怜央に預けて廊下を進む。体力の半分を花蓮と麗華に奪われつつ、四人は体育館前にたどり着いた。

 

「ようやく本格的にゲームスタートですね」

「ほ、ほんとにここ入るの? 私は入り口で待ってるからアンタたちだけで行ってきなさいよ。あ、でも一人にはしないで。結月は私と残って!」

「それは無理だよ。全員一緒じゃないと入れないみたいだから」

「そんなぁ……」

 

 すすり泣く花蓮と手を繋いでやり、警戒しながら体育館に足を踏み入れる。すると天井から球状のものが落下してきた。結月は咄嗟に花蓮を突き飛ばし前方に飛び転がって回避する。背後で爆発音が轟くと、床を通して衝撃が結月の元まで伝わってきた。

 

「大丈夫ですか? 結月さん」

「うん、何とか。けど今の何?」

「さぁ? ボールみたいな形でしたけど……」

 

 結月は慎重に爆発物の破片を拾い上げてみる。当然、原型は留めていなかったがそれはテニスボールのようだった。

 

「怜央、これって……」

 

 結月が怜央に破片を差し出すと、一足早く花蓮が口を開く。

 

「……あるのよ、そういう怪談が! 死んだ教職員とか生徒がボールを落としてくるっていう! 一般常識でしょッ?」

 

 嗚咽混じりでやや聞き取りにくかったものの、流石は自称オカルトの専門家。結月と怜央はなるほど、と頷いた。つまり先ほどの現象はその怪談が昇華され、ゲームに組み込まれたものらしい。

 

 原理が分かったならば、次は攻略の時間である。

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