第13話
紗蘭に連れられて結月が足を運んだのは街の中心地だった。大きな公園やテーマパークにありそうな噴水が設置されており、プレイヤーで賑わっている。噴水近くのベンチに腰を下ろした二人は携帯端末を開いた。
「地図だと少し見にくいんですが、ここを真っ直ぐ進んだ先が商業エリアです。大抵の日用品はここで揃いますが、どうしても欲しいものがある場合は案内役に仕入れてもらうこともできますよ」
「なるほど……」
元々方向音痴の結月は地図を見ただけでは全く場所が分からない。今は紗蘭と一緒に街を回っているからいいものの、一人では目的地まで辿り着ける気がしなかった。
「あと、そこの曲がり角を曲がるとレストラン街があります。自炊しなくてもバランスのいい食事が取れますのでおすすめです」
「へえ……」
結月は自分が毎日レストランへ足を運ぶところを想像して軽く首を横に振る。週一回の買い出しすら辛かった自分には絶対に無理だ、と強く思った。きっと住む場所が変わっても生活スタイルまでは変わらないのだろう。商業エリアにはコンビニのようなものもあると紗蘭が言っていたし、結月はそこの常連になること間違いなしだ。
「プレイヤーが生活する居住区エリアについてはここに来るまでの道中で説明しましたし、残るは未開発エリアだけですね」
「未開発エリア?」
「はい。運営がまだほとんど開拓していない場所が島の左端にあるんです。とても治安が悪いので近づかない方がいいと思います」
紗蘭曰く、未開発エリアには法外な金額でゲームのアドバイスをする情報屋がいたり、命懸けのゲームに参加したくない女性プレイヤーが売春行為をしているらしい。どこの世界でも裏の商売はあるものなのか、と結月は考える。
「ちなみに、近づいちゃった場合ってどうしたらいいの?」
「その時は来た道を引き返すか、近くにいる方にお金を払って分かる道まで案内してもらうしかないですね」
「分かった。肝に銘じておくよ」
そんな機会が訪れないことを願うばかりだが、何せ結月は引っ越した日にコンビニへ行こうとして隣街まで歩いた経験があるほどの方向音痴である。あり得ない話ではない。
「これで大体の説明は終わりましたが、結月さんは今回の賞金いくらもらえましたか?」
「私は四百五十万。紗蘭は?」
「私は三百万です。初参加でそれだけもらえたら多い方ですね」
やはり賞金額には個人差があるらしい。
「紗蘭ってどれくらいの頻度でゲームに参加してるの?」
「私は二週間から三週間くらい空けて参加してます。結月さんは次のゲームについて何か考えていらっしゃるんですか?」
「いや、特に何も」
「でしたら次のゲームも私と参加するのはいかがでしょう。私は結月さんより経験がありますし、お役に立てるかもしれません」
願ってもいない紗蘭からの提案。結月は二つ返事で誘いを受けた。
「むしろ、それはこっちからお願いしようと思ってたことだよ。けど、いいの?」
「はい。私も一人で参加するより心強いですから。そこで次のゲームを決めたいんですけど、結月さんはどんなゲームがいいですか?」
「私は何でも大丈夫。でも頭使うのは苦手だからできればそれ以外で」
「では、こちらのゲームはいかがでしょう」
そう言って紗蘭は携帯端末を結月に差し出す。表示されたゲーム内容は『森の中で七日間サバイバル』というもの。その他の情報は一切ない。
「これ、どういうゲームなの?」
「さあ?」
「さあ? って……」
「基本的にゲーム内容は明かされないままスタートですので、参加してみるまで分かりませんよ。前回もクローズドサークルを模したゲームとしか伝えられませんでしたから」
情報の乏しさについては諦めるしかないらしい。
「仕方ないね。じゃあ、これでいこう」
その後はレストラン街で食事をし、紗蘭に部屋の前まで送ってもらって解散となった。
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