第15話
現在時刻、午後の九時。その時は、唐突に訪れた。
『プレイヤーの皆様にお知らせ致します。これより三十分の後、魔物討伐ミッションをスタート。各携帯端末に表示されるエリアへお集まりください。なお、召集に応じられなかった場合や朝を待たずにエリア外へ離脱された際は即失格と見なし、死亡判定と致します。では、ご武運を』
携帯端末から流れる自動音声を聞き、結月と紗蘭は端末を起動する。紗蘭が購入した地図を確認すると、森の中央付近に円形が表示されていた。ここに集合しろという意味らしい。だがエリアはかなり広く、移動に苦労することはなさそうだ。
「あまり初期位置から動かなかったのは正解でしたね」
「うん。これなら三十分後には余裕で到着できる。焦らず行こう」
拠点にしていた洞窟を出て、二人は警戒しながら夜の森を進む。外は月明かりのおかげで思いの外明るく、少し先の道まで見渡せた。とはいえ、森は森。舗装された道など当然なく、木々を避けて獣道を歩かなくてはならない。それでも十分ほどでエリア内へ辿り着き、結月と紗蘭は周囲を見回した。
「この辺りにはまだ私たちしかいないようですね」
「今回の参加プレイヤー数は百人だけど、指定エリアが広い分そこまで固まることはなさそうかな」
それから二十分が経過し他のプレイヤーが姿を見せ始めた頃、携帯端末のブザーが鳴る。討伐ミッション開始の合図だった。ほぼ時を同じくして森の中に何者かの遠吠えが響き渡る。直後、近くにいた男性プレイヤーが悲鳴を上げた。結月が視線を向けると、そのプレイヤーは異形に頭から貪られ既に事切れている。
咄嗟に距離を取り、結月は異形を観察した。姿はイヌ科動物に近いが二本足で直立しており、大きく開かれた口は耳元まで裂けている。まさしくこの世のものではない、魔物だった。
「結月さん」
「うん。あれってNPCだよね」
「はい」
「じゃあ大丈夫。殺そう」
暗い光を瞳に湛え、結月が一歩踏み込む。魔物の眼前で姿勢を低くし足元を狙って抜刀した。お世辞にも綺麗な構えとは言えなかったが、幸いもたつくこともなく刀は抜き放たれ異形の足を二本まとめて切断する。抜刀の勢いに身を任せ、右足を軸にして身体を回転させた結月は次に異形の首へ狙いをつけた。体勢を立て直し、鞘を投げ捨てて刀を両手で構え男性プレイヤーごと切り捨てる。
「悪いね。でももう死んじゃってるんだし、痛くなかったでしょ?」
「……お流石です。結月さん」
背後から紗蘭の声が聞こえ、結月が振り返ると紗蘭は手にしたショットガンの引き金を引いた。均等に散らばった散弾は二体いた魔物をまとめて消し飛ばす。慣れた手付きで装填作業を行いながら紗蘭が口を開いた。
「さほど強い敵ではないですね。まだ一日目だからでしょうか」
「そうだと思うよ。奇襲にさえ気を付けていれば今のところは死ななそうだけど、次から次へと湧いて出てくるのはやめてほしいな。ゴキブリじゃないんだからさ」
わずかに苛立った口調で言い、結月は次の魔物を切り殺す。そして四体目を撃退しようとした瞬間、結月は木の根に躓きバランスを崩してしまった。それでも冷静な思考回路は維持したまま結月はスカートの下のホルスターへ手を伸ばす。
だが一呼吸早く結月が狩るはずだった獲物の眼球に、何者かが投擲した短刀が突き刺さった。
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