第33話
第四ゲーム、その舞台設定は真夜中の廃校舎。結月は下駄箱の前で目を覚ました。
「あ、お目覚めですね。結月さん。おはようございます」
結月が声のした方に視線を向けると、そこには好青年風の男子高校生が胡座をかいて座っている。見覚えのない顔に結月は首を傾げた。
「えっと、ごめん。どこかで会ったっけ」
「いえいえ。ただいつも兄さんがお世話になってます」
兄、という単語に反応し結月は合点がいったとばかりに頷く。
「……もしかして、零さんの弟さん?」
「ご名答です。改めまして、常磐零の弟、常磐
零とは似ても似つかない容姿のため一瞬気がつかなかった。だが今回のゲームには弟も参加させると零が言っていたことを、結月は今更ながらに思い出す。
「現実世界で会わせればいいのに……」
「まぁそう仰らず。仲良くしてくださいね、結月さん」
「うん、それはもちろん。ちなみに怜央さんって……」
「怜央、で構いませんよ」
なぜか食い気味に訂正された。
「分かった。怜央ってどういうゲームが得意なの?」
「僕は基本的に運ゲーが得意です。こう見えて運はいい方ですので。結月さんは?」
「私は雑食だから何でもやるよ。あえて言うなら脱出系のゲームが好きかな」
二人がゲーム開始時にありがちな自己紹介を繰り広げていると、結月の隣で黒と白を基調としたワンピースに身を包んだ少女が起き上がる。そして校庭側に視線を向けると寝起きとは思えない声量で悲鳴をあげた。
「いやあああぁぁぁあ! 何あれ、何あれえええぇ!」
「え、何、うるさい……」
結月は咄嗟に耳を塞ぎ、恐る恐る校庭を振り返る。するといつの間にか校庭には墓地が出現していた。ついでに青白い火球も辺りを飛び回っている。だが攻撃してくる気配はないし、結月と怜央は少女ほど取り乱さず冷静だった。
「墓と火の玉ですね。この手のゲームにはよくある演出ですよ」
「何でアンタはそんなに落ち着いていられるのよ! 校庭に墓とか普通怖いでしょ!」
少女は怜央に掴みかかると激しく前後に揺さぶりながら叫び続ける。怜央は自力で少女の腕を振りほどき、ため息をついた。
「そんなに怖いならどうしてホラーゲームばっかりやってるんですか。この前の肝試しゲームでもお会いしましたよね、
「私はオカルトの専門家なのよ!」
自分で専門家を名乗るならば、この程度の演出でいちいち悲鳴をあげないでほしいと結月は思う。それよりも二人が知り合いだったことの方が結月にとっては驚きだった。
「んー、なんですかもう。やかましいですわね」
その時最後の参加者が目を覚ます。これ以上事態がややこしくなる展開を避けるべく結月は率先して声をかけにいった。
「おはよう、私は結月。今回で四回目のゲーム参加になる。ハンドルネーム、聞いてもいいかな?」
「あら、冴えないお顔ですこと。流石は四回目の初心者ですわね」
「……」
早くも会話が成立していない。目の前のお嬢様然としたプレイヤーに殴りかかりたくなる衝動を必死で抑え込みつつ結月は再び問いかける。
「ねぇ、ハンドルネーム……」
「無駄ですよ、結月さん。その人、見ての通りの変人ですから」
「嫌ですわ、怜央さん。レディになんて言いぐさですの?」
怜央は付き合っていられないという風に首を横に振った。
「えー、この変人がクリア回数三十回超えのベテランプレイヤーこと『
「誰が変人ですってッ?」
「怜央さん、私はついに先日四十回を超えましたわ。今回は四十三回目のゲーム参加になりますの。レディを紹介する際はきちんと……」
結月と怜央は揃って頭を抱える。きっとこのゲームも一筋縄ではいかないに違いない。
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