第11話

 ハンドルネーム、千花。本名は、来栖千花ちか

 

 五人兄妹の長女として生を受けた彼女は、母子家庭だったこともあり幼い頃から弟と妹の面倒を見て育った。最初は姉ゆえの責任感で兄妹の世話をしていた千花だったが、小学校入学と同時に自分の時間が作れなくなり徐々にストレスを抱え始める。

 

 そして千花はネットゲームの世界に逃げた。兄妹が寝付いたあとに、自分だけ夜更かししてゲームをする。初めは三十分で満足できていた至福の時間が一時間になるまでに、それほどの時間はかからなかった。

 

 やがて中学校へ進学した千花は兄妹の面倒などほとんど見なくなる。母親が働き詰めで滅多に家に帰らないのを良いことに、千花は新しくできた友達と夜遅くまで遊び歩いた。

 

 その夜遊びを母親に咎められたことがきっかけで千花は家を飛び出し、このゲームに招待される。命懸けのデスゲームと説明されても自暴自棄になっていた千花がためらうことはなく、場の勢いに流されて招待を受けた。

 

 だが、結月のような覚悟もなくただの勢いで参加した千花はゲーム開始と同時に人生最大の後悔をする。まさか初参加で犯人役を引き当てるとは思っていなかったのだ。他のプレイヤーには極秘のゲーム内容を事前に説明された千花は激しく動揺した。

 

 一週間で三名のプレイヤーを殺害すれば千花の勝利。ただし殺しきれなかった場合には、逆に千花が殺される。

 

 極度の緊張と動揺を悟られてしまったらしく、プレイヤー同士の自己紹介が終わったあと千花は雫に呼び出された。今回のゲーム内容と犯人役がバレたと思った千花は、ゲーム開始前に渡されていたサバイバルナイフで雫を殺害する。人を刺したことはおろか、喧嘩すらまともにした経験がない千花は無我夢中でナイフを振り下ろし続けた。

 

 千花が二日目の朝に見せた涙は決して嘘ではない。自分がしたことが酷く恐ろしかったのだ。

 

 次のターゲットに颯真を選んだのは、雫を殺害する現場を見られていたからだった。颯真は誰にもこの事を話さない代わりに自分と付き合うよう、千花を脅迫。肉体関係を強要されそうになった千花は、受け入れる演技をして懐に潜り込み颯真を殺害する。ためらう心は残っていたが、死への恐怖が千花に最後の一線を越えさせた。

 

(あと一人だけだったのに)

 

 自分と同じ初心者プレイヤー。先に殺した二人より遥かに格下だと侮っていた少女。だが、あの女は化け物だと千花は思う。

 

 薄れゆく意識の中で千花が最後に思い出したのは兄妹の笑顔だった。

 

「あぁ……私、バカだなぁ。一番、欲しかったものは……」

 

 もう手の中にあったのに。そう続く言葉は誰にも届かず、千花は静かに目を閉じる。こうして四日間続いたゲームは三人の犠牲を出し、終わりを告げた。

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