第12話

 長時間眠った後特有の倦怠感を感じて結月は目を覚ます。ベッドに寝かされた体勢のまま室内を見渡すと、左腕に鈍い痛みが走った。

 

「お目覚めですか、結月様。まずは第一ゲームクリア、おめでとうございます」

 

 声の主に視線を向け、結月は痛みの正体を知る。肩の辺りで黒髪を切り揃えた少女が、点滴の針を引き抜いたのだ。

 

「……案内役、か。随分久しぶりな気がするよ。実際には一週間も経ってないんだろうけどね」

「はい。正確には六日です」

 

 黒いワンピース姿のこの少女に結月は見覚えがあった。

 

『世界トッププレイヤーのあなたをご招待に参りました。命を懸けてゲームをする覚悟はありますか?』

 

 六日前に結月の住むアパートを訪ねてきた少女。あの時の台詞を、結月は一語一句違わず思い出せる。

 

「いかがでしょう、結月様。今回のゲームをプレイしたご感想は?」

「そうだね。今までに経験したことがないような、刺激的な時間だったよ。本気になれたかどうかは分からないけれど、生まれて初めて死んでたまるかって思った。死ぬこと自体は構わない。でも、誰かに自分の命を終わらせられることは許せないってね。こんな気持ちを味わえたのはゲームに参加したからだ」

「では、これからもゲームを?」

「うん、やるよ。というか、やるしかないんでしょ?」

 

 案内役の少女は一度頷くと、スマートフォンを結月に手渡した。

 

「こちらは島内でのみ使用できる携帯端末です。島内の地図やゲームの開催スケジュールなどを確認できます」

「島内ってことは、ここ島なの?」

「はい。フィリピン海に浮かぶ孤島です」

「へえ」

 

 結月はフィリピン海がどこにあるのかもよく理解できず生返事を返す。小学校すら通っていない結月に地理の知識などあるわけがなかった。

 

「それと、今回の賞金をそちらの端末に振り込んでおきましたのでご確認ください。島内で物を購入する際には必須のポイントです」

 

 結月が案内役の指示通りに端末を操作すると、入金の欄に四百五十万ポイントと記載されていた。これが賞金なのだろう。

 

「一ポイント一円換算ですので、使用する際に迷うことはないかと」

「かなり多いね。紗蘭は百万前後って言ってたよ」

「ゲームの賞金はプレイヤーの活躍次第で大きく変動しますから。他に何かご質問は?」


 案内役の少女が点滴を片付けながら淡々とした口調で問う。結月は少し考え込んだもののすぐに口を開いた。


「紗蘭に会いたいんだけど、どこにいるか分かる?」

「紗蘭様でしたらお隣の三〇七号室でございます。お会いになられても問題ありませんよ」

 

 その言葉に甘え、結月は部屋を出る。筋力が低下していそうで不安だったのだが、少しふらつく程度で問題なく歩くことができた。廊下は想像以上に長く続いており、一定間隔でドアが設置されている。ナンバープレートの番号を確認し、結月はドアをノックした。

 

「はい」

 

 すぐに返事が聞こえ、ドアが開かれる。

 

「あぁ、結月さん。お戻りになられていたのですね。よかったです」

「うん、紗蘭も大丈夫?」

「私は慣れていますから」

 

 それもそうか、と結月は思った。つい自分と同じ感覚で心配してしまったが紗蘭は既に三十回以上もゲームを経験しているベテランなのだ。

 

「そんなことより結月さん。携帯端末は支給してもらいましたか?」

「うん、さっき渡されたよ」

「では、これから一緒に街を回りませんか? よろしければ案内します」

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